Nonfiction

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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

瀬戸内カヤック紀行④

更新日:2020/02/12

 最終日に上陸地点の砂浜をめざして漕いでいると、正面に正体不明の黒い影がずっと見えていた。何かな、何かなと思って近づくと、正体は海からつきでた小さな岩場であった。
 地図をみるとこの岩場には〈祖父祖母島〉という名前がついている。〈じんばじま〉とよぶらしい。
 地図をみながら漕いでいるので祖父祖母島という島があるのは、当然わかっていた。だが、全然姿が見えないので、おかしいなぁ、ナビゲーションまちがっているのかな、と頭をひねりながら進んでいると、この小さな岩場があらわれたという次第である。
 この島は私が今まで見たなかで断トツに小さな島である。が、はたしてこれは島なのだろうか、という疑問もあったので、ちょっとウィキペディアでしらべてみた。
 役所関係でいえば、海上保安庁は満潮時に海岸線の延長距離が百メートル以上の陸地を島と定義し、国土地理院は航空写真にうつる陸地を島と定義している、とのことで、それぞれにおのおのの業務が反映していることがうかがえ、役所の定義を一般的な語義にあてはめるのはふさわしくなさそうである。ちなみに国連海洋法条約では、①自然に形成された陸地であること、②水に囲まれていること、③高潮時に水没しないこと、の三つを満たすものを島というらしく、こちらが妥当か。いずれにせよ祖父祖母島という名がしめすとおり、この岩場は歴史的に地域の人たちに島とよばれてきたのだろうから、島なのだろう。
 近距離まで接近して写真をとったが、海鵜(うみう)の糞まみれで悪臭をはなつだけだった。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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