元祖・山ガール鈴木みきの50歳からの女の下山道

第4回

簡単にして最強の運動、「歩く」

更新日:2026/09/09

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前回の更新から手首・足首・首を回していた方はそろそろ次のフェーズに進んでもいい頃合いでしょう。今回は「歩く」提案です。

私は少し特殊かもしれませんが、交通費をケチるために「歩く人」になりました。振り返ってみるとそれは電車通学をはじめた高校時代から交通費を浮かせようとする兆候があったと思います。もっとも歩いていたのはイラストレーターになりたての30代、登山をはじめた影響もあると思いますが、どこの出版社へも徒歩かママチャリで現れることで知られていました。
歩いて行きたかったというよりは、あくまでも節約のためでしたが、そのうちに移動手段の第一候補になり、玄関を出たら自然と進行方向は駅ではなく目的地へ。片道1時間程度であれば徒歩圏内と脳が認識していたので、一緒に出かける友人には「みきちゃんの『歩いて行ける』は信じない」とよく言われたものです。

50歳を超えた現在は、自分のだけでなく介護中の母親の用事が追加されたこともあり、「時は金なり」を初めて理解して以前よりケチらず電車に乗るようにしていますが(昔の私ってヒマだったんだな~)、おそらく同年代と比べると徒歩移動が多い生活をしていると思います。それは自分に「課している」というとストイックになってしまうけど、あえてそう「仕向けている」部分は大いにあります。

というのは、母親の介護で実家に戻ってきた当初、てっきりずっと母に付きっきりになると思ったんです。初めての介護ですし、私にも余裕がありませんでした。しかしその前から請け負っている仕事もありましたし、できればイラストレーターの仕事も続けたかったので、実家とは別に仕事場を借りることにしました。引っ越しを急いでいたため、条件に合うものがさほど見つからず、2~3件を矢継ぎ早に内見、そのなかで最も実家から距離がある物件にしました。

実は30代だけでなく40代でも一度、実家近くに数年間仕事場を借りていたことがあったのですが、あまりにも近くて仕事中の機嫌を家に持ち帰ってしまうという弊害があったのです。その反省を踏まえ、距離があるのはマイナスではないと思っていました。むしろ今回はそうでもしないと外を歩く機会がなくなるんじゃないかという恐れがありました。

幸いにして、仕事場と実家の道中にはスーパーが数軒、コンビニやカフェなどもあり、その仕事場に通うことが生活の一部になりそうなシミュレーションが容易にできたことと、電車やバスなどダイレクトに繋ぐ公共交通機関がないのも決定打でした。仕事するためには歩かざるを得ないのです。

その後、本格的に介護生活に突入し、仕事場に通う以外の“意図した”運動時間がゼロになった1年間、それほど体力を落とさずに済んだのはこの徒歩通勤があったからだと信じています。
具体的にいうと、仕事場までは片道約20~30分、歩数計は最低でも2700歩を示します。帰りはスーパーに寄ることが多いので、往復で平均6000歩前後といったところです。
昔から健康のためには「1日1万歩」が唱えられ、それにはまるで及んでいないわけですが、このくらいが私にとって“通うのが面倒になるか、ならないか”の絶妙ライン。これ以上遠かったらちょっとしんどかったと思うので、この物件に決めた自分を褒めてあげたいです。「たまの1万歩より、日々の6000歩」。私はそのほうがしっかり実を結ぶと思っています。

東京に戻る前はどうだったかというと、完全に自宅兼仕事場でしたから、歩くための「散歩」を日課にしていました。とはいえ、行かなくても誰になにを言われるでもないし、気が進まなくて行かない日も多々ありましたが、私は長年の在宅勤務の経験から家から出さえすれば歩き出す自分の性格を知っているので、どうにかこうにか自分を説得して半ば無理やり外に出る努力をしていました。そうでなければ歩くチャンスはゼロですもん。でもそれなのに、ついサボり癖がついて何日も家を出ないなんてことが定期的に起きます。そういうときって、仕事はしているにもかかわらずなぜか「今日なにもしてない……」と思っちゃうんですよね。それが続けば、「からだに良くないなぁ」「だから私はダメなんだ」みたいな罪悪感も生まれちゃったりなんかして……。

運動を習慣化しようとすると、できなかったときに地味にメンタルに響くので考えないほうがいいんです。例えば「この時間になったらやる」「火曜日はやる日」とドライに、決めちゃったスケジュールに、なんの言い訳もなんの意向も取り合わず、自動的にやらされないと。スタート時に感情はいりません。できなければ「今日はできなかった。おわり」と割り切って、決してその埋め合わせをしようとせず、次のスケジュールから何事もなかったようにまた始める。

それは日頃マルチタスクが求められる私たちの年齢的な問題もあって、やるべきことに自分が追いつけていないなかで更に運動する時間を捻出しなければとなると、スケジュール繰りが面倒になって運動自体を諦めてしまいかねません。それに更年期は気持ちの落ち込みが出やすいから、その波に「運動をやりたいか、やりたくないか」なんていう自分の気分を合わせようものなら「やりたくない」に針が動いてしまうのは当たり前です。

だからこそ、日常に組み込んでしまう。
それにいちばんフィットするのが「歩く」ことなんです。

仕事に行く、家族の送迎をする、スーパーに買い物に行く、ゴミを捨てに行く……どんな小さな行動でも家を出るときは歩かざるを得ません。
それがマイカー移動の方も多いかもしれませんが、それを徒歩にするだけ。もしくは公共交通機関を利用する。そうすれば歩く時間が格段に増えます。物理的に無理であっても、その部分が運動になるってことだけ覚えておいてください。

話がちょっとそれますが、都会に住んでいる人のほうがぜったい歩いていますよね。
車がなくては暮らせない地域だと、“玄関開けたら2分(以下)で車内”のごとく、ごく自然に車に乗り込んでしまいます。私も以前、目視できる距離のゴミ収集所に車で行く地域に暮らしていたので分かります。で、たまに東京に戻ってあちこち電車移動すると夜は脚がパツパツ、毎回筋肉痛必至。いやいや、是非とも電車で通勤されている方はそれを活かして運動と結びつけてもらいたいですね。いずれ「歩く」以外で通勤時にできることを提案していきますね。

閑話休題。
「運動習慣をつける」ためにやってほしいこと。
それは、とっかかりに最も適していて、その後なにを始めるにしても基本のアクションとなる、簡単にして最強の運動。「意識して歩く」ことです。

ひと駅手前で降りて歩けとか、スポーツウェアに着替えてウォーキングをせよ、なんてことは言いません。私たちは忙しい。普段歩いている時間を「運動」と捉えてほしいのです。

ではなにに「意識して」歩いてもらいたいかというと、まずは「歩いている」ことを意識してみてください。
「左足が前に出て、次に右足が前に出て、また左足が……」当たり前のことですが(そうじゃない人がいたら特技です)そんなことからでいいです。そのうちに、足のどこで着地してどこから離れていくかとか、左右差があるかとか、気付きが増えていくと思います。そうしたら建物のガラス窓に映る自分の歩き姿を見てください。猫背だなぁとか、反り腰気味かなぁとか、その歩き姿が老けて見えたら歩き方を少し矯正してみましょう。

全行程をこの通りに歩かないでもいいです。例えば「駅から職場までの100mはココに気をつけよう」のように、短い距離で構わないので、その時々の意識するポイントを決めて歩くといいと思います。「歩く」という動作はからだ全体が連動していますから、一部分でも意識すればおのずと他の部分もつられてこれまでとは違う動きをするのを感じられるでしょう。意識できるポイントが増えていくと、からだ全体に意識がまわるように変化していきます。

ガラスに映った自分の歩き方が老けて見えた人ほど、この姿勢をキープするのはつらいと思います。
人によっては筋肉痛になる可能性もありますし、なんだかお腹のお肉や皮膚が引っぱられて表面積が足りていない、もしくは余剰していると感じる人も少なくないはず……。それについて今からおそろしいことを言いますね。その感覚……「当たってます!」。するどい!ヒューヒューだよ!

実際に人のからだは日々細胞が代謝して生まれ変わりを繰り返していますが、必要がないなところをわざわざ増設するようなことはしません。皮膚を例にすると、お腹の皮膚はいつもの姿勢で足りるくらいに作られていきます。急激なダイエットで皮膚がたるむのを見たことはないでしょうか。それと同様にして逆に、猫背の人が胸を張ればきっとお腹の皮膚が薄く伸ばされたように感じるでしょう。

これは実際に私の体験でして、以前あるお仕事で「姿勢改善講座」を受けたときに、先生から「鈴木さんは上半身前面の皮膚が、いい姿勢に対して足りていない」と言われてショックを通り越して笑ってしまったことがあります。それから意識するようになり何年も経った今はたぶん足りていると思います(思いたい)。

この意識した歩き方を続けていけば、今度はこのかたちを皮膚もお肉も覚えていきます。すると意識しなくても楽に歩けるようになります。体ってすごいですよね。でも申し訳ない、明日明後日にはそうなりません。何ヶ月もかかる復興工事です。だからこそ嫌でも続けられる「歩く」が簡単にして最強の運動なのです。わかっていただけたでしょうか。

おうおうおう、そんな強度じゃ物足りないじぇ~!なんて、運動が得意な人からの声が聞こえてきそうです。私を基準にするとこれも運動なのですが、もう少し負荷をかけたい人のためにもう一声。
履く靴で強度が変わります。

最近はソールの反発力や形状で背中を押されるような推進力が得られるウォーキングシューズが人気がありますが、今回提案した「歩く」ことは有酸素運動というよりも、歩き姿勢に寄ったものになるので、その強度を上げるには逆にソールが薄くて柔らかく、凹凸がないぺったんこな靴を履いてみるといいでしょう。その理由は自分自身に推進力が委ねられ、歩き方のクセがあると歩きにくい靴だからです。足裏の感覚がより得られ、より意識して考えながら歩くはずです。
なかでも素足感覚に近く爪先部分が開放された「ワラーチ」というサンダルが、健康志向の人やランニングのトレーニングシューズとして知られています。通勤には適さなそうなので、これは休日向けということでおすすめです。

運動強度を上げる必要がない人も、スニーカーや革靴、パンプスでも、できるだけ足指5本で地面を掴めるような爪先に余裕のある靴がおすすめです。私ですと、ほぼ毎日ハイキングに行けるような、比較的ソールがしっかりとしたスニーカータイプかサンダルを履いています。もともと緩い靴が好きなのもありますが、若いころから爪先部分が自由に動かせることを靴選びのポイントにしています。爪先を緩めるには、サイズを上げるのではなく、そのブランドの靴型が自分の足のかたちに合うこと大切です。なかなかピタリと合うブランドを見つけるのは果てしない旅ですが、合うものが見つかれば一生ものです。
靴探しするときは、おおまかに日本(甲高)・北米(ゆとり)・欧州(細身)のブランドを履き比べると、自分の足のかたちの傾向が分かります。もし足のかたちに特別なお悩みがあるならシューフィッターさんがいる靴屋さんに行くのが近道です。靴次第で歩き方だけではなく立ち姿勢が変わりますよ。

というわけで、今回は私の体力維持の要、「歩く」ことについて書きました。

今日も仕事場まで歩いてきましたが、暑くとも暑いなりの、寒いときは寒いなりの、何度歩いた道であっても日々発見があります。それは風景や季節の移ろいだけでなく、自分の体調や気分も見える時間になっています。「歩く」には、単なる「運動」だけではない効能も多くあります。次回はそんなことを書いていきます。

著者プロフィール

鈴木みき(すずき・みき)

1972年東京生まれ。イラストレーター、執筆家、防災士、ウィメンズヘルスアドバイザーⓇ。24歳のときに訪れたカナダで山旅の魅力にはまり、帰国後に自ら登山専門誌の取材同行モデルに応募し本格的に登山をはじめる。山小屋やスキー場のアルバイトをしながら、全国の山に取材に出かけイラストや山行記を雑誌に寄稿。コミックエッセイ『悩んだときは山に行け!』(平凡社、2009年)以降、山に関する著書を多数出版。近著に『キャンプ気分ではじめる おうち防災チャレンジBOOK』(エクスナレッジ、2023年)、『知っている山からはじめよう! 大人の日帰り登山』(講談社、2024年)、『更年期の歩き方――アラフィフ山女子、不調と向き合う』(講談社、2026年)。国内外での登山ツアーの企画同行、講演、メディア出演なども行っている。

note「鈴木みきmagazine」note.com/mt_suzukimiki
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