『「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)
著者・精神科医さわ先生インタビュー

ベストセラー『子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社、2024年刊行)の著者、精神科医さわ先生の2冊目の著書『「発達ユニークな子」が思っていること』が話題です。さわ先生が、「発達ユニーク」という言葉に込めた思い、そして、すべての子どもが生きやすくなるためにこの本で伝えたかったことをお話しいただきました。

<聞き手:編集部、撮影:相馬徳之(千代田スタジオ)>

精神科医さわ先生

『「発達ユニークな子」が思っていること』

精神科医さわ(日本実業出版社) 1760円(税込)

「落ち着きがない子」「忘れっぽい子」「こだわりが強い子」「感覚が過敏な子」……最近、発達障害やグレーゾーンなどと呼ばれる子どもたちが増えていると言われています。でも、そもそも発達過程とは誰もが同じではなく、すべての人が多様でそれぞれに「ユニークなもの」なのです。そんなあらゆる「発達ユニーク」な子どもたちが、ひとりひとり安心できる環境の中で、その子らしく成長していくにはどうすればよいのでしょうか。周囲の大人や社会がふまえておきたいことは? 著者の精神科医さわ先生の強い思いやメッセージが伝わる本です。

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■すべての人の発達は「ユニーク」である

――昨年(2024年)刊行され大変話題になった『子どもが本当に思っていること』に続き、2冊目の『「発達ユニークな子」が思っていること』もたいへん注目されています。今回、「発達ユニーク」という言葉をあえて使われた理由からお伺いしてよろしいでしょうか。

さわ:
「発達ユニーク」としたのは……文字通りユニークだよねって思っているからで、特にそれをポジティブに受け取ってほしいとか、反対にネガティブに受け取ってほしいとかではないんです。人はみな、発達にはユニークさを持っていて、それをそれぞれに尊重されるべきものだという思いを込めて、タイトルに入れました。
「発達障害」や「グレーゾーン」などの言葉を使った書籍が、今ほんとうにたくさん出ています。発達障害の種類であるADHD(注意欠如、多動症)やASD(自閉スペクトラム症)などの言葉が一般的にも広まってきていて、多くの方が発達障害という用語自体は認識していると思いますが、でも一方で正しい知識を持っている人は少ないというのを実際、診察室でも感じています。
SNSなどを見ていても、発達障害が正しく理解されていない、誤解されていると思うことは多いです。たとえば、ADHDの人に多い特徴にはこういうものがあるとかああいうものがあるとかいろいろ言われていますけれど、でも、よく考えれば誰にでもある特徴だったりします。私自身ADHDっぽい特徴があり、どちらかというとそれが強いほうだとも思いますけれど、でも社会生活に支障がない、仕事はできているし、障害としてサポートを受けるほどではないから別に診断を受けていないわけです。
つまり発達上の特徴、特性というのは誰しもが何かしら持っているもので、発達というものについても全人類がユニークと言えます。誰一人として同じ発達過程をたどることはなく唯一無二のものであるわけですから。そのユニークさが仮に社会生活に支障をきたしていてご本人が困っているのであれば、診断を受ける、サポートを受けるという流れになっていくのが本来の発達障害の考え方だと感じています。

――「発達障害」という言葉が世間一般に浸透し始めたころから、メディアではステレオタイプな特性がことさらにクローズアップされたといいますか、たとえば「職場で困った人」とか「アスペルガーの夫と話が通じない」とか、極端にマイナスのイメージとともに伝えられるケースが多かった気がします。そんな中、さわ先生のご著書は非常にフラットというか、当事者である子どもたちの実態に寄り添う形でメッセージを伝えていただいているように思いました。

さわ:
そのようにとらえていただけて、よかったです。発達障害は、いつか「障害」という概念じゃなくなるかもしれないとも言われています。精神疾患って、どれも社会の中でその人が困らなければ診断には至らないので、結局社会がそれをどう受け入れられるかの問題であると思っています。
よくYouTubeの投稿にも、「これは日本では診断がつくかもしれないけれどアメリカなどに行ったら、こんなの病気でも障害でも何でもないし、普通に受け入れられる」といったコメントをいただいたりしますが、それはそのとおりなんですよ。
人を型にはめて、正常はここからここまでみたいにしている側面も少なからずあると考えています。そのため、他の子よりもユニークさが際立っているような子たちがすごく生きづらい部分がある。でも、たとえば視力が悪い子が教室の前のほうの席に座ることを特別扱いとは誰も思わないのに、じゃあちょっと勉強が苦手な子が宿題を減らしてもらおうってなると、それは特別扱いだって見られる。
そういうふうにみんなをある一定の「普通」に当てはめるのが正解じゃない、ということも、この本を通して伝えたいメッセージの一つです。

■少しでも生きやすくなることのほうが大事

――「発達障害」という言葉だけにとらわれると見えなくなるものもありますね。

さわ:
一方で発達障害は個性だとか、発達障害って天才だとかと言う方々もいて、それが間違っているとも正しいとも私は思わないですけれど、実際にはその表現に傷つく人もいるんですね。こっちはほんとうに困っているのにきれいごとで済ませないでよと感じる親御さんもいらっしゃる。
もちろん、そう言っている人も誰かを傷つけようとする意図がないことは分かりますし、そういう対立のようなものを診察室やSNS上で見ていると悲しくなります。だから、発達障害とかグレーゾーンとか個性とか個性じゃないとか、言葉の定義についての議論はもう終わりにしたいということも、今回ぜひ発信したかったです。
一番大切なのは、その子が少しでも生きやすくなること、その子に合った環境をつくることですよね。そこに目を向けようと、伝えたいんです。

――メディアを通したステレオタイプなイメージで考えてしまうと、自分の子どもがほんとうは何に困っているかに気づけないケースもありそうです。

さわ:
発信する上で、専門家にも葛藤がありますね。そもそも、専門家だからこそ断定はできないものなんです。○○は絶対治るとか、こういう特徴があったらこう診断できるとか……診察の現場においてはそんなにスパッと断定できることはあまりなくて、この子のケースはこうだよね、というふうに個々の事例を診て考えていくしかない。
ASDにしてもADHDにしても、10人いれば10人、その特性の出方も困りごとも違います。それこそ取材のときなど、メディアの方から「発達障害の子にはなんて声をかければいいですか」などと聞かれることもあるのですが、こちらとしては「その子ごとに違います」としか言いようがない。でも、こういう時はこうするといい、という指南書のようなものを求められることは多いですね。

――マニュアルみたいなものが求められる。

さわ:
やっぱり不安な親御さんたちはそういうマニュアル的なもの、断定的なアドバイスを求めているのかもしれないし、メディアの受けもいいから極端な部分を切り取ったような回答が一般に広まっていってしまうのかもしれないです。慎重に正確な情報を発信している専門家によるメッセージほど、なかなか届いていない現実はあるかもしれません。

――この先生は断定してくれない、みたいに……。

さわ:
一つの例として、たとえば「不登校は9割治る」みたいに断定的に書いてあるほうが、不登校の子を持つ親御さんは手に取りやすいんだろうということは分かります。けれども不登校の場合でも、その子どもごとにみんな違いますよね、不登校に至った原因も本人の性格も。どういう対応をするのが良いのかはその子に合わせて考えていくしかないのが現実です。それに現場をみている医師だったら、「(不登校の)ゴールは学校に行くことだけじゃないよね」と考える方が多いと思います。

――それはそうですよね。

さわ:
専門家ではない人に向けて発信する上での葛藤は常にありながらも、今回の『「発達ユニークな子」が思っていること』みたいに、書籍という形だと一冊の中で体系立てて伝えることができ、一番誤解なく理解していただける可能性があると考えています。
Aの時はBだみたいな回答が欲しい人には答えが得られなかったと思われてしまうかもしれないですが、実際の臨床の現場というのは、AならばBみたいな回答がすぐに見つかるものではないし、答えを一緒に探していく、その子その子に合わせたオーダーメードの対応をしていくというのがまさに「発達障害」の治療ということがうまく伝わればと考えています。

■目の前の子どもが何を感じて何を求めているか

――『子どもが本当に思っていること』も、AならばB、というような回答を得られるわけではないですよね。どちらかというと解釈に幅というか、読者の側に考える余地がある内容であると思います。育児に関するそういう本がすでに6万部以上も売れているという事実は、子育てがマニュアル的に断定されることや、Q&A的なものに子どもを当てはめることに違和感を覚える親御さんたちがそれだけ数多くいるからではないかという気がします。

さわ:
私は、子育てに正解はないし、答えばかりを探そうとしないし、目の前の子どもの困りごとの答えは育児書の中にはないって思っています。「子育てで悩んだとき、その答えは、目の前の子どもの中にあるんです」というのは、繰り返し伝えたいメッセージです。それは、1冊目でも2冊目でも本当に変わらなくて、それぞれの子が何に困って何を求めているのか、もちろん全部は分からないけれど、目の前の子どもが何を感じていて、どうすることがその子にとって一番いい環境になるのか考えること、それが親にとっても子どもにとっても、子育てにおいて何より大事なことだと思っています。
それは医師という立場でもそうですし、一人の親としても自分の子どもに対してもそうやって接したいです。

『子どもが本当に思っていること』

精神科医さわ(日本実業出版社) 1650円(税込)
さわ先生の1冊目の著書。2024年刊行で、すでに6万部を超える。

精神科医さわ先生による書評〈「普通の家族」とは何か? 考えるきっかけになる一冊〉はこちら→
学芸単行本『『SPY×FAMILY』超家族論――大人を育てる「子どもの力」』
(齋藤孝【著】遠藤達哉【漫画・対談】)についての考察です!

プロフィール

精神科医さわ(せいしんかい・さわ)

医師。塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。
精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。1984年三重県生まれ。
著書にベストセラー『子どもが本当に思っていること』『「発達ユニークな子」が思っていること』(ともに日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(樺沢紫苑著、サンクチュアリ出版)がある。プライベートでは2児の母親。
YouTube「精神科医さわの幸せの処方箋」(登録者数11万人超)、Voicy、Xなどでの発信も好評。精神科医さわHP https://dr-sawa.net/

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