Nonfiction

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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

犬の餌

更新日:2022/02/23

 シオラパルクの海象(セイウチ)猟は春と秋がシーズンだ。春になり海氷が流れて海原がひろがると、南の氷のない海で冬を過ごしていた海象が北上の旅を開始する。そこを狙うのが春の海象猟で、寒くなり越冬地に南下するところを狙うのが秋の海象猟である。
 犬の餌としては海豹(あざらし)より海象肉のほうが好まれる。村人によると、海象のほうが腹持ちがよく、一回の食事で二日はもつ、というのが理由だが、言い方をかえると消化が悪いということでもあろう。
 去年の秋の海象猟はたくさん獲れたようで、大島育雄さんの長男であるヒロシは八頭も仕留めたという。海象は大きいものだと一頭につき一トンもある巨獣で、ヒロシの櫓(やぐら)のうえは大バラシになった肉が山積みになっている。すでに犬橇をあまりやらなくなったヒロシは、処理に困っていたようで、私が購入を申し出ると大喜びしていた。
 二十キロ七千円ほどするドッグフードにくらべると海象肉は四千円ほどで安価だ。犬も喜ぶので私としても大助かりである。ただ水分を含んでいるので、カロリー基準で計算するとあまりかわらないかもしれないが。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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