『『SPY×FAMILY』超家族論
――大人を育てる「子どもの力」』
齋藤孝 (著)
遠藤達哉 (漫画・対談)

「普通の家族」とは何か?
考えるきっかけになる一冊
文/精神科医さわ(医師)
2025年10月6日に刊行されたばかりの集英社学芸芸単行本『『SPY×FAMILY』超家族論――大人を育てる「子どもの力」』〈齋藤孝 (著) 遠藤達哉 (漫画・対談)、集英社刊〉は、人気漫画『SPY×FAMILY』(スパイファミリー)を読み解きながら「家族」「親子」について考える本です。
							ベストセラー『子どもが本当に思っていること』につづき、新刊『「発達ユニークな子」が思っていること』(ともに日本実業出版社刊)も大好評発売中の精神科医さわ先生が、書評を寄せて下さいました。
							(初出:「青春と読書」2025年11月号〈本を読む〉)
						
								 本書は、遠藤達哉さんの大人気コミック『SPY×FAMILY』を題材として、教育学者の齋藤孝さんが、「家族とは何であるか」というテーマについて論じています。
								『SPY×FAMILY』は、敏腕スパイの黄昏が、ある目的のため、血のつながりのない他人同士で父・母・娘という「仮初(かりそめ)の」家族を作るところから物語がスタートします。黄昏(仮名・ロイド)はこれまでの任務と同様に難なくミッションをこなせると思っていましたが、子ども(アーニャ)のあらゆる言動は自分の想像をはるかに超えていて、「親」として悩んだり困惑したりする毎日を過ごすことになります。
								 私自身、精神科医として日々患者さんに接していると、家族との関係に悩む方ともたくさんお会いします。たとえば親は、子どものことは自分が一番理解していると考えがちです。ところが子どもからすると、「親はぜんぜん分かってくれていない」と感じている場合も多い。特に親側が子どもに入り込みすぎて客観的な視点が保てなくなると、どこまでが子どもの問題でどこからが親の不安なのかが分からなくなる。自他の境界(バウンダリー)が曖昧になることは双方の苦しさ、生きづらさにつながります。
								 ロイド(父)とヨル(母)は、「普通の親」「普通の家族」にならなければ(周囲からそう見えなければ)と奮闘しますが、この「普通」については、コミックの中でも疑問が投げかけられますし、また本書の著者齋藤さんも、「普通なんて幻のようなもの」と指摘しています。実際にも、完璧な親なんていないのに、幻の理想像に囚われてしまっている方も多いのではないでしょうか。
								『SPY×FAMILY』は、大人と子どものかかわりが、あらゆるパターンで詰まっている作品だと思います。本書はそれを丁寧に読み解きながら、大人も子どもも生きやすくなるさまざまなヒントを与えてくれます。
							
塩釜口こころクリニック(名古屋市)院長。精神科医。
著書に『子どもが本当に思っていること』『「発達ユニークな子」が思っていること』(日本実業出版社)、監修に『こどもアウトプット図鑑』(樺沢紫苑著、サンクチュアリ出版)がある。
YouTubeチャンネル登録者数は10万人。◆オフィシャルサイト https://dr-sawa.net

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.