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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

瀬戸内カヤック紀行②

更新日:2020/01/08

 初冬のこの時期はとにかく日が短いので、まずは早起きが肝要となる。早朝の五時ごろ、もぞもぞと寝袋から出て、浜辺に残してある前日の焚き火の炭に火をつけお湯をわかす。コーヒーを飲み、朝食のラーメンがゆで上がる頃に東の空が白みはじめ、テントを撤収する頃にはすっかり明るくなっている。荷物をまとめてカヤックのなかに積みこみ、出発となる。起床から出発準備完了までおおむね二時間二十五分といったところである。
 カヤックでのパドル漕ぎは歩行とはまた一味違った疲労があり、まず、ずっと同じ姿勢で座っているため腰や臀部が痛くなる。また腕の力に頼るのではなく、腰を回転させて上半身全体を使って漕ぐのが海にパワーを伝えるコツなのだが、いくら腕の力を使わないようにしたところで強風の向かい風がつづくとどうしても肩で踏ん張ることになり、結果、四十肩の悪化を引き起こし、これがまた辛い。これら他の運動にはない独特の疲れ、痛み、関節のぎすぎすした感じ等が蓄積するため、登山や極地探検では一日十時間行動などざらだが、カヤックの場合は一日七、八時間漕ぐのが限度である。で、七、八時間目一杯漕いで、四十から五十キロぐらい漕いだあたりの小島にいい感じの砂浜を見つけ、そこでキャンプということになる。
 テントやタープを設営し、薪を集め、焚き火をおこし、コーヒーを飲んだらもう日が暮れる。釣り道具はいつも用意するが、丸一日がっつり漕ぐと疲れきってしまい使わずに終わることが多い。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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