Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

天塩偵察のつづき

更新日:2021/12/22

 泥川の多い印象であった天塩(てしお)の山々であるが、鹿や羆(ひぐま)といった大型獣の気配は濃厚なものがあった。毎年夏に、地図なし登山でかよう日高山脈も鹿の獣道は濃いが、姿を目撃することはそれほど多くない。それが秋の天塩では、それこそ一日に二回も三回も見かける。しかも獣道をたどったり、気配を消してあたりを探ったりしたわけではなく、ただ、いつもの山登りとおなじように、ばしゃばしゃと沢を遡行しているだけなのだが、それにもかかわらずしょっちゅう行き合うのである。二、三十メートル先でじっと私のことを見つめていることも二度三度あった。季節的な要因かもしれないが、こんなに鹿を見た山行ははじめてだった。
 鹿だけでなく羆の足跡もかなり濃い。とくに途中で雪が降ってからは羆の足跡が目立つようになった。大きいのもあれば、小型のもあり、親子連れのもある。天塩や増毛(ましけ)山地のように積雪量の多い山域は、かつて春熊猟がさかんだった時期に獲りつくされて頭数が激減したと何かで読んだことがあるが、すでに回復し、かなりの頭数が棲息しているようだ。これだけいれば将来の犬橇狩猟の候補地としてはいうことはない。結果的には成果の多い秋の北海道旅行となったのだった。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

  • オーパ! 完全復刻版
  • 『約束の地』(上・下) バラク・オバマ
  • マイ・ストーリー
  • 集英社創業90周年記念企画 ART GALLERY テーマで見る世界の名画(全10巻)

特設ページ

  • オーパ! 完全復刻版
  • 『約束の地』(上・下) バラク・オバマ
  • マイ・ストーリー
  • 集英社創業90周年記念企画 ART GALLERY テーマで見る世界の名画(全10巻)

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.