読み物
丸木舟
更新日:2019/10/23
昨年、ニューギニア島アスマットの中心地アガツからモーターボートで二時間ほどさかのぼったところにあるコモロという村で丸木舟の製作現場を見つけた。アスマット地方の人々はこの丸木舟で川を移動する。現場の棟梁に丸木舟の価格をきくと、新品の舟だと日本円で一万五千円ほど。中古だと三千円からあるという。
ニューギニアの川にはワニが多く、探検の大きな障害になると恐れていたが、コモロの人たちによると、丸木舟に乗っていてワニに襲われることはまずないらしく、それどころか川で沐浴することも可能とのこと。
今年は丸木舟でこの村からさらに上流を目指し、標高四七五〇メートルのトリコラ峰の南面を探検する予定。コモロの人によると上流にはスルスルという村があり、そこまで丸木舟で一週間。その先は知らないとのことである。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。