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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

子供と散歩

更新日:2023/11/22

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 八月末にぎっくり腰を発症し、三日ほど歩けなくなった。四日目から歩行できるようになったが、ちょっとよくなると我慢できない性分で、すぐにランニングを再開した。するとまた腰痛が再発し、歩行困難な状態となりしばらく安静を余儀なくされた。大人しくしていると四、五日で痛みがだいぶ引いたので、水泳なら大丈夫だろうと今度はプールで二キロ近く泳いだら再発、三たび何もできない状態に陥った。
 二度の再発でさすがに観念し、もう本当に痛みがなくなるまでトレーニングはしないと心に決めた。でもまったく動かないと足腰が弱まるし、ネットで調べると適度な運動がいいとも書いてある。座っているより歩いたほうが痛みがなくなるので、夕方前の時間に一歳半の長男をベビーカーに乗せて近所を散歩するのが日課となった。
 江ノ電極楽寺駅を越えて成就院の坂を下って由比ヶ浜の海岸に行くのが定番のコースだ。酷暑つづきの残暑のおかげで海水温は高く、九月下旬になっても息子はおむつ一丁になって波打ち際に駆け出す。まだ歩行は不安定でペンギンのような走り方しかできず、寄せては引く波の動きに翻弄されて倒される。海水をたっぷり含んでおもたくなったおむつが半分ずりおちているが、おかまいなしに、浜辺で屯するカラスたちを棒で追いかけまわすのも楽しい遊びのようだ。腰痛のおかげで子供と二人、水入らずの時間をもつことができた。
 腰痛は九月末にほぼ完治。徐々にランニングを再開するのと同時に、息子との散歩の頻度が減ってゆく。時々無理して時間を作るが、そうすると原稿が進まない。執筆時間を削るのではなく睡眠時間を減らしたほうがいいのだろうか。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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