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常識を疑え!

香山リカ(医師)

「胃腸炎かな……?」から、まさかの救急搬送!(前編)

●X+12日(水)
 食事は五分がゆまで来た。おなかの張りもかなり改善。それよりも連日の抗生剤点滴の影響による腹痛、下痢がひどく、1日のうち何十回もトイレに通う始末。朝の回診で婦人科の主治医が、「じゃ点滴は今朝でやめて、あとは内服にしましょう」と言ったので、すかさず「じゃ、退院してもいいですか」ときくと「そうですね」とのこと。この日の午後、退院することとなる。
 札幌から弟に来てもらい、タクシーで苫小牧市のイオンモールまで行き、「ひと口でもいいからシャバの食事がしたい」と、フードコート内のそば屋に入る。その日の昼からやっと全粥になったばかりだったのでほとんど食べられないことはわかっていたが、卵とじ蕎麦やぜんざいを頼み、少しずつ口に入れておいしさを噛みしめる。
 その店はふつうの日本そば屋だが、なぜかBGMがカフェ風でトッド・ラングレンの「I Saw The Light」がかかる。弟と「これって高橋幸宏さんもカバーしてたよね」「名曲だなー、気持ちが意味もなく明るくなる」と話して一気にテンションが上がる。
 苫小牧市から穂別に公共交通機関で戻るのは、絶対に不可能ではないが至難のワザだ。「荷物も多いし」ということで、ぜいたくをしてイオンモールからまたタクシーを使うことにした。
 夕方には穂別に着き、宿舎に行く前に診療所でタクシーをいったん停めて待ってもらい、所長、看護スタッフ、事務の人たちに退院の報告をする。「明日の朝から来ますね」と言うと所長は「無理ですよ」とあきれたような顔をしたが、実際に宿舎に戻って簡単な夕食をすませてベッドに入ると、次の日の昼すぎまで起き上がれなくなった。
 午後にベッドから這い出して診療所に行き、その日は書類整理などをして身体ならしをし、外来診療に戻れたのはその次の日からであった。栄養士さんの配慮で、診療所で出る給食の主食はしばらくお粥にしてもらえることになった。

■ ◆ ■ ◆ ■

 このように入院は9日間、全体としては2週間弱のあわただしい療養生活であったのだが、その間、「なるほど。患者になるってこんなことか」と改めて気づいたこと、医療現場に対して思うことがいろいろあった。
 それについては、また書いてみたい。

(後編につづく)

著者プロフィール

香山リカ (かやま りか)

医師
1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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