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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

林道の残骸

更新日:2022/10/12

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 前回、古い林道跡に放置された日産の自動車の紹介をしたが、そのつづきである。
 自動車のあったパンケヌシ川には随分前に使われなくなった林道跡が延々とつづいているが、じつはこのような林道の残骸は北海道の山奥のあちこちにある。近年は毎夏、日高山脈で地図なし登山を継続してきたが、ちょっと沢沿いに山を下ると、すぐに不自然な河岸段丘っぽい地形に出くわし、林道跡だとわかる。こうした林道跡はいたるところで崩壊が進み、笹藪や松や白樺の灌木に覆われ、人間の道ではなくエゾシカの道と化している。天塩(てしお)山地を歩いたときも、森にのみこまれた林道跡がいくつもあった。北海道の山は、現役の林道も無数にあるが、すでに国土地理院の地形図からも消されてしまった元林道も網の目のようにきざまれている。
 写真の橋梁は放置自動車のあったパンケヌシ川で見たものだが、道路ほど崩壊しておらず、もしかしたら自動車ほど古いものではないのかもしれない。こういうのを見ると、どれだけの妥当性があってこうした人工物が山中に建造されたのか疑問に思えてくる。この林道が造られた当時、国内の林材にどれほどの需要があったのか。建設されてすぐにこの林道は使われなくなったのではないか。というか、そもそも建設時点で使うつもりはなく、ただ建設のためだけに建設されたのではないか。林野庁はどういう意図と計画でこうした無駄な林道を北海道の山奥にたくさん残したのだろう。
 経緯はわからないが、はっきり言って北海道の奥山は無駄な人工物の傷跡だらけだ。救いは自然の回復力が人間の想像力を超えており、予想以上の速度でこうした巨大なゴミをのみこみ、消し去ろうとしていることである。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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