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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

山中奥深くの車

更新日:2022/09/28

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 日高山脈北部の山中で古い日産の乗用車が朽ちているのを見つけた。昭和四十年代頃のものだろうか(ネットで調べると、二代目ブルーバードによく似ている)。パンケヌシ川という沢を釣り登りながら上流にさしかかったあたりである。人気も道路もない、藪の深い森のなかになぜ自動車が……? 思わずわれとわが目を疑った。
 ただし、いま〈道路もない〉と書いたが、それは現役の道はないという意味で、パンケヌシ川沿いにはすでに崩壊し、森にのみこまれつつある、かつて林道だった痕跡がつづいている。車はこの林道が現役だった頃にここまで来て放置されたものなのだろう。近くには薄い青色の昔懐かしい一升瓶の破片が散在し、当時はそれなりに人が入りこんでいたようだ。放置車は林業や土木工事の作業車には見えない。ファミリーやカップルが自然をもとめてこんな山奥まで来たのだろうか。あるいは練炭自殺か……と思い、内部に白骨化した遺体がないか確認したが、見つからなかった。誰がどんな理由で来たのか、いろいろ想像してしまう遺物である。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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