集英社 知と創意のエンタテイメント 学芸・ノンフィクション

文字サイズを変更

  • Facebook
  • Twitter
  • 開高健ノンフィクション賞
  • 情報・知識&オピニオン imidas
  • 集英社創業90周年記念企画 ART GALLERY テーマで見る世界の名画(全10巻)
  • 渡辺淳一恋愛小説セレクション【全9巻】
  • 集英社国語辞典[第3版]
  • 集英社ビジネス書
  • e!集英社

Shueishagakugei

謹んで「熊本地震」災害のお見舞いを申し上げます。

熊本地震により甚大な被害が発生いたしました。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
一日も早く平穏な日々が戻りますよう、そして復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

  • 集英社・熊本地震災害被災者支援募金のお知らせ

謹んで地震災害のお見舞いを
申し上げます。

東日本大震災により被災された皆様に、心からお見舞い申し上げます。
また、被災地等におきまして、救援や復興支援など様々な活動に全力を尽くしていらっしゃる方々に、深く敬意と感謝の意を表しますとともに、一日も早く復旧がなされますよう心よりお祈り申し上げます。

(株)集英社

  • 集英社・東日本大震災被災者支援募金のお知らせ
  • 集英社・東日本大震災被災者支援募金募金状況とご報告

Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

旅の思考

更新日:2016/07/13

〈事実〉という概念を正確に定義するとどういう言葉で言いあらわすことができるのだろうか?
〈真実〉という概念なら、なんとなく定義できそうだ。たとえば〈絶対不変の真理〉だとか、あるいは〈世の中の森羅万象を構成する恒久的な原理〉だとか、今、パッと思いついたこれらの適当な文章でも、なんとなく真実という言葉の定義にあてはまりそうなかんじがする。それにくらべて事実とは何なのだろう。この概念はよく考えてみると、わかったようでじつはよくわからない奇妙な概念なのだ。無理やり説明を施すなら、〈時間軸上と空間上に確実に場をしめる、ある一点〉というようなことになるのかもしれないが、こんな物理学のテキストみたいな言葉で説明をされても誰にも納得してもらえそうにない。
 事実の定義が難しいのは、立場によって事実が異なるからだ。たとえばQという人について知りたいと思って周辺の人に話を聞いたところ、ある人が「Qは嫌なやつだった」と言ったとする。この場合、事実として認定できるのは、あくまで「この人が『Qは嫌なやつだった』と言った」という〈言った事実〉までであり、Qが本当に嫌なやつだったかどうかは事実としてはわからない。たとえ百人に話を聞いて九十九人が「嫌なやつだった」と証言しても、最後の一人であるQの親友中の親友が「あいつは実はいいやつだった」と証言したとき、私のなかで事実として形成されつつあった〈Qは嫌なやつだ〉という心象はひっくりかえるだろう。
 だとすると、私たちが事実としてとらえている概念は、じつは表象にすぎないのではないかという気がする。この世の中で発生した事象は、すべて、その事象と遭遇した私自身の主観の反映である表象として存在しているのではないか。
 同じことが、私が探検する北極という場所についてもいえる。北極の氷点下四十度という超低温環境は、それ自体が独立してそこに存在しているのではなく、私が旅をして、私の足の親指の感覚がなくなり、頰の皮が凍傷で剥けて潰瘍となったときにはじめて、具体的な事象となって表面化する。と同時に私はこのような北極みたいな環境で旅することを恐ろしいと感じる。北極は客観的にそこに冷然と存在するのではなく、私の皮膚が北極の超低温を知覚して実際に凍傷というかたちで肉体上の変質が発生し、そして心理面においても恐怖や不安といった感情のブレを起こすという、私との間のトータルな接触をつうじて明らかとなる。そしてこのとき明らかとなった北極の〈北極性〉は、北極という土地をしめす客観的な事実というより、むしろ私の主観が北極の大地から引っぱり出した表象だといえる。
 というようなことを、私は探検の行動中につらつらと考えており、何か考えたら忘れないようにその日にテントでノートにつけておく。こういうふうにグダグダと思考して書き綴った観念が、後になってエッセイや書評などをかくときに生きたりするからバカにできない。先日、集英社から『旅人の表現術』という本が発売されたが、この本のなかにはこうした探検や表現にまつわるエッセイや書評や対談がまとめられている。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第42回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.