読み物
裏山のジャングル
更新日:2019/10/09
いよいよニューギニア探検がはじまり、早速、蒸し暑く、そして濃密な草木が繁茂した不快なジャングルでの前進がはじまった……かのように見えるが、じつはここはニューギニアではなく、私の自宅の敷地である。裏山というか、裏庭というか、いずれにせよ家のすぐ裏の斜面だ。
私の家は鎌倉の谷のどん突きにある小さな造成地にあるのだが、斜面は切り拓かれたままの状態で擁壁等でおおわれておらず、岩盤や土の地面が露出している。そのため春には筍がいたるところから顔を出し、夏になり生き物たちの活動が旺盛な時期になると、植物が猛烈な勢いで繁茂し、色々な草木の類が自宅二階の台所脇ベランダ付近にまで進出してくる。そうなると、自然に免疫のない妻は、家が植物に呑み込まれるとの不安をいだくらしく、「そろそろ裏の整備をしてほしいんだけど」と草刈り枝打ち等の出動要請が来るのである。
この日の鎌倉の気温は三十度超え。作業は午前中におこなったが、汗の噴出がおさまらず一時間でくらくらしてきた。私は多汗症気味で暑さには滅法弱い。熱中症寸前となり、一時間で作業を打ち切り、家に避難。梅干し二個と塩分をふくんだスポーツドリンク二本を一気飲みし、事なきを得た。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。