<刊行記念インタビュー>
人は何歳まで走れるのか?
不安なく一生RUNを楽しむヒント
南井正弘
南井正弘さん
いくつになっても楽しく走り続けるには?
多くの不安や疑問を、年齢を重ねて走る続ける先駆者やプロが解決。
人は確実に老化し、加齢とともに運動能力も低下する。40代を超えたランナーなら、「自分はいつまで走れるのだろう?」と漠然と不安に思ったことがあるに違いない。この本の著者、南井正弘さんは、スポーツシューズを1000足以上履き比べ、15年間ほぼ毎日走り続けるアラ還のファンランナー。15人の先駆者やプロに「楽しく走り続けるためのヒント」を聞き、導き出された答えとは?
━━今年57歳を迎える南井さん。2007年11月からほぼ毎日走り続けているといいます。走り始めたきっかけを教えてください。
僕の場合、ライターとしてファッションスニーカーの記事を書いているとき、スポーツブランドが主催したメディア対抗のチャレンジ企画で走ったのがきっかけです。他のチームに負けたくなくて毎日走っていたのですが、イベントが終わってからも走る習慣が続いていいて、1日に6km、ほぼ毎日走っています。
普段は無理をせずに、自分が楽しいと思うペースで走っていて、このスタイルが僕に合っているのだと思います。走った後はご飯が美味しいし、同年代の人と比べて健康でいられることもモチベーションになっているかな。
━━「何歳まで走れるのか?」というタイトルとともに、各章の見出しが一つひとつ、ランナーに響きます。この本はどのような経緯から生まれたのでしょう?
今は走ることを楽しめていますが、最近は時々、「いつまで走ることができるのだろうか?」と考えるようになりました。実際に、一緒にRUNを楽しんでいた人のなかには、故障や目標タイムを達成したことで燃え尽きてしまい、走ることをやめてしまった人がいます。自分は80歳になっても楽しく走り続けていたい。そのための秘訣を知りたいと思いました。
一緒にこの本を作った担当編集者の方が、走りに対して求めていることが似ていて、同じくらいのレベルだったことも、多くの市民ランナーの方に共感してもらえる内容に繋がっているのではないでしょうか。例えば、まったく走らない人だったら、ランナーが抱える疑問や不安はわかりませんよね。反対に、陸上部出身だったり、サブ3レベルでも視点が違ってきていたでしょう。
走ることを楽しみたい、でもダラダラ走るのではなく参加してみたい大会があって、タイムもついてくればいいなという感じ。その方向性が一致して出来上がった本です。
━━本書で取材されているのは、いずれも現役ランナー15名です。金メダリストやマラソン界のレジェンド、医師やトレーナーといった多彩な顔ぶれですが、どなたが一番、印象に残っていますか?
お話を伺うにあたり、年齢がひとつの基準になりました。あまり若い方だと加齢に対する不安はまだなくて、「何歳まで走れるか?」と聞いてもピンときませんよね。また、走ることに対して目的があって情熱を失っていない人、いろんな走り方に対してポジティブに受け入れてくれる人という点にも、こだわりました。
すべての方のお話が素晴らしくて、どなたか一人を選ぶことはできないのですが……。ただ、ずっと不思議に思っていたのが、現役時代に有名だった方ほど、引退後は走らなくなってしまうこと。
その疑問を解決してくださったのが、プロランニングコーチでマラソン解説者の金哲彦さん。トップを目指して辛いトレーニングを続けてきたランナーほど引退した瞬間に解放され、走ろうという気持ちにならないのだそうです。また、「トップになれないなら走らない」「市民ランナーに抜かれるのは悔しいから走らない」という理由もあるようです。自分自身は純粋に楽しくて好きだから走っているので理解できなかったのですが、金さんのお話を伺って「なるほど」と思いました。
また、ものすごく勇気をもらったのが、陸上競技における日本女子初の金メダリスト、高橋尚子さんの、「100人いたら100通りの楽しみや意味がある。走りたいように走っていいんです」という言葉です。高橋さんはいつお会いしてもポジティブなオーラがすごくて、前向きなことしかおっしゃいません。その姿勢から走ることが心から好きであることが伝わって、こちらも楽しくなってくるんですよ。
━━ストレッチやテーピング法、大会前後の食事のほか、実際に愛用されていたシューズについても詳細に紹介されています。さすが、「スポーツシューズを1000足以上履き比べた男」ですね!
自分の走りに気付きを与えてくれたのが、動作解析の世界的企業であるダートフィッシュ・ジャパンの藤井透さんの「骨盤の前傾を意識する」というアドバイスです。走り始めたころはランニングの指南本などを読んで意識していたはずなのに、ここ数年は忘れていました。実際に昨年のロンドンマラソンで意識してやってみたら、30kmを過ぎてからがすごく楽になりました。
スポーツトレーナーの森川優さんには、補強運動とストレッチを教えていただき、本書ではイラスト付きで紹介しています。そのなかで、「肩甲骨を動かすと下半身も自由になる」というのは、まさにその通り。これまでストレッチや補強運動にあまり時間を割くことはなかったのですが、ある程度の時間を使って行うようにすると、体のコンディションがよくなることを実感しています。
僕が走るモチベーションをキープし、故障なく過ごしてこれた理由の一つに、さまざまなタイプのシューズにトライする機会があったことも大きいです。そのなかから印象に残った12足を紹介しています。RUNって、とてもシンプルで進化しないイメージがありますよね。実際に2017年ごろまで大きな変化がなかったのですが、厚底レーシングシューズの登場により走り方の常識が劇的に変わり、タイムもぐんと伸びました。でも、どんな優秀なシューズでも履きこなせる肉体がなければかえって故障に繋がるし、足形や走力、走るシーンによって選ぶシューズは変わってきます。その選択の参考になればと思いました。
━━本書のテーマである「何歳まで走れるのか?」の答えは得られましたか?
人間の骨と腱には寿命があり、加齢とともに確実に衰えてきます。
ただ、筋肉には基本的に寿命がなく、いくつになっても鍛えられるといいます。だから、関節周りに筋肉をつけておけば、長持ちするのだそうです。
また、体育会系陸上部でバリバリ走っていた人より、僕のように遅く始めて楽しんで走っている方が長続きすることがわかりました。学生時代からアスリートとして活躍している人ほど体を酷使していることが原因のようです。
ランナーにつきものと言われている膝の故障を防ぐには、正しい走り方とともに早期発見と早期治療が大切です。スポーツ障害の治療を得意とする整形外科医の松田芳和さんは、「膝ドック」をすすめておられます。脳ドックは広く知られていますが、膝ドックという言葉が当たり前に使われるようになればいいと思いました。
お話を伺った中で最高齢は、99歳の現役ランナー。72歳で国内外の旅ランを楽しんでいらっしゃる方もあり、彼らのRUNスタイルは見習いたいと思いましたし、希望になりました。「楽しく走る」という自分のRUNスタイルが間違ってないことが確認できたのもよかったです。
━━南井さんが「楽しい」と思えるエネルギーはどこから湧いてくるのか教えてください。
RUNはテニスやゴルフなどと違い、シューズさえあればどこでも一人で始められるスポーツ。走ることを楽しんでいる人の大部分は、「自分がこんなに走るようになるとは思わなかった」という人が多いです。
僕も走り始めたころは、ハーフマラソンでやめておこうと思っていましたが、ハーフを1時間40分台で走れるようになり、周りから、「これならフルでも絶対に4時間を切れる」と言われ、調子にのって挑戦したら全くダメで……(笑)。
人間の体はどうやら30kmくらいまでしか走れないようにできているらしいです。42.195kmのフルマラソンは、人間の限界を超えていることになる。だからフルを走った直後は、「もう二度と走りたくない」と思うほど苦しいのだけど、しばらくするとまたむくむくと走りたい気持ちが湧き上がってくる。そんな不思議な魅力があるんです。
「ランナーの常識は、一般の人の非常識」とはよく言われることですが、この達成感と楽しさを知ると、やめられなくなるんですよ。
この本の取材と執筆を通じて、改めて走るというのは不思議で魅力的なスポーツだと実感しましたし、年齢を重ねても夢が広がると思いました。「何歳まで走れるのか?」と不安に思っている人だけでなく、いつかは走りたいと思ってなかなか始められない人、いったん走ることをやめてしまった人の背中を押してあげる1冊になればいいと思います。
南井正弘(みない・まさひろ)
愛知県西尾市生まれ。フリーライター、「ランナーズパルス」編集長。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年勤務後、ライターに。「フイナム」「価格.comマガジン」「モノマガジン」「SHOES MASTER」「Beyond Magazine」をはじめとした雑誌やウェブ媒体に、スポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズに関する記事を中心に執筆。主な著書に、「スニーカースタイル」「NIKE AIR BOOK」ほか。ランニング歴15年。「楽しく走る!」をモットーに、ほぼ毎日走るファンランナー。世界6大マラソン(東京・ボストン・ロンドン・ベルリン・シカゴ・ニューヨークシティマラソン)を全て完走。ベストタイムはフルマラソンが3時間50分50秒、ハーフマラソンが1時間38分55秒。
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