男性の探検家は、家庭や子どもを守ってくれそうな女性を選んでいる

角幡:
旦那さんとの関係も非常に特殊で、それも面白かったです。あまり働かないんですね。
小松:
あえて、低収入を実践しているんです。
角幡:
シリアの文化的なものなんですか?
小松:
一概には言えませんが、夫や夫の家族、彼らのコミュニティの文化であり、流儀のように感じます。シリアのなかでも沙漠のゆったりした時間の流れとともに生きてきた夫は、お金やキャリアにあまり興味がなく、時間と心のゆとりを最も大事にしている。そうしたゆとりある生活を日本でも実践するための最低ラインが、月収9万円くらい、というのが夫の持論です。
角幡:
生き方の問題なんですね。
小松:
そうですね。都会の生活が大変だったら、公園にテントを張って暮らせばいいでしょう。そんな感覚。「ちょっと行ってくるね」と沙漠に放牧に出かけて、半年くらい帰ってこないような生活を、内戦前のシリアではしていたので。
角幡:
いやー、うらやましい。僕もそういう生活を早くしたい。
小松:
でも、待つほうは大変です。実は先日、夫はシリアに帰ったんです。「ちょっと行ってくるね」と。
角幡:
もう戻ってこないんですか?
小松:
いつ戻ってくるかも、そもそも戻ってくるかどうかもわからないです。私も全然期待していないんです。アサド政権が倒れた後、残りの人生はシリアの復興に捧げたいという夫の選択を、私は受け入れています。シリアのほうがコミュニティのつながりの中で彼らしく生きられますし。でも、子どもと妻は大変だなと。
だから、急に話が変わりますが、角幡さんの本を読んでいると、角幡さんの極地などでの探検も素晴らしいんですが、もっとすごいのは、日本にいる奥さんだと思うんです。

角幡:
それはよく言われます。まあ、僕は月9万以上稼いでいますが(笑)、うちの奥さんはすごいと思っています。ここ数年、一年のうち5カ月は極地に出ているんですよ。その間、一人で二人の子どもを育て、家を切り盛りしている妻は能力が高いと思うし、ありがたいなと思っています。子どもたちにとってもお母さんはおっかないけど、好きなことばっかりやっているお父さんよりは頼りになるんじゃないかな。
小松:
そういう人を選んで結婚されている角幡さんも、すごいなと。植村直己さんもそうでしたが、男性の探検家の方って、自分がいない間、ちゃんと家庭や子供を守ってくれそうな女性を選んでいるなと、同性として感じるんです。
角幡:
いや、僕の場合は全く違って、結果的にそういう人だったというだけですね。だからぶつかるところもあるし、年齢を重ねると、夫婦であってもそれぞれの生き方や価値観のズレが大きくなってくるじゃないですか。とくに43歳の頂点をすぎると自分ができあがっちゃっているから、互いに譲れないところがでてきてしまう。僕はあと数年もしたら北海道の山奥に引っ込んで、狩猟生活を送りたい。家族のことが好きだから一緒に来てほしいけど、家族は行きたくないと言うから悩む。でもやっぱり、「自分の生きる場所」がどこにあるかを僕はどうしても考えるので、シリアに帰った旦那さんの気持ちはわかりますね。
小松:
私もわかるんです。それに、家族だからといって、ずっと一緒にいなくてはいけないとは思っていないんです。それぞれが生きやすい環境で生きればいいと思っているので、夫を「行ってらっしゃい」と送り出しました。
角幡:
小松さんにも「自分の生きる場所」ができてしまっているからね。今後、二人の間はどうなるのかなと思っていますが、亀裂が生じたりはしていない?
小松:
今はまだないですね。第二夫人騒動はあったものの、その後、アサド政権崩壊後の取材に一緒に行ったりと、仲はいいです。今後どうなるかはわかりませんが。

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