Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

ジャングルの食い物

更新日:2019/12/11

 ニューギニアの湿地帯ではサゴヤシという、巨大なヤシ科の植物からとった澱粉が主食となる。十分に育ったサゴヤシを斧で切り倒し、樹幹をくりぬき、砕いておがくずのように粉状にして、それを水で濾過して、のこった澱粉が食べ物になる。十八年前にマンベラモ川というニューギニア島北部の川を旅したときは、この澱粉を水で溶いたパペダというものをよく食べた記憶があるが、今年九月に南部湿地帯を丸木舟で移動したときは、澱粉を焼きチャパティのようにしたものをよく食べた。
 このサゴチャパティは調理直後は軟らかく、しっとりとした餅のような食感があり、味覚の細部をくすぐる奥ゆかしい甘味があって食べやすいが、乾燥するとぼそぼそになり味気がなくなる。今年の旅では村に立ち寄るたびに大量のサゴチャパティが供され、食べきれずに次の村に持ち越し、そこで乾燥して不味くなったサゴチャパティをしょうがなく食べていると、「おお、この外国の人たちはわれわれの魂と呼んでもさしつかえない、このサゴチャパティをじつに旨そうに食べているではないか」と村人たちが勘違いして、また大量のサゴチャパティが供されるという悪循環を繰りかえした。
 住民たちも余裕のある暮らしをしているわけではないらしく、かつ村ごとに漕ぎ手がかわって深い関係を築く時間もなかったため、サゴ以外はあまり食べ物をわけてくれなかったが、他には川で獲れるナマズ系の魚やエビ、果物、ジャングルに自生する野菜などを食べているようである。写真はセーという村で小学校教師をつとめるインドネシア人若夫婦が、われわれを歓迎して用意してくれたご馳走で、サゴチャパティと魚と野菜。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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