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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

四か月ぶりの太陽

更新日:2018/03/14

 前回は極夜探検中の暗黒の正月について書いたが、今回はその続き。
 極夜が明けて初めの太陽を見たのは、去年の二月二十一日のこと。村を出発して探検を開始してから七十八日目、グリーンランドに来てからほぼずっと極夜だったので、村での準備期間をふくめると、じつに約四か月ぶりに見た太陽だった。
 このとき見た太陽は本当に素晴らしい太陽だった。すごい、素晴らしいとしか言いようのない圧倒的な太陽だった。
 写真を見るとわかるが、太陽は地平線から完全にまん丸な姿をさらけ出している。だが、じつはこれは極夜明けの太陽としては不自然な状態だ。というのも、極夜が明けると太陽はまず上端だけ地平線の上にのぞかせて、すぐにまた沈んでしまうからだ。ところがこのときは内陸氷床に出てからひどい嵐に遭遇し、強烈な地吹雪で視界が全然ない日が続いた。本来、この地域では二月十五日前後に太陽が地平線の上に姿を見せ始めているはずなのだが、地吹雪でホワイトアウトが終わらないせいで、すでに昇っているはずの太陽を見ることができなかった。そうこうするうち、見えないところで太陽は高度を徐々に上げていき、ついにブリザードが一瞬止んだこの日、太陽は十分な高さとなって全身をさらけ出し、私の前に姿を見せたのである。
 しかも地吹雪は完全におさまったわけではなく、雪面近くでは雪の粒子が舞い散っているため、それが光を拡散して太陽を実際より大きく見せる効果も生み出していた。
 実際にこのとき目にした太陽は写真で見るよりはるかに大きく感じた。異様に巨大で暖かい太陽だった。
 この極夜の探検は想定外の出来事が連続して、まったく予定通りにいかない旅だった。絶望の連続に暗闇による過度なストレスが加わり、とにかく最後は太陽を見ることだけが望みだった。それだけにこの、逆の意味で想定外といえる素晴らしく巨大な光の玉を見たときは、感動で言葉をうしなった。
 これほど峻烈な風景を見ることは生涯二度とないと断言できる。それほどすごい太陽、それが去年見た初日の出だった。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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