元祖・山ガール鈴木みきの50歳からの女の下山道

第3回

いきなり運動してはいけない

更新日:2026/07/29

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「運動しなくちゃ……」と頭をもたげている中年女性のみなさま。どんな運動をしなくっちゃとお考えですか? ウォーキング? ヨガ? カーブス? チョコザップ?……へんに選択肢が多い昨今、何が自分に合っているのか迷っちゃいますよね。特別ピンとくるものもないし、正直やる気もないし。

そのくせ運動した暁には数年前のお洋服がまた着られちゃうかも! とか、テレビでよく観るビフォー・アフターのアフターになっちゃうかも! とか、とりあえずまだソファで寝転んで煎餅かじっている段階でも妄想しちゃったりして……。

運動を始めない理由はいくつもあって。なんならいくつでも出てくるんですけど。
問題は「いつ」運動をするかですよね。いつもより早起きして? それとも仕事の帰りに? NO WAY! どっちも無理です。やりたくない。お次は「どこで」運動するかも問題。近所で誰かに会うのも何となく気まずいし、かといって遠くだと続かないかもしれない。これ意外と決められないんですよね。それから「いくら」かかるのかも気になるところ。スポーツクラブやレッスンに通えば月々にそれなりにかかります。アッチが安いか、コッチがお得か……調べているうちに何日も日が暮れます。会費が無駄になりそうな未来予想図がうっすら見えているからなのかもしれません。テールランプ5回「つ・づ・か・な・い」のサイン。

結局、義務感や強迫観念からやろうとすることって「やりたくない」んですよね。やる気はよそに見せつつも実際はそこまでのモチベーションがないというパターンが多い。だってやる必要がないから。運動しなくても楽しく生きられますもん。

年齢性別関係なく、世の中には運動が得意でスポーツを楽しめる人がいます。その一方で、山に出会う前の私のことですが、運動が苦手で息が上がるのが苦行としか思えない人もいます。この違いは明確で、楽しければ人はやりたくなるものですから、運動することが楽しく思えなければ「やりたくない」は当たり前の拒否反応です。

なのに、それに背いてでも「運動したい」と思うのはなぜでしょう?
きっと、「痩せたい」「健康的になりたい」「運動不足だと感じる」。このあたりが理由のトップ3かなと思いますが、全体に漠然と漂っているのは「運動しないといけないと思うから」という呪縛みたいなもののような気がします。でもまぁ、先般の問題点を盛り塩のように並べて、「運動」という眩しいものがなるべく近寄ってこないようにして、そっぽを向いていたいわけです。

私が山登り以外で、日常的に運動を始めたのは40代になってからです。そして今50代になって当時より運動しています。運動への苦手意識は変わらずあるにもかかわらずにです。何故だと思います? それは、「切羽詰まったから」です。

40代で運動を始めたキッカケは、田舎に引っ越して100%自宅で仕事をするようになり体力が落ちたことでした。移動はもっぱらマイカーですし、本を作る仕事は終日座りっぱなし、おまけにものすごく寒い家だったので代謝が落ちて動くのも億劫になってしまいました。このままでは山に登れなくなると焦りました。私にとって山が登れなくなることは仕事を失いかねない由々しき事態です。そのときしていた運動なんて今思えば運動ともいえない程度の強度でしたが、それが習慣化して、その後田舎から街へ引っ越してからも意識的に続けられました。ところが、コロナで中断を余儀なくされ、50歳のときに親の介護で東京に戻ったときには運動時間が皆無に。しかし1年経つころに再開。そのキッカケは重い更年期症状を緩和するためでした。

とはいえ、どちらのときもすぐに行動に移せたわけではなくて、できないことを嘆きつつも「いつ」「どこで」「いくら」がずっと脳内で押し合いへし合い(もともと優柔不断です)、そうこうしている間に状況が悪化していき四の五の言っていられないというか、これが最後の砦だと腹をくくって重い腰をなんとか押し上げた記憶があります。
だから「やりたくないこと」でも、人は本当に必要だと感じれば「やる」んだと思うんです。それが「義務感」からだとしても、運動はやれば確実に見返りがある。それが分かると、断続的であってもやりたくなるんじゃないかな。ちなみに、運動弱者(幼少期に運動している姿を笑われてきた者)が運動を始めると、運動している自分に感動して、運動中にドヤ顔になっちゃうんですよ。で、以前の自分を振り返って「やればできた。やらなかっただけ」とか言うようになります。実は運動している自分にこっそり憧れてたんですよね(私だけでしたら全運動弱者の方、ごめんなさい)。

あとはね、運動をなかなか始められない人って完璧主義なんじゃないかと思うんです。何かを始めるとき長く続けるのが前提なんですよね。だからハードルが高いし二の足を踏んでしまうというのもある。逆に始めても辛かったり、すぐ結果が出なかったりしたらスッパリ諦めて止めてしまうってこともさもありなんです。だから私は言いたいの。「いきなり運動してはいけない」と。

学生時代に運動経験があるなしに関わらず、10年以上意図した運動をしていない中年女性は、自分が想像している以上に筋力が衰えています。家事に育児に介護に仕事にと、体力はけっこうあるんです。でもそれも運動していなければこれまでの酷使で目減りしてきているはずです。

私は時々、まったく運動習慣がない同世代や目上の方々を山登りに連れていく機会があるのですが、「運動していないから不安」と言う割にみなさん何時間も山道を歩き切りますし、体力面で問題があることは滅多にありません。ですが筋力面では苦労する場面をたびたび目にします。例えば、大きな岩をヨッコイショとよじ登れないであるとか、下り道で膝が笑って踏ん張りがきかないなどです。膝の痛みに効くというサプリの通販CMで耳にしたことがあるかもしれませんが、関節の軟骨や関節の滑りをよくしクッションの役目をしている関節液は、膝に限らず年齢と共に質が落ち減少します。それを補えるのは、筋肉だといわれています。原理は単純で、関節にかかる負担を関節の近くの筋肉に分担してもらうわけです。一方、筋肉は年齢と共に付きにくくはなるものの鍛えれば増えるという、なんでもかんでも減っていってしまう加齢という現象のなかにあって、とても希望のある体のシステムです。但し、鍛えればの話です。

それを踏まえて、中年が運動する命題は「筋肉の維持」にあると私は思っています。
もし生活や体調に支障がなければ、ダイエットを目的にしないでほしいです。脂肪は我々に足りていない女性ホルモンに似た役割もするので、潤いのためには一生懸命に痩せようとしたらダメ。運動しているうちに棚ボタ的にちょうどいいフォルムになります。筋肉があれば姿勢がよくなりどんな体型でも健康的に見えます。もちろん運動不足は解消。いわゆる「筋トレ」では、なんとメンタルが整うことが実証されていますから、心身ともに健康に近づけるというのがまたいい。

筋肉も残念ながら何もしなければ減っていきます。私は昔から痩せ型で、お肉を増やすのが難しいタイプ。これが減っていったら“ホネホネ・ロック婆さん”になってしまうので、とにかく減らさない「維持」を目標にしているのですが、もともとお肉がある方や筋肉が付きやすい方は効果が早めに目に見えると思います。羨ましいので、運動を始めてその効果を私に自慢してください。

では、ここでようやく「いきなり運動してはいけない」の真意に迫っていますね。
どんな運動を始めるにしても、例えばウェアを揃えたり体験会に行って即入会したり、意気込んじゃうと思うんです。満を持すというか、気合い入れちゃうみたいな。これはスタートアップに大事なテンションではあるのですが、10年以上運動していなかった中年の体でいきなり“本チャン”みたいな運動をするのは危険です。

きっと久しぶりの運動は自己肯定感も上がって、意外とできちゃって、気持ちイイ~! なんてなっちゃうと思います。おそらく4回目くらいまでは……。
気持ち的にはイケると感じても、体のほうは疲れています。イメージは何年も動かしていなかった車をいきなりアクセル全開で走らせたみたいなことです。エンジンルームは油性のなにかがこびりついていて、燃料も足りていない。経年で緩んだネジには過大な負荷がかかり破損寸前。突然エンストするか路上で煙を出すかは時間の問題です。

健康のために運動するのに、ケガをしたり負荷で病気になったり疲労で生活に支障が出ては元も子もありません。我々には「準備運動」が必要なのです。お休みさせていた体の機能を目覚めさせるために。忘れかけていた反射を神経に思い出させるために。

健康維持のための運動は「継続」が鍵です。最初から頑張り過ぎて途中で長い時間があいてしまうより、週に一回でも、月に数回でも長く続けたほうがいいのです。まずは体を動かさずにほぐすところから始めましょう。
とりあえず、なんの運動を始めようか迷いながらでもやってもらいたいのは「足首・手首・首まわし」です。

こんな簡単なこと! と思うかもしれませんが、私が運動しなくなって何ヶ月も経ったある日、自転車に乗ると首だけで後ろを振り返れなくなっていてビックリしました(体ごと動かさないと後ろが見えない)。足首はどの運動をするにも必ず使い、毎日自重以上の負荷がかかって疲れが溜まりやすい部位です。意識しないと日常生活で回す動きはほとんどありません。だから回すと引っかかるような強ばりを感じる方が少なくないと思います。強ばりはケガのもとです。手首は球技以外で運動に大きく関係するわけではないですが、実は別の理由があります。バランスを崩したり、転倒したりするときって咄嗟に手が前へ出るものなんです。その手をついたときに手首が固いと指や手首を骨折しやすいんです。これは登山前の準備体操でも必ず行う大事なことです。

これに加えてもし可能であれば、屈伸や背伸びなど、思い浮かぶ準備体操を単体で構いませんので気付いたときに取り入れてみてください。「ラジオ体操」「テレビ体操」が秀逸であるのは周知の事実。それを続けられるなら、もはやそれが「運動」です。それができるなら最善ですが、私からの提案はそこまで真面目にやらずとも、まずは「気付いたときにちょっとやる『マインド』」を身に付けてもらえたら。「運動習慣」はなんだかんだいって「メンタル」が最も関係していると思っているので、「やりたくないなぁ」が再発しないような強度で始めてほしいんですよね。

毎日行ったとしたら最低で1週間、私なら2~3週間は様子をみます。元々運動していた人なら短期間で体を動かせる感覚が戻ってくると思いますし、いくら運動音痴でも足首を回すことを続けるうちに足の軽さが実感できると思います。そういうちょっとした変化、効果、やったことに対する見返りがあったことに気付いて、もう少しやってみようかな、やってよかったな、なんて思い始めたらこっちのもの。運動を続けるための動機が自然に生まれるはず。私はそれこそが「準備運動」だと思うのです。

著者プロフィール

鈴木みき(すずき・みき)

1972年東京生まれ。イラストレーター、執筆家、防災士、ウィメンズヘルスアドバイザーⓇ。24歳のときに訪れたカナダで山旅の魅力にはまり、帰国後に自ら登山専門誌の取材同行モデルに応募し本格的に登山をはじめる。山小屋やスキー場のアルバイトをしながら、全国の山に取材に出かけイラストや山行記を雑誌に寄稿。コミックエッセイ『悩んだときは山に行け!』(平凡社、2009年)以降、山に関する著書を多数出版。近著に『キャンプ気分ではじめる おうち防災チャレンジBOOK』(エクスナレッジ、2023年)、『知っている山からはじめよう! 大人の日帰り登山』(講談社、2024年)、『更年期の歩き方――アラフィフ山女子、不調と向き合う』(講談社、2026年)。国内外での登山ツアーの企画同行、講演、メディア出演なども行っている。

note「鈴木みきmagazine」note.com/mt_suzukimiki
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