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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

コロナ明け、遠征隊、観光客、撮影隊ゾロゾロ

更新日:2022/08/24

 日本ではまだマスク着用が推奨され、コロナが明けたという雰囲気は皆無だが、グリーンランド(および本国のデンマーク)では三月以降、規制が順次撤廃されてゆき、雰囲気的にはコロナは終わったという感覚である。感染者がいなくなったわけではない。だが、多くの住民が感染したけど比較的軽症で済んだため、風邪みたいなもんだという認識が急速にひろがったことが大きいように思える。三回目のワクチン接種も進み、感染の経験も一般化し、怖さや不安が一掃されたようである。
 政治的で人為的な出口戦略もあいまって、グリーンランドは旅行者に完全に開放された。来訪のために様々な書類を用意しなければならない煩わしさが消え、今年の春は遠征隊、観光客、テレビや雑誌の取材班がぞくぞくとやってきた。有名な冒険家の遠征隊、日本人やイタリア人の写真家、ドイツの観光客グループ、世界的に有名なネイチャー探検系雑誌の記者等々、ここ二年、我慢していた人たちが次から次へとおしよせる。ウハウハだったのはカナックの猟師たちだ。というのも海外の来訪者の目的は旅情であり、狩猟文化の見聞であり、そのためにかならず猟師の犬橇をやとうからである。猟師たちの懐には多額の現金収入がまいこんだ。圧巻だったのは、五月にやってきたフランスのテレビ取材班で、雇った犬橇は十台以上。そのうち四台は出演者役で、カメラの前で犬橇操縦や海鳥の網猟、春の海豹(あざらし)狩りを実演し、のこりは機材の運搬役である。
 春の陽が沈まなくなった明るい夜、白く煌めく海氷で、対岸から黒い豆粒のような点がつぎつぎと姿をあらわし、やがて大きくなって犬橇になってゆくさまは、なんとも壮観だった。レースをのぞき、これほど多くの犬橇が一カ所に集うさまは地球の歴史で最後かもしれない。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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