AIと、ちょうどいい暮らし 柳沢小実

第1回

編み物がくれた豊かな時間

更新日:2026/08/26

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 はじめましての方もそうでない方も、こんにちは。エッセイストの柳沢小実と申します。デジタルスキルはそれほど高くない私に、突然 “AI”というお題が舞い込みました。AIはまさにいま進化中で、ここからどう暮らしが変わっていくのか興味深い。未来を感じたり戸惑ったりしながら、AIとの程よいつき合い方を模索していきたいと思います。


 さて、ここ2年ほど「#朝と夜だけ編み物部」と称して、ひとり熱心に編み物をしています。編み物はコロナ禍をきっかけに世界中で大流行。日本でも20代を中心に幅広い層でブームになり、まわりでもまた久しぶりに編み始める人が続出しました。
 私はというと学生時代にマフラーなぞに挑戦してみたものの、ぎちぎちの編み目に落ち込んで、その後はすっかりご無沙汰でした。ところが、ここにきて唐突に手芸沼へ舞い戻ったのだから、わからないものですね。

 たまに教室や編み会を挟みながら、基本的には朝と夜に根を詰めない程度に編む。あの頃との大きな違いは、YouTubeが先生役をしてくれることです。よく検索するのは、編み目記号を解説している編み方動画。手元が拡大された動画を、再生速度を落として何度でもくり返し見ることができるので、手芸とはとても相性が良いように感じます。

 せっせと編むのに忙しく、ひとり時間の充実で十二分に満たされる。自分の興味や技術の探求が第一目的だからか、まわりの人が目に入りすぎず、羨んだり張り合ったりすることもない。マイペースに続けられる、すこぶる風通しのいい趣味です。


最初の頃は小物類を中心に編んでいました

 それもあってか、あれよあれよという間にずずず……とハマり、せいぜい小物までのつもりが数か月後にはベストやカーディガン、セーターにも手を出していました。1年ほどパターン(使う毛糸や針、仕上がりのサイズ、編み方などを示した設計図のようなもの)と毛糸がセットになったキットを次々と編んで、そして現在は世界中の作家が自作のデザインを投稿・販売できる「Ravelry(ラベリー)」というサイトや書籍などのパターンに、好みの毛糸を合わせて楽しんでいます。


下の3点が、「Ravelry」でパターンを選んで編んだもの

 いま編んでいるセーターの毛糸は、昨年末にトルコで買ってきたものです。この糸で編めるセーターのパターンを手持ちの本などから探しましたが、糸が細めだからかイメージに合うものがなかなか見つかりませんでした。
 そこで、“この糸で編めるパターンを「Ravelry」から選んで”、とChatGPTに相談。さらに、太さを調整するためにもう1本足す糸を、糸質、伸縮性、ボリュームなどから選定してもらいました。1枚のセーターを仕上げるまでに、変更する柄の周囲とのバランスやサイズを変えるための段数や作り目の増減アドバイスなどを最初の問いかけから連続で続けて、気が済むまでラリーをくり返しています。


トルコで買ってきた毛糸たち。質がよく、ついついたくさん買ってしまいました


この糸で何を編めるかをAIに相談

 大学のPCルームで初めてMacintoshに触れ、その後写真がフィルムからデジタルになり、スマートフォンが登場し、そしていまAIが世の中をまた大きく変えようとしています。私はデジタルネイティブではないものの、デジタル環境の進歩とともに成長し、できないながらもなんとか順応してきた世代です。だからこそ、これまでの経験から、気乗りするしないはともかく、ほどよいところで覚悟を決めて飛び込むしかないとわかっています。

 正直なところ、そんなに機械が得意ではないために、どんなに便利だとしてもAIのある暮らしに億劫さや怖さを感じています。それは変化への小さな抵抗感や異物を拒絶する気持ちなのでしょうか。また、自分が使いこなせるか、逆に絡めとられないか、という恐れもあります。だからその心理的なハードルを越えるために、興味のあるジャンルでのオタク的な熱量を原動力にしています。


中央部分の柄変更もAIに相談。いいポイントになりました

 慣れないことは、感度の高い人たちや専門家の動向をしばらく追って、早くも遅くもないタイミングでこわごわ試してみる。多少の情報が出たあとならば大失敗も避けられるし、落ち着いて試行錯誤もできるからです。あとから参入すると、誰にでも初めの一歩があるにもかかわらず、できない自分が恥ずかしかったりプライドが邪魔をしたりします。だから、まわりも手探り状態のときに、するっと入り込むのがよいようです。

 AIについては、一体どんなものなのか、何ができるのか、それによってどう暮らしが変わるのか、まだ全貌が見えません。ただ、私は手帳やノートを書いたりするのが好きなアナログ派で、日頃から便利さ一辺倒ではなく自分の手を動かすことに価値を見出しています。だからAIを使うにしてもすべてを任せたりせずに、ある程度の線引きはするだろうと予想しています。便利さだけにフォーカスすると、頭で考えて試行錯誤するという、いちばん楽しいところを差し出すことにならないかという危惧があるからです。

 なにを託し、なにを託さないか。
 そこにそれぞれの価値感や美意識が反映されるのかもしれません。

著者プロフィール

柳沢小実(やなぎさわ・このみ)

エッセイスト。1975年生まれ。日大芸術学部写真学科卒業。衣食住・収納・旅・手帳・ノートをこよなく愛する。趣味が高じて「整理収納アドバイザー1級」の資格を取得。部屋や時間を整えてすっきり軽やかに暮らすための、考え方やアイデアを提案。また、大手通販サイトなどでバッグ等の商品開発・監修も行っている。著書は読売新聞連載をまとめた『おうち時間のつくり方』(だいわ文庫)をはじめ、『すっきり暮らすためのもの選びのコツ』『わたしのごほうび時間 大人のゆったり旅』(ともに大和書房)ほか多数。最新刊は『「自分ログ」で毎日が変わる 手帳のある暮らし』(大和書房)。
Instagram:@tokyo_taipei
note:https://note.com/yanagisawakonomi

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