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生きづらい女子たちへ

雨宮処凛(作家、活動家)

「結婚してる?」と聞かれ、「写真で見るよりいい女」と言われた時の正解は?

 そこからは楽しく過ごしたものの、お酒も入って酔いも回り、その勢いでいろんな人が話しかけに来てくれた宴の後半、雲行きというか、治安が怪しくなった。
 最初の攻撃は、突然の「結婚してるの?」だった。
 普段、個人的なことを聞かれることがないので(友人関係だったらプライベートなことは知っているが、仕事関係では今、そういうことを聞かれることがまったくない上、私も聞かないようにしている)、あまりにもド直球な不意打ちに「してません」と事実を答えると、返ってきたのは「もったいない!」という渾身の嘆き。
 それからも「奇襲攻撃」は続いた。
 いわく、「写真で見るより美人」「実物の方がいい女」等々。
 50歳の中年女性を捕まえて何を言ってるのかと思ったが、団塊世代の男性にまったく悪気はなく、褒め言葉として言ってくれていることは伝わってくる。
 が、私は面食らっていた。同時に、自分が生きている東京の出版界隈・社会運動界隈という場所がいかに狭く特殊な世界なのかにも気づかされていた。私が普段会う人はある程度のジェンダー意識があり、ルッキズムはいけないとかの「前提」をクリアしている人たちである。しかし、その小さな小さな村を一歩出れば、まったくの別世界が広がっているのだ。そしておそらく、そちらの方がまだまだずーっと多数派なのだ。
 いろいろと得難い体験をして、懇親会もそろそろお開きとなった。
 たくさんの人と話したけれど、その中で、一切個人的な詮索をせず、見た目言及もしない団塊男性がいた。
 その日のイベントについての感想などを伝えてくれたその男性に、「野生の王国」に放り込まれたような気分でいた私は密かに安心感を覚えていた。が、そろそろお開きという頃、男性は「最後にこれだけは言っておきたくて」と言い、続けた。
「雨宮さん、次に会う時までは、いい人見つけて結婚できてますように」
 撃沈した。

 なぜ、結婚してないことで「もったいない」と言われ、「いい人見つけて」などと言われるのだろう。
 それは団塊世代の多くが結婚することが当たり前で、それが「良きこと」という価値観があるからだろう。
 しかし、もう25年フリーランスとして食べている私には、特に結婚願望はない。今後どうなるかはわからないけれど、今の私には、ない。
 しかし、あの瞬間のあの場所で、「結婚していない」私は「望んでいるのにできない人」と決めつけられているっぽかった。それが居心地悪かった。
 そして「美人」「いい女」などの言葉。自分がそう言われて嬉しい相手だったら、天に昇るような気持ちになるのだろう。しかし、初対面の人から言われるそれは、突然の上から目線ジャッジに感じ、結構なダメージとなったのであった。
 しかし、私はヘラヘラ笑っていた。
 こういう時、反射的に言い返すことができる人もいるのだろう。怒りを表明したり、あるいは怒らずとも冷静に伝えられる人がいるのだろう。
 しかし、私はできない。せっかく用意された場をぶち壊してしまうのではとかいちいち考えてしまう。そうしているうちに大抵話題は変わっている。それを蒸し返す勇気もないし、うまく伝える自信もない。そうして相手に悪気がないことも知っているからこそ、どうしていいのかわからない。
 さて、そんな懇親会が終わった後、唯一参加していた20代の男性が、団塊女性に「イケメン」と囃し立てられていた。
 それを見ながら、胸が痛んだ。
 その人にはいろんな才能や経歴や陰ながらの努力があるだろうに、見た目を肯定する言葉は、時に「お前には顔と若さしか価値がない」と同義になってしまうからだ。思えば若かりし日の私も、「若さ」や「見た目」ばかりを肯定されるたび、傷ついた。自分という人間や内面など、何の価値もないと言われている気がしたからだ。
 若くなくなってからもそうだ。例えばイベントなんかに登壇する時。
「ゲストが男ばかりじゃみっともないんで、女性ゲストも呼びました。雨宮処凛さんです」なんて呼ばれると、脳内で「こいつにはなんの才能もありませんが性別が女なので呼びました」に変換される。相手はいいと思って言っているのだろうが、こちらにはなかなかの冒涜なのだ。

 いろいろ書いてしまったが、イベントも懇親会も、それ以外では非常に楽しく過ごさせて頂いたということは書いておきたい。
 さて、ここで問いたい。あなたのいる界隈はどちらだろう?
 すでに「美人」とか「結婚してる?」とかは死語になっているだろうか。それともまだまだ現役か。ちなみに今の日本では、果たしてどちらの方が多数派なのだろう。
 おそらくまだまだ私は少数派なのだろう。今回のことで、自分がいかに「安全圏」にいるのかを突きつけられた気がした。
 だけどそんな私だって、下の世代からしたら、まったく気づかずにドン引きされるようなことを言ったりしたりしてるかもしれないのだ。いや、している。きっとではなく、絶対にやらかしている。
 ということで、今後同じようなことが起きたら、どんな反応をすればいいのだろう。そしてまったく悪気がない相手に、どんなふうにこちらのモヤモヤを伝えればいいのだろう。特に関係を続けたい場合、どんな言い方が有効なのだろう。
 今、本気で考えている。

著者プロフィール

雨宮処凛 (あまみや かりん)

作家、活動家
1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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