『須賀のスガスガしくない話』刊行記念 須賀しのぶ×真堂樹対談

コバルト文庫でデビューし、『流血女神伝』や『また、桜の国で』などで幅広い読者を魅了してきた須賀しのぶさん。先ごろ発売された、初のエッセイ単行本『須賀のスガスガしくない話』は、コバルト文庫(以下、コバルトと略)名物“あとがき”のノリで綴られた、全17話の雑談集です。今回は、作家仲間の真堂(しんどう)樹(たつき)さんと、小説の書き方やコバルト時代の思い出を語り合っていただきました。今年創刊50周年を迎えた少女小説レーベルの現場では、どんなふうに物語が生まれていたのか――創作の舞台裏をのぞきたくなる対話です。


『須賀のスガスガしくない話』
須賀しのぶ

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仲が良くても書き方は全くちがう

 ── お二人は、ともにコバルトでデビューし、同時期に長編シリーズを書いていらっしゃったのですね。

須賀:
真堂さんとは、同じ1994年デビューで、プライベートでも仲良くしてもらってます。年賀状も今も続いてるし(笑)。執筆スタイルはちがいますけど。
真堂:
そう、全然ちがいますよね。小説を書く際、私の場合はキャラ先というか、キャラの動きで物語を作っていく。ところが須賀さんの作品は西洋建築の石積のように実直に積み上げられた世界観の基礎がしっかりしていて、創作スタイルもそうなんだろうなと……。かっこいいなってリスペクトしています。
須賀:
ありがとうございます、なんか照れる(笑)。執筆のペースも真逆ですよね。私は締め切り間際になってからが勝負みたいなところがあって。でも真堂さんは締め切りの 1か月前には必ず上がっていますよね。
真堂:
体力に自信がないから早く上げないとまずいんです。締め切りが迫ると、すみませんムリですってなりそうで……。須賀さんは、さすがサバイバル系を得意としているだけあって、匍匐(ほふく)前進で進むみたいな感じですか?
須賀:
ちがう、ちがう。私、締め切り間際に追い詰められて 1日 100枚書いたことがあったんですよ。でも、体ボロボロになっちゃって辛い。だから私もせめて1週間前には上げるように頑張ろうと思ってはいるけど、 1回もできたことない。締め切りが近づくと何か謎の回路が開くというか、追い詰められると何か降りてくるみたいなところがあって。それをちょっと待っているところもあって。でも若い頃はよくできたんですけど、最近はそれより前に眠くなっちゃう。やっぱ真堂形式にしないといけないなって思っています。


真堂さん(写真左)、須賀さん(写真右)、同期デビューのおしゃべりは楽しくていつまでも続けられそうです。

執筆中に見る夢は?

 ── 17話収録されているエッセイの第6回「秋の夜長はホラー風味」では、書いているうちに作品の夢を見る、というお話が出てきました。そういうことは本当にあるのでしょうか。

真堂:
私はないですね。締め切りに追われる夢すら見ないくらいですから。
須賀:
それは、1か月前に原稿を上げてしまう真堂さんならでは、ということですね。
真堂:
でも、作品とは関係ないのですけど、自分が役者になって舞台に出なきゃいけないのに、せりふがまったく入っていない夢は、よく見ます。
須賀:
あ、その夢、私もよく見ます。
真堂:
あります? 一度、自分の歌声で目が覚めたことがあるんですよ(笑)。せりふが何ひとつ入っていないから、もう歌うしかない、と思って。
須賀:
私はたいてい、舞台に出る直前で目が覚めます。歌い出したら、もう終わりですよね。

 ── 須賀さんのホラー現象体験もエッセイに出てきますね。ホラー小説を書きたいと思ったりしませんか。

須賀:
前に書いてみたことがあるんです。ただ、そのたびに本当に妙な怪奇現象がけっこう起きるというか。たぶん、私の思い込みが激しいんでしょうね。ホラーではなくても、戦争の場面を書いていると自分が戦地にいる夢を見てしまって、ご飯が食べられなくなる。どんどんやせてしまうタイプなんです。ホラーのときは、何かに見られているような感覚に自分で追い込まれて、だんだん錯覚まで見えてくる。だから、これはちょっと駄目かもしれない、と思いました。
真堂:
そう聞くと、須賀さんは、書き方はすごく理知的なのに、入り込み方はずいぶん憑依的なんですね。
須賀:
最初は自分の予定どおりに進むんですけれど、そのまま終わる話って、正直あまり面白くないんです。人を動かす話というのは、自分がその中に入り込んで、自分で体験したことのように書いて、初めて小説として立ち上がるところがある。だから、ものすごく疲れるし、できればあまりやりたくはないんですけど、実際、体重ががくんと落ちて、毎日点滴に通っていた時期もありました。


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ホラーとの向き合い方それぞれ

 ── ミリタリーものとホラーものは、似ているのかもしれませんね。

須賀:
紙一重なところはあると思います。ミリタリーだと、夢の中で戦地に行っても、目が覚めれば現実に戻れるんです。でもホラーは、我に返るのがなかなか難しい。ずっと、それがここにあるような感じがしてしまう。それで、私にはちょっとムリかもしれないと分かったんです。真堂さんは、書かないのですか。
真堂:
私は、ホラー小説は駄目なんです。映画は大好きなんですけれど、文字の方は本当に怖い。想像力が働いてしまうでしょう。いちばん怖いのは、見えないものなんです。ホラー映画も、出てくるまでは怖いけれど、いざ姿が見えてしまうと、笑えてしまったりするじゃないですか。でも文字は、見えないまま迫ってくる。その怖さは格別です。
須賀:
それは分かります。文字は、読む側の想像が勝手にふくらんでしまうから。
真堂:
エッセイによると、イラスト担当の梶原にきさんは、わざと怖さを呼び込みにいくような見方をなさるそうですね。
須賀:
あの人は本当にすごいんです。夜中の丑三つ時にホラー映画を見て、電気を消して、わざと窓やドアを少し開けておく。それでも平気なんだそうで、私には絶対にムリです。旅先でも、私が「ここはちょっと何か出そう、危ない」と思うような場所で、最後まで何も感じないんですよ。ああいう人がホラーを書くべきなんだと思います。
真堂:
梶原さんとは、デビュー以来のおつきあいなのですね。
須賀:
はい。この本は、梶原さんのイラストがいいんですよね。味があって、見ているだけでうれしくなる。コバルトの頃は、美しく緻密な絵を描いてくださっていて、今回はそこに、また少しへにょんとした味わいが加わっているのがいい。まったく変わらないところと、ちゃんと今の魅力になっているところと、その両方があるんです。普段はオンラインでやり取りしていますけれど、このあいだ、久しぶりにお会いしました。


『須賀のスガスガしくない話』は、各回のへにょんとしたイラストの他、題字と巻末の漫画も梶原さんが書いています。


先日開催されたコバルト文庫50周年記念「ときめくことばのちから展」で飾られていたサイン。青い壁に直接書きました。

軽快でぜいたくなおしゃべり

 ── 最後に本の推しポイントをいただけますか。

真堂:
この本は、エッセイのテーマが毎回ちがうから、須賀さんの脳内の本棚が想像できました。一つ一つ、須賀さんが持っている世界の入り口になっている感じがします。ぜいたくな一冊だと思います。
須賀:
自分の趣味の同志が一人でも増えたらいいなと思いつつ書いたところがあるので、そう言っていただけるとうれしいです。今日は久しぶりにお話しできて、楽しかったです。ありがとうございました。

 ── 『須賀のスガスガしくない話』は、このような方向性皆無のエッセイです。みなさまもおしゃべりに加わる感じで、お気軽にお楽しみください。

構成:太田由紀 イラスト:梶原にき 撮影:露木聡子

プロフィール

須賀しのぶ(すが・しのぶ)

作家。埼玉県生まれ。「惑星童話」で94年度上期コバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞しデビュー。著書に『神の棘』『芙蓉千里』(センス・オブ・ジェンダー賞)『革命前夜』(大藪春彦賞)『また、桜の国で』(高校生直木賞)『キル・ゾーン』シリーズ等多数。

プロフィール

真堂樹(しんどう・たつき)

作家。東京都生まれ。「春王冥府」で94年度下期コバルト・ノベル大賞を受賞しデビュー。著書に『四龍島』シリーズ、『お坊さんとお茶を』シリーズ、『月下薔薇夜話』シリーズ、『帝都妖怪ロマンチカ』シリーズ、『春燕さん、事件です! 女役人の皇都怪異帖』等多数。

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