<刊行記念インタビュー>

『60歳は人生の衣替え』

地曳いく子さん

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地曳いく子さん

50歳では感じなかった、アラカンの危機!?
そして、そこから考えた「アフター還暦」の生き方とおしゃれとは?

10年前『50歳、おしゃれ元年。』(集英社刊)で、服が似合わなくなってきたミドル世代に向けて新しいおしゃれ観を示してくれたスタイリストの地曳いく子さん。
いつも同世代の一歩先を歩いてきた地曳さんでしたが、コロナ禍で還暦を迎え、思わぬつまずきを経験することに。自身の体験もからめて得た「アフター還暦」を乗り切る知恵が満載のこの本。地曳さんの言葉から、たくさんのヒントをもらいました。

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――地曳さんといえば、「BBA(ババア)上等!」シリーズのように愛ある毒舌(?)で同世代のお悩みをスパッと斬りつつ、元気をくださる方という印象があるのですが、還暦を迎えて、これまでにない落ち込みを経験されたとか?

 つい最近64歳になったんですけど、つくづく「還暦をナメてたな」と。
 最初は「映画もシニア料金で観られるし、ラッキー! 還暦楽勝!!」くらいにしか思っていなかったのですが、その後“すべり腰”を発症したりして急に体にガタが来てしまって。
 それに加えてコロナ禍で仕事も激減。「泣きっ面にハチ」ならぬ「還暦にコロナ」で完全に気分もダウンしてしまいました。
 そこで、これはまずいぞ、「アフター還暦」について真剣に考えなきゃ、と思ったんです。

――40代から50代になったときとは違う感触があったのですね。

 そうなんです。
 そこで考えたのが、「そうだ、年齢を重ねるというのは、季節が春夏秋冬とめぐるようなものなんじゃないか」ということ。季節の流れにさからえないのと同じように、歳をとるのにもさからえない。流れにあらがわず、季節が変わったら衣替えするように、人生も、そのときそのときに合わせて衣替えしたらいいんじゃないか、と思ったんです。
 たぶんそれまで、年齢を重ねてはいても、心の中では38歳くらいのつもりで生きている私がいたんですね。それで、生き方にもおしゃれにも無理が出てきてつらくなってしまった。まあ、往生際が悪いんですけど(笑)。
 ただ、だからといって、親世代と違って今の60代は還暦をすぎておとなしく「理想のおばあちゃん」になれるわけでもない。38歳でもおばあちゃんでもない、「今の自分」にアップデートしなくては、と思いました。それを模索したのが今回の本です。

――セルフイメージと実年齢がうまく合わない人は多いかもしれないですね。

 みなさんふだん、自分が60過ぎてると思って生活してないと思うんですよ。書類に年齢を書いたり、ネットのアンケートを答えたりするときに思い知る。
 でも、その実年齢とセルフイメージを調整しようとすると、「もう若くないんだから」とか「昔と同じようにはできなくなった」とか自分を否定して疲れてしまうので、もう「アフター還暦」という新しいキャラになった気持ちで生きたほうが楽だと思います。その新しいキャラで残りの人生を楽しむ。それがこの本のいちばんのメッセージです。

――本に書かれていますが、人気スタイリストである地曳さんがサイゼリヤを楽しんだり、最近いちばんワクワクしたお買い物が競泳用水着だったと知ってびっくりしました。「新しい地曳いく子」での楽しみ方は、これまでとずいぶん変わったようですね。

 そうなんです。きっかけはすべり腰の治療としてスイミングクラブでクロールを習い始めたことだったんですけど、あるとき神の掲示を受けたように「“初めてバタフライ”のクラスに入ってみよう」って。
 そうしたら、私と同じように、60代70代でバタフライデビューする方がたくさんいたんです。みなさん、ご家族には「なんでその歳でバタフライなんか習うの?」って言われるそうですが、答えはひとつ、「楽しいから!」。
 まさにこの本の主題です。
 私もすっかり夢中になって週に2〜3回通ったら、ついに先日、先生から「バタフライ合格!」をもらって本当に嬉しかった! 通い過ぎて塩素で水着がボロボロになってしまったので、先日買い替えました。

 歳を重ねると体力は落ちてくるんですが、それは決して悪いことばかりじゃないんです。
 若い頃は無駄に体力があるから旅行でも遊びでも仕事でも詰め込みすぎていたけれど、今は自分の体力に見合った行動でいいし、そうやって絞り込んだほうが無駄打ちせずに深く楽しめることもある。
 お金も同じことで、私はコロナでずいぶん打撃を受けましたが、今の時代、今の自分の経済感覚に見合った楽しみ方はたくさんあるということに気づきました。

――歳を重ねたことを逆手にとって楽しむこともできるということですね。

 60歳以降って、お子さんや旦那さんから手が離れたり、ご両親の介護が終わったりと、今まで人のために生きてきた人が、自分のために生き始められる時期でもあるんですよね。
 だから60歳で一区切りと考えて、いろいろなことを見直してみたらいいと思うんです。もう少し自分を大事にして、自分が楽しくすることを第一に考えてもいいんじゃないか。お仕事をなさっている方も、今までは周りに合わせたり、(相性が)合わない人ともいっしょにやっていたけど、もっと選んでいいと思います。合わない人とはどうしても合わないんですから。60過ぎたら、合わない人と付き合ってる暇はありません!(笑)

――おしゃれが停滞してしまった方へのアドバイスもたくさん紹介されていますね。
「1シーズンにひとつ、トレンドものを買う」というのはなるほどと思いました。

 はい、それはボケ防止でもあります(笑)。なぜ新しいものをたまには買ってみようと薦めるかというと、ずっと同じものを着ていると時代の流れにも鈍感になってしまうから。
 今って、明治維新のときと同じくらい、世の中や生活様式が変化しつつある時代だと思うので、せっかくこの時代に生きているのだから、一つぐらい「ちょっと変だな」と感じるトレンドものも試してみたら?という提案です。
「変だな」と思うということは馴染みがないということで、それは新しいということ。そういう感覚を取り入れることも、今の時代を楽しむコツだと思います。

──馴染みがないシルエットのものを着ると、「新しい自分」が発見できるかもしれないですね。

 そうそう。意識をリセットしたり、今の時代にアジャストさせるという意味で、服とか髪型の力はすごいと思いますね。私たちよりちょっと上ぐらいの年代の方で、昔の髪型のまま、前髪をくるりんとしてセミロングにしていらっしゃる方がいるんですけど、可愛いおばあちゃんには見えるけど、その方はそこで止まっちゃっているんですよね。
 それ自体は悪いことではないのだけれど、私はこれからもいろいろやってみたい。私の通っているスポーツクラブの同年代の方も、チャレンジしてる方はすごく楽しそうですよ。白髪にちょっとブルーのメッシュを入れたり。この年齢だから楽しめるおしゃれですよね。

──お洋服のチャレンジアイテムとして、おすすめはありますか?

 ちょっとハードルが高いと思うかもしれませんが、オールインワン(つなぎ)なんかいいかも。私たちの世代だとつなぎといえばダウンタウンブギウギバンドのイメージになっちゃいますが、今のつなぎは全然違いますから(笑)!
 残りの人生あと20年として、一度くらい挑戦してみてもいいのでは? と思います。

 水泳仲間の73歳の素敵なおじ様が「俺の人生あと10年だから」って言うんです。それって前だったら「えー! そんなこと言わないでもっと長生きして」と言ったと思うんですが、今、人生の長さについての人の考え方もすごく変わってきて、「じゃあその10年をどれだけ楽しむか」というふうになってきたと思うんです。
 それよりいっぱい生きちゃったら生きちゃったで楽しいし、もしそれより前に寿命が尽きたとしても、楽しいことを積み重ねていけば悔いはないんじゃないか。私も、母と同じ寿命だとするあと5年。そう考えると、やりたくないことをやってストレスを抱えている時間がもったいない!
 大事なのは、とにかく楽しんで、ストレスをためないこと。疲れ過ぎないこと。疲れるとブスになるし、性格も悪くなりますからね(笑)。

取材・文/小嶋優子  撮影/フルフォード海

著者プロフィール

地曳 いく子
1959年生まれ。スタイリスト。文化学院専門課程美術科卒業。『non-no』をはじめとして、『MORE』『SPUR』『éclat』『Oggi』『FraU』『おとなスタイル』などのファッション誌で約40年にわたり活躍。現在はスタイリングのみならず、バッグや洋服のプロデュースやトークショー、TV、ラジオで幅広く活躍中。単著に『50歳、おしゃれ元年。』漫画家・槇村さとるとの共著「BBA ババア上等シリーズ」(ともに集英社)、『服を買うなら、捨てなさい』『着かた、生きかた』(ともに宝島社)など。最新刊は『ババア上等! 番外編 地曳いく子のお悩み相談室』(集英社文庫)。

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