読み物
橇の完成
更新日:2022/04/27
今年の大仕事である橇作りが終わった。一月頭から製作を開始し、ちょうど一カ月。ひたすら鋸で木材を切り、鉋(かんな)をかける毎日であった。大工仕事はどちらかというと苦手だったが、今回の作業で鋸と鉋がけにかんしてはかなり上達したのではないかと思う。
これまで使っていた橇はムカデ号だったので、今回のはムカデ2号と命名した。見た目がムカデっぽいことと、走る様子も氷や雪の形状におうじてグネグネとたわみながら進むのでムカデっぽい。
前にも書いたが、ムカデ2号は1号より四十センチ大きいのと、先端の反りの角度がちがうぐらいで、見た目も大きさもほとんど変わりない。実際にならべてみると、この程度のちがいのために一カ月も作業したのか、とわれながら愕然とするほどである。それでも満足度は大きい。というのも、ムカデ1号は犬橇のことを何もわからない状態で、手伝ってくれたヌカッピアングアの意見を採用しながら作ったので、半分ぐらいはヌカッピアングアが作ったようなものだったのだが(実際、当時、「ナーラガ(親方)は俺だ」と彼は言っていた)、しかし今回の2号は、犬橇のことをかなりわかってきたうえで、こういう橇が欲しいと思い、すべて自分の手でそのとおりに作ったからである。純自作品としては第一号といえる。
外見にかんしては納得のいく出来栄えだ。左側の側板の先端が外側にやや反れているが、これは木材が家のなかで乾燥したときに曲がってしまったものなので、仕方がない。それ以外はほぼ完璧で、しばしば、眺めては、ウットリしている。
肝心の乗り心地はどうか。先日は初の試走に出かけたが、正直、これまでの1号とのちがいは全然わからない。すこし重い気がしたが、氷上にぼさぼさの雪が五~十センチつもっていたからだと信じたい。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。