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Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

トランスパプアハイウェイ

更新日:2019/11/27

 ニューギニアのインドネシア側ではトランスパプアハイウェイという島を縦断する車道が建設中で、まもなく完成をむかえる。ウィキペディアの記事によると総延長は四三二五キロで、二〇一七年三月時点で三八五〇キロが完成したとのことだ。
 われわれも川を遡上しているときからこの道路の存在は聞いていた。上流のパセプティという村からギアレクまでは車道が完成していてバイクタクシーで移動できるとか、スルスルからはもう全部完成していて、オビヨにもヤフキモにもワメナにもトラックが通れる道が開通していて、ドゥマテンの土木工事会社の事務所にはコマツの重機があるよ、などといった話である。
 今回の旅の舞台には情報の少ない地理的な“秘境”をえらんだつもりだったので、車道の話を聞くたびに、秘境ニューギニアにもついに近代化の波が押し寄せたかと、正直げんなりしていた。外の人間の手前勝手な感想だが……。
 ところが、実際にトランスパプアハイウェイを歩いてみると、話とは全然ちがうひどい道がつづいた。
 われわれが歩いたのはドゥマテン~スルスル~オビヨという村をつなぐ、推定三十キロ少々の区画だったが、トラックどころかバイクタクシーも走っていない。というか乗り物が走れる状態ではなく、開削した土地には延々と湿地がつづいている。乗り物の轍(わだち)は皆無で、泥の上に人間のはだしの足跡がつづいているだけなのだ。
 スルスルからオビヨ方面にしばらく歩くと、砂利を敷き詰めた完成形と思われる路面が十キロほどつづき、そこで工事に従事しているインドネシア人労働者に十キロほどトラックに乗せてもらったが、道はその先でさらに悪化し、到底道路とはよべないひどい状態にかわった。湿地のなかの木がただ切り倒されているだけで、油断して足跡のない泥のうえにうっかり足を踏みいれると、場所によっては底なし沼になっている。ずぶずぶと身体が沈んでゆき、腹ばいになって手足を広げてあやうく沈下をまぬがれたところもあった。
 この道ともいえない道をたどってゆくと、ついに消失し、ジャングルのなかの細い踏み跡にかわった。そこを三時間ほどたどるとオビヨの村に到着したが、皮肉なことに、それまでの開削道路よりこの踏み跡を歩くほうがよっぽど速かった。
 トランスパプアハイウェイ……。完成まではまだ少し時間がかかりそうである。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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