

第44回
道連れ、カフェラテ、祝い酒
更新日:2026/10/28
- 2025年6月某日 三大将
- 新宿の「犀門」でKADOKAWAの山崎と似田貝(ニタガイ=そういう名なのです)、そのOBで今は独立している宍戸という顔ぶれで、ある出版イベントについての打合せ。怒涛のビールわしわし飲み。この3人を「カドカワ三バカ大将」と呼んでいるのだが、そのバカぶりを遺憾なく発揮してくれて面白い会議になった。
- 6月某日 生まれちゃってすいません
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朝から電話が鳴る。竹田からだ。雑魚釣り隊の連中が昨日アジ釣りに出ていて、その釣果報告だった。
「丸々と肥えたアジが大漁でえす。本日は刺身にタタキに塩焼きにアジフライ!」
はずむ声で報告してくれたが、「マグロはあるの?」と聞くと「あんたねえ、我々がアジ釣りに出てるのにそれは野暮でしょう。あとで正式に文句を言います」と通話を切られた。マグロよりアジをひいきにした心の狭い奴だ。
今日はぼくの誕生日で、池林房を貸し切りでそのお祝いをしてくれるという。彼らは「前日にみんなで釣りに出ます。当日は派手に飲みましょう。お誕生会です」と言ってくれた。お誕生会など恥ずかしいから小規模でいいぞと言っておいたが、正月に入院していたぼくの快気祝いも兼ねているというので、幹事の竹田に任せておいた。
そんなことを純ブンガク友達である読売新聞のT記者に話したら「それはいいですねえ、実はうちの妻は椎名さんと同じ誕生日なんです。ドナルド・トランプと椎名誠と同じ」と言うので、合同誕生会にしようと話は早く進んだ。「お誕生会」などとあらためて言われると、なんだか照れくさくしゃらくさい。そこへ、T記者の奥さんという同士というか道連れができたので、やや安心した。
T記者は息子さんと娘さんも連れてくるという。するとこの連載担当の編集Sも家族で参加するという。結局、30人規模の宴会になってしまった。
肴は釣り立てアジのフルコースに、近所の店からマグロの差し入れもどーんと届いた。しかもその骨の周りの中落ちをスプーンで集めてネギトロにしてくれるという。誰かが「子どもたち、お仕事をお願いします」と号令をかけると、子ども3人がスプーン片手にマグロの骨周辺の身を楽しそうにこそいでいた。我らの宴会ではなかなか見られない光景だった。
めいめいが祝い酒を持ってきてくれて、ビールに焼酎、日本酒にワインにシャンパンと、ほとんど王宮のような宴会だ。飲んで食っているうちに、ギターを抱えたザコがバンド仲間のビールボーイズを引き連れて「ハッピーバースデー」「サントリービールのCMのうた」「雑魚釣り隊の歌」「男はつらいよ」などを、景気よくやってくれた。
思い返せば、子供の頃に「お誕生会」なんてやってもらったことがあったかなあ。荒っぽい土地に住んでいたので、世の中でそんなことが行われているなんてことも知らなかったような気がする。
そもそも自分の生まれた日をあらためて祝うなんてコトがあったのかどうか。一度もなかったんじゃなかろうか。だいたい若い頃には、今でいえは純ブンガクというやつばかり読んでいたので、どちらかといえば「生まれちゃってすいません」って言って下をむくような価値観で日々を過ごしてきたのだ。
だから、こんなに盛大な「お誕生会」は、いつも生まれてはじめてのような気分だ。すぐに大勢のカンパイさわぎにまぎれてしまったけれど、もっと落ちついてマグロの中トロを食うのだった。
- 6月某日 名古屋の大トリ
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誕生会の翌日、少し酒が残っていたが、日帰り講演で名古屋へ。新幹線の中で事務所のWさんが朝ごはんです、とコーヒーとパンをくれた。昔は甘い食べ物や飲み物など「ケッ」と思っていたが、最近は朝の移動の時はあたたかく少し甘い飲み物がありがたい。
「このコーヒー美味しいね」
「正式にはカフェラテです」
このやり取りも何回もやっている。
無事に講演を終え、二日酔いも遥か遠い過去となったので、新幹線の待ち時間で名古屋駅にある名古屋コーチンの美味い店「赤い鳥」へ。ここのレバーと親子丼を食べなければ名古屋への旅は完結されないのだ、とWさんを説得して生ビールを飲む。講演の後は甘いものはいらない。ハイボールも2杯飲む。Wさんも「ハイハイわかったわかった」という表情でレバーで生ビールをやっていた。
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Ⓒ 撮影/松田嵩範
- 著者プロフィール
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椎名 誠(しいな まこと)
1944年東京生まれ、千葉育ち。東京写真大学中退。流通業界誌編集長時代のビジネス書を皮切りに、本格デビュー作となったエッセイ『さらば国分寺書店のオババ』(’79)、『岳物語』(’85)『犬の系譜』(’88/吉川英治文学新人賞)といった私小説、『アド・バード』(’90/日本SF大賞)を核としたSF作品、『わしらは怪しい探険隊』(’80)を起点とする釣りキャンプ焚き火エッセイまでジャンル無用の執筆生活を続けている。著書多数。小社近著に『続々 失踪願望。 病み上がり乾杯編』。
椎名誠 旅する文学館
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