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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

雪かき

更新日:2018/03/28

 年末、家族を連れて北海道の実家に帰省した。大学時代に山登りを始めてからというもの、年末年始は冬山登山か海外で探検と決まっていたので、この時期に実家に帰ったのは本当に久しぶりだ。もう、よくおぼえていないのだが、おそらく十五年ぶりぐらいになるかもしれない。
 今回、久しぶりの冬の北海道で驚いたのは、じつに雪が多かったことである。到着した日はひどい吹雪で、旭川空港周辺はホワイトアウトして視界が二十メートルぐらいしかなかった。実家から父に車で迎えに来てもらったが、ライトを点灯してののろのろ運転で、ちょっとスピードを出すだけで乗っているこっちが怖くなってくる。北海道の主要道路には道の両側に、車道の両端を示す標識が数十メートル間隔で点々と立っているのだが、その標識がないと道がどこにあるのかわからないほど、風景は完全に雪の白さに埋没していた。
 芦別の町中に入るとホワイトアウトは終わったが、今度は除雪で積み上げられた大量の雪が道路脇で高さ三メートルの山となってもりあがっている。町の中心部を走る国道以外の道は、この除雪の山に圧迫されて、どこもかしこも一車線ぐらいの道幅しかなくなっていた。父によると今冬は十一月から毎日のように大雪がつづき、感覚的には何十年ぶりという大雪に見舞われている感じだという。年末というとまだ積雪量が本格的に増える前の時期だが、今年はもう一月下旬とか二月ぐらいの雪の量があるというのだ。
 道産子の宿命か、私は昔から雪を見るとなんだか気持ちが昂ってきて、身体を動かしたくなってたまらなくなってくる。実家に戻ったその日から妻子を放り出して家の屋根の雪下ろしに精を出した。
 雪かきは、たしかに重労働であるが、冬山登山におけるラッセルと同じような心地よさがある。ひとつの目的にむかって、ただひたすら身体を動かすという心地よさだ。身体を動かせば動かすほど、その分の結果が目に見えてついてくる。腰を踏ん張って除雪ダンプで大量の雪をはこび、それを屋根から下ろす。下ろせば下ろすだけ、雪のない面積が増えていく。その快感は、冬山でラッセルして背後を振り返り、延々とつづく足跡のトレースを見たときの快感と同じものがある。単純な達成感だ。
 その日は屋根の雪下ろし。翌日は家の前の除雪。次の日は屋根の雪下ろしのつづきと雪かきを堪能した帰省となった。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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