Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

エスキモーパーカ

更新日:2022/04/13

 今シーズンは犬橇用の防寒衣類として現地風のエスキモーパーカを自作した。橇や鞭などの犬橇道具、あるいは手袋(アッカチ)や靴(外靴はアッカチ、内靴はアラッハ)などの革製品は自作したものを使っていたが、本格的な衣類をつくるのははじめてである。日本を出る前に型紙をおこし、試行錯誤しながら一週間ほどかけてミシンで縫った。中綿は大手アウトドアブランドに相談したところ、提供してくれた。
 現地に来て実際に使ってみて、出来は八十点といったところだ。袖があと数センチ長くてもよかったのと、想像以上に表地の摩擦がつよく、脱着がやや面倒なところが失敗点。だが、あとは着心地は悪くなかった。暇なときに少し改良したら何年かは使えるだろう。
 パーカ型の防寒具のことを現地の言葉でアノーガという(アノラックのもとになった言葉)。現地のイヌイットは、町でつかう普段着は既製品を着用しているのだが、犬橇や狩りの道具はほぼすべて自作する。つまり正式なユニフォームは自作品。タフな環境でつかう装備は自作品のほうがすぐれていると感じているのだろうか。あるいは自作品は補修や修理がしやすいところが尊ばれているのかもしれない。とにかく、こういう環境のなかにいると、大手アパレルメーカーが製作した衣類を着て活動していると、その活動自体がちゃちく思えてしまう。衣類の性能云々より、自作した装備で活動すること自体に価値が生じてくるのである。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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