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読むダイエット 高橋源一郎

第2回 明智光秀と忍者ダイエット

更新日:2020/03/04

 なぜ明智光秀? なぜ忍者? みなさんの中に、そんな疑問がふつふつと湧いてくるかもしれない。いくらNHKで、明智光秀を主人公にした大河ドラマ『麒麟がくる』が始まったからといって、まるで便乗商法。それとも、『麒麟がくる』に出演予定だった沢尻エリカと何らかの関係があるのか。薬物を愛用するとヤセるというので、薬物ダイエットとか……。それは、後でわかりますので。まずは、ここから。

何でもやってみた

 さて、第1回でお伝えしたように、ダイエットを決意したわたしが最初に試みたのは、「本屋に行く」ことであった。そして、数多くのダイエット本を購入したのである(最初の一カ月でおよそ80冊)。そして、わかったのは、
「大したことは書いてない」
……ということであった。
 正確にいうなら、どのダイエット本にも、「まあ、そうだろうな」ということしか書いてはいなかったのである。あるいは、「すべて想像の範囲内」というか。
 たとえば、前回も書いたように、
「ダイエットの基本は食べないことである」とか、である。
 そりゃ、そうだろう。食べなきゃ、ヤセるに決まっているではありませんか。
 他にも、
「運動が大事」
 当り前だ。何もしなけりゃ、カロリーをほとんど消費しないのだから。
「栄養のバランスは大切に」
 そんなこと、うちの母親だっていってました。
「適度の睡眠、早寝早起きはマスト」
 それ、うちの祖母だっていってたけど。
「旬の野菜を食べましょう」
 あの、うちの叔母ちゃんの口癖だったんだけど……。
 その他、もろもろ。
「発酵食品をとりましょう」
「繊維質をとって、便秘を防ごう」
「白米よりも玄米を、白いパンより黒いパンを」
「フランス人に心臓病が少ないのは、赤ワインでポリフェノールを摂取しているからだ」
「沖縄の人たちが長命なのは、サトウキビで作った焼酎を飲んでいるからだ」
「長寿で有名なフンザ人は、全粒粉の小麦パンとヨーグルトしか食べない」
「トランス脂肪酸は食べるプラスチックだから、エゴマ油がお勧め」
「牛乳の過剰摂取は骨粗鬆症を招く」
等々。
 しかし、である。これら、すべてのダイエット本たちのいうことをぜんぶ聞いていたら、どうなるか。まずは、
「どうしていいのかわからなくなる」のである。
 たとえば、代表的なダイエットに、
「朝食抜きダイエット」がある。
 しかし、これまた、世の「ダイエット本」の多くは、
「絶対に朝食だけは抜いてはならない」と主張しているのである。いや、どっちが正しいのだろうか。両者の主張を共に満足させるダイエットはこの世界には存在しない。トランプ大統領とイスラム国が和解しようと絶対無理。

 だいたい、一つ一つのダイエット法は納得がいくとしても、これほど大量の情報を、我々は「消化」できない。じゃあ、面倒くさいから、とりあえず、健康に良いものを食べることにすると、今度は、別の問題が発生する。
「食べすぎて太る」
のである。それだけではない。健康にいいことを全部していたら、仕事の時間や遊びの時間がなくなってしまうのだ!
 他のすべてを犠牲にして、健康やダイエットのために生きることになる……そりゃ、おかしいでしょう。
 そして、これらダイエットや健康に「いいこと」のどれを省いてもかまわないのかは、ダイエット本には書いていないのである。なにしろ、その本に書いてあることだけは省いてはならないのだから。残念なことだ。
 じゃあ、どうすればいいのか。いや、考えるまでもない。わたしがいつもやっているやり方で前へ進むしかない。それは、
「とりあえずやってみる」だ。

著者情報

高橋源一郎(たかはし・げんいちろう)

1951年広島県生まれ。横浜国立大学経済学部中退。1981年、『さようなら、ギャングたち』で作家デビュー。『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞、『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞、『さよならクリストファー・ロビン』で谷崎潤一郎賞を受賞。
主な著書に『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』、『恋する原発』、『銀河鉄道の彼方に』、『今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇』などの小説のほか、『ぼくらの文章教室』、『ぼくらの民主主義なんだぜ』、『ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた』、『お釈迦さま以外はみんなバカ』、『答えより問いを探して』、『一億三千万人のための『論語』教室』、『たのしい知識──ぼくらの天皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代』、『「ことば」に殺される前に』、『これは、アレだな』、『失われたTOKIOを求めて』、『居場所がないのがつらいです』『だいたい夫が先に死ぬ これも、アレだな』など、多数ある。

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