Nonfiction

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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

夜の作業

更新日:2021/02/24

 かつて犬橇のランナー材は鉄板が主流だったが、現在は厚さ一・五~二センチ程度のプラスチックを使う。プラスチックなので雪面での滑走性能は高いが、摩擦によわく、乱氷や岩場をこえると、あれよあれよと削れて薄っぺらになってしまう。あまり薄くなると氷や岩のダメージが橇本体の木材におよぶので、そうなる前に張り替えないといけない。
 私の橇は二年前につくったもので、まあ三、四年はランナーをとりかえる必要はないかなと考えていたが、去年春の二カ月近くの旅行では何度も岩場をこえざるをえなかったため、途中でランナーがベランベランの状態になってしまった。というわけで、この冬の最初の仕事はランナーの張替え作業である。今年はシオラパルクのお店では入荷していないと聞いていたので、隣町のカナックのスーパーで長さ二メートルのランナー材を五本買いこみ、ヘリではこんだ。
 ランナーの張替えで大変なのは暖かい家のなかで作業できないことだ。ランナーはプラスチックなので暖かいところでは伸びてしまう。その状態で橇に釘打ちして氷点下三十度の場所にはこぶと、今度は縮んでしまい接続面にあきが生じてしまうからだ。
 十二月中旬は昼間でも真っ暗。寒さと暗さのなかでひたすら作業するのはなかなかつらい。まるまる二日を要した。写真はウーマ・ヘンドリクセン撮影。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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