Nonfiction

読み物

Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

コペンハーゲンの救世主

更新日:2019/02/27

 北極探検のベースにしているグリーンランド最北の村シオラパルクに向かうには、飛行機を五回乗り継ぎ、最後はヘリコプターに乗らなければならない。私はいつも、まずデンマークの首都コペンハーゲンで二泊し、グリーンランドに向かうのだが、そのたびにいつも閉口させられるのがこの街の物価の高さである。
 物価といっても、じつはコペンハーゲンよりグリーンランドのほうが輸送費がかさむぶんさらに高くなるのだが、しかしグリーンランドで支払う分は、食料にしろ燃料にしろ装備関係にしろ犬の餌にしろ、家賃等滞在費もふくめてすべて自分がやりたい探検に直結する経費なので何となく納得できる。しかしコペンハーゲンは単なる経由地で、そこでの支出は探検的気分がまったく盛りあがっていない段階でのものなので、可能なかぎりきりつめたいところである。
 困るのは食事だ。私がいつも泊まるコペンハーゲン中央駅近くの安宿近辺には、日本で庶民が食べるような定食屋や牛丼チェーン店みたいなものもなく、汚い格好をした中年男がひとりで入るには躊躇われる、上品で、ちょっときどった店ばかりで、下手に入ると三、四千円はかかる。正直食べるところがほとんどなくて、最初に来たときは困り果て、店に入ってメニューを見せてもらって「ソーリー、ベリー・エクスペンシブ」と笑って店を出るということを何度となくくりかえしたものだった。北極の旅の前はできるだけ脂肪をたくわえたいところなので、そのことも余計、私の困惑に拍車をかけている。
 今では行きつけの店が決まってきて、ひとつはトルコ料理のケバブ屋さん。こちらはプレートに肉料理やサラダ、ライス等がもりつけになったものが千五百円ほど。あとは中華料理屋で、昼はかならずこの弁当を出す屋台で食べることにしている。好きな料理のなかから五品選んで50クローネなので、千円弱といったところ。おばさんは無愛想だが、この町で口にできる料理では断トツに経済的で助かっている。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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