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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

エゾ鹿服の完成

更新日:2024/04/10

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 とんでもない時間と労力をかけて、ついにエゾ鹿服が完成した。
 北海道で狩猟し、獲物の皮を鞣(なめ)し、型を取り、裁縫し……いったいどれほどの時間がかかったか。その時間を執筆にあてたら、どれほどの原稿を書けたのか……。
 いろいろ失敗もあった。
 失敗その① 雄鹿の皮を使ったこと。雄のほうが毛が長くて暖かいかと思ったが、皮が厚すぎて動きにくい。使った毛皮は雄2頭、雌2頭だが、全部雌にしたほうが正解だった。といっても雌は逃げ足が速くて獲りにくいのだが。
 失敗その② 鞣しが不十分だったこと。とくに最初に鞣した2枚はミョウバンの量が足りなかったようで、革が固い。
 失敗その③ 型取りがいい加減だったこと。去年の化繊の生地でつくった防寒服とおなじ型で大丈夫かと思い、日本で型を取ったが、現地に来てコリッタ(馴鹿[トナカイ]や犬の毛皮で作った上衣のこと。今回作ったエゾ鹿服もコリッタ)の型紙を見せてもらったら全然ちがった。やはり革は布とちがってごわつきが強いため、細部に工夫を凝らしているようだ。いろいろ事情があったのだが、型も現地で取るべきだった。
 失敗その④ 毛の向きを逆さにしたこと。エゾ鹿の毛皮は馴鹿と比べて寝ているので、毛皮を逆さにして(つまり尾っぽのほうを上にして頭のほうを下にした)逆立てたほうが空気層ができて温かいのでは、と考えたが、村に人に言わせると、毛の間にはいった雪を落としにくいから「アヨッポ(ダメ、no good)だ」という。たしかにその通りかもしれない。
 と4つほど大失敗をしたわけだが、実際に着用して犬橇に乗ってみると、思ったよりは使えそうな感じ。もっとダメかと思ったが、使いこめば軟らかくなるだろうし、細かいところは適当に修繕したら着心地もよくなるだろう。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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