読み物
ユキノシタ
更新日:2022/01/12
ユキノシタとはエノキダケのことである。天塩(てしお)山地の濁流探検では、川の濁りのせいで竿を出す気にもなれなかった。アメマスやニジマスをたんまり釣って楽しい山旅、というのを想像していたのだが、釣れたのは一週間でたったの二匹(ヤマベの幼魚はたくさん釣れたが全部リリースした。後から聞いた話だと、幼魚は非常に美味で、秋のこの山域ではこのヤマベの子供をねらって釣りにくる人が多いらしい)。魚のかわりに私の腹をみたしてくれたのは、倒木に群棲する大量のユキノシタであった。
見た目はとても旨そうで、あきらかに食用という感じだが、キノコは今年から勉強しはじめたばかりで自信がないので、一応、持参したハンディ図鑑で確認する。ナメコと似ているが、柄がほそくてやわらかいところが大きなちがいである。といっても、どちらも食用キノコの代表なのでまちがっても問題ないのだが……。
味噌汁にしてもいいが、魚の素揚げ用に油を多めに用意していたので、醤油と塩で炒めることが多かった。ご飯が何杯でも食える(といっても一食一合しかないが)。魚より旨いぐらいである。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。