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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

燻製づくり

更新日:2022/10/26

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 夏の日高山脈の登山ではいつも地図をもたないため、先の展開が読めず、独特の戦略をしいられる。それは岩魚の燻製づくりだ。
 先の展開が読めないことが、なぜ燻製づくりにつながるかといえば、それはこういうことである。
 先の展開が読めないと上流部の渓相もわからないし、源頭から山を越えてそのむこうの谷をくだるときも、どんな谷かわからない。下手をするとドはまりして二、三日かかるかもしれないし、最悪の場合、反対側の谷に魚がいないこともある。二週間以上の長期登山では食料は米、ラーメンなど最低限のものしかなく、魚が食べられないとひもじい思いをして下山したくなる。なので保存のきく燻製づくりは必須である。
 また、日高の沢は本州の沢とちがい、人為的放流がなされてこなかったため、上流部に魚がいない沢が多い。それもあって、下流部でしこたま燻製をつくる必要があるのだ。
 これらの事実に気づき、燻製づくりを積極的に登山戦略に組みこんだのは去年からである。今年は櫓(やぐら)を組み、針金で吊るすという方法を知り、試してみたら、大変有効であった。
 こうしてその土地に適した戦略が開発され、登山がうまくなってゆく。それがまた面白くてたまらない。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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