Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

トリコラ北壁

更新日:2018/02/14

 北極の旅にかまけている間にやりそこねていることがある。ニューギニアの探検だ。
 二〇〇一年にニューギニアの遠征に参加したことがあるが、それは私にとって非常に消化不良感のつよい、後悔ばかりがつのる結果に終わった。最終的な目的はオセアニア最高峰であるカールステンツ峰北壁に新ルートから登るというものだったが、それが叶わなかったからだ。隊長と意見が合わなくなった私は途中帰国し、それ以来、独自のニューギニア遠征を心の中で企画し、ノートにそれを書きこみ必ず実現しようと考えつづけてきた。しかし、それから十六年もたったにもかかわらず、いまだに私はそれを実行していない。その時々にやりたい旅が次から次へとわいてきて、一番古いテーマであるニューギニアは最新のテーマに押しやられて後回しにされてしまうのだ。
 最近、インドネシアの登山に関するガイドブックが発売されており、そのなかにニューギニアの山についてもかなり詳しい情報があることを知り合いの若いクライマーから教えてもらった。読んでみると、私たちが十六年前に登った山の記録も簡単に紹介されていた。じつは十六年前の遠征では、最終目標であるカールステンツ峰には登れなかったものの、トリコラ北壁というインドネシア領ニューギニアにある第三の高峰の岩壁には登っており、しかもそれは初登だった。若かった当時の私には、この登山は所詮はカールステンツの代案にすぎない小さな山登りという意識がつよかったが、今思い返すと五百メートル以上のかなり大きな岩壁であり、かなり本格的なクライミングだった。隊長のクライマーとしての実力があったからこそ登れたわけで、小さな山にすぎないなどという私の不満などお門違いも甚だしかったと思う。
 当時の写真を見ると、やはりもう一度行ってみたいという気持ちがふつふつとわいてくる。もう十六年もたっており、インドネシアも経済発展しているだろうからかなり奥地も開発されてニューギニアも未知の要素がなくなっているだろうなと漠然と考えていたが、ガイドブックをみると案外まだそうでもないらしい。私が知らなかった情報もかなり紹介されている。これはやはり一度現地に行って確かめなくてはならない。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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