Nonfiction

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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

理想の橇をめざして

更新日:2022/03/09

 今年は新しい橇を作ることにした。
 犬橇をはじめて四シーズン目。今使っている橇は一年目に村の友人であるヌカッピアングアの指導のもと、製作したものだ。これも悪い橇ではなく、大きな不満はないが、三シーズン経験して自分なりにいろいろとわかってきて、改良したいポイントが出てきた。
 犬橇の旅で一番苦労するのは乱氷やサスツルギといったデコボコした不整地面である。不整地面を越える場合、基本的に橇が長いほうがデコボコの段差を殺せるので有利である。どれだけ長くするかは微妙なところで、あまり長くすると取り回しがわるくなる気もするので、これまでのより四十センチ長くすることにした。
 もう一つのポイントはオウンナとよばれる先端部分の形状で、ここに各人の考えや好みが凝縮する。今回は前の橇より反りあがりの角度をかなり浅くすることにした。反りあがりの角度が急だと、乱氷やサスツルギにぶつかったときの衝撃が大きくなる。角度が浅ければ、衝撃を殺せるので、犬もそのぶん楽に越えられるはずだ。ただし、先端が長くなると構造的に弱くなるので、十分に補強する必要があるだろう。
 年明けから作業を開始。前の橇を参考にオウンナの型紙をつくり、慎重に手引きの鋸(のこぎり)で板を切断してゆく。側板本体とオウンナとの接合部分が重要で、ここにがたつきがあると衝撃で壊れるので、鉋(かんな)で真っ平らにしなければならない。それからひたすら鉋をかけて、じわじわと形を仕上げてゆく。四日ほどで鉋がけを終え、形は決まった。今のところ理想的な橇が出来そうな気配。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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