読み物
閑散とした関空
更新日:2021/01/13
十二月三日、この冬もグリーンランドへ旅立つこととなった。
フライトの数が少ないので羽田から関空に向かい、そこからコペンハーゲンへの飛行機に乗ることとなった。冬をむかえて世界中で新型コロナがふたたび猛威をふるっているだけあって、さすがに国際線はがらんとしている。免税店はほとんど閉店、外貨両替商も一軒しか開いてない。現地では犬の世話代や家賃、海豹(アザラシ)や海象(セイウチ)肉の購入費などで現金が必要なので、そのぶんの現地通貨(デンマーク・クローネ)を空港で両替するつもりだったが、この店にあるストックでは私が必要とする額には全然足りず、銀行で両替してこなかったことを悔やむ羽目になった。結局、ユーロに両替して経由地のアムステルダムとコペンハーゲンで全額クローネに替えることはできたが。
日本を出国してからアムステルダムとコペンハーゲンで飛行機を乗り継いだが、欧州は日本の空港ほど閑散としていない。人出もそこそこあり、免税店や両替商やカフェなども軒並み営業している。コペンハーゲンからグリーンランドへのフライトはかなりの乗客があり、グリーンランドの国内便は、定員三十人ほどの小型機ではあるものの、ほぼ満席だった。
ただ警戒感はかなり強く、旅券チェックの際は、なぜ日本人が今頃グリーンランドに行くのか、かなりしつこく訊かれた。グリーンランドに入ってからはイルリサットという町で入域後のPCR検査を受けなければならないが、その町の宿の人からも状況が状況なので計画を再考するように何度か促された。なにしろグリーンランドの感染者数は十二月三日現在でゼロ人で、これまでの累計感染者数もわずか十八人と、岩手県をはるかに上回るコロナの空白地帯なのである。それだけにウイルスが入りこまないよう、逆にピリピリした緊張感がただよっている。
角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)
1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。