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読み物


シロクマ狩り(シオラパルッ編)
更新日:2026/05/13
今年はシロクマのずいぶん多い年で、ウーマやファーヤーイという若手猟師やベテランのアビギが、極夜があける前からよく犬橇(いぬぞり)を出していた。村から30キロほど離れたインナンミウ岬の近くの氷山帯に足跡がたくさんあるらしい。この氷山帯を西に抜けたところでカーナッの猟師が2月に1頭獲り、シオラパルッの村でも夜中にふらふらやってきたのが1頭獲られた。そのあとも別の足跡がたくさんあるということでウーマとファーヤーイは氷山帯でシロクマを探しつづけた。
「カクハタもシロクマ狩りをしろよ」
毎日のように家に来るウーマは私にそう言うが、外国人である私がシロクマのような大物を獲るとトラブルの種になる。ただし地元猟師に同行していれば問題ない。地元猟師が犬橇でシロクマを獲る様子をまだ見たことがなく、ここ何年かの念願だった。だからチャンスがあれば2人に同行してシロクマ探しをしてもいいな、とは思っていたが、何となくタイミングが合わずその機会をなかなかもてなかった。
2月下旬のある日、私は村から西に犬橇を走らせドゥロガヤ岬からネケにかけての一帯でアザラシの呼吸口を探した。呼吸口は見つからないまま帰路につき、ちょうど暗くなる前ぐらいに村についた。
犬をつないで家にもどる途中、アビギとトクンマの夫婦がシロクマがどうのこうのと騒ぎ、西のほうを指さしている。その方向を見てみると、薄闇につつまれた海氷のうえにふたつの小さな光がともっている。どうやらウーマとファーヤーイがシロクマ狩りに成功し、毛皮と肉を満載にした橇でもどってきているというのだ。
後悔が胸をついた。出発をもう少し待って2人と行動をともにすれば、シロクマ狩りの様子を記録できたのに……。
翌日ウーマから話を聞いた。狩りをしたのは村とドゥロガヤの中間のナウヤーの沖で、2人は私の1時間後ぐらいに出発したらしい。ナウヤーで呼吸口を探していたら、沖にキツネが見えたので追いかけると、その先でシロクマを見つけた。クマは昼寝の真っ最中で、慎重に風下側から近づき、ナイフで犬の引綱を切ったという。犬を走らせてクマの逃げ足を止めるのがこっちの猟師のやり方だ。
私が通過したちょっと後にシロクマがあらわれ、2人はそれを獲ったわけだから、狩りというのは本当に運が作用する。
首尾よくクマを仕留めたウーマは、ドゥロガヤ方面にいる私にむかって「カクハター、どこにいるんだー! いまクマの解体をやっているんだぞー! お前も来いよー!」と叫んだという。当然ながらその声は私の耳にはとどかなかったが……。


角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。




















