木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

FC町田ゼルビア天皇杯優勝~安英学(アン・ヨンハ)の17番を引き継いだ兄妹。兄カウンゼンマラの現在地

 安英学にマラのことを訊いてみた。
「僕が見ていてもマラ君は、地に足がついてます。志が高いんですよ。普通、プロになったら、しかもそれがJ1だったら、そこがゴールみたいな感じで浮ついちゃう選手もいるんです。
 でも彼は決して慢心していない。その先をしっかりと見ています。何よりそのがんばる理由というのが、海外にルーツのある子たちの憧れになりたいという軸がしっかりしているのでぶれない。僕も在日の子どもたちに対してそういう思いでやってきたので、だからこそ苦しいときに踏ん張れました。背負っていたからこそ、逆境が来ても、あわてずに『おっ、来たな』と思えるような準備をしていました。もしも自分が有名になることだけ考えていたら、続かなかっただろうし、お金を稼いで、いい車に乗りたいというような気持ちだけだったら、どこかでくじけたと思うんです。きっとマラ君は夢をかなえるだろうなと思っています」

* * *

 日本国籍取得の方は、9月末に法務局に必要書類を提出した。あとは面談をこなしていくだけである。マラは夢に向かって歩み続ける。
 マラは最後に、FC町田ゼルビアの天皇杯優勝を踏まえてこんなメッセージを送ってくれた。

「サッカー人生の中で全国規模の大会をクラブの一員として優勝することは初めてでした。
 カップを掲げた時の景色、サポーターの方々の歓喜の表情を見た瞬間、プロとしてこの記憶をこれから胸に刻んでプレーしなくてはならないと思いました。
 この結果で今年1年間の自分の取り組みが少し報われたような気がしました。
 それと同時に自分が活躍して優勝したい、この瞬間を何度でも味わいたいという気持ちも強くなりました。
 今回はピッチには立つことは出来なかったですけど、自分の置かれた場所でまず成長しよう、何度でも挑戦してやろうという気持ちにあらためてなりました。
 残りシーズン僅かですが、最後の最後まで自分らしく努力を続けて結果を残せるように準備します!」

著者プロフィール

木村元彦 (きむら ゆきひこ)

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト
1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

ページ
TOPへ

本ホームページに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
(c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.