〈刊行記念インタビュー〉
『教えて! 毎日ほぼ元気のコツ 図でわかる鎌田式43のいい習慣』
鎌田實さん
鎌田實さん
人生の最後まで明るく元気に。
鎌田式健康法の“集大成”できました!
健康づくり運動を始めて50年。鎌田式健康法の集大成とも言える『教えて! 毎日ほぼ元気のコツ 図でわかる鎌田式43のいい習慣』が刊行されました。
睡眠薬の常用や膝関節の痛み、高血圧に肥満など、「老いの危機」と向き合い、乗り越えてきた鎌田先生。ご自身の経験と長年の知見をもとに「よい眠りとは」「理想の運動」「鎌田流『がんにならない生活』」「ボケたらどうしよう」など、多くの中高年が抱える43の悩みにQ&A形式で答えます。
健康は毎日の生活習慣から。数多くの人の意識を変え、行動を変えてきた鎌田先生に、お話を伺いました。
──鎌田先生にも〝老いるショック〟があったんですね。後期高齢者に突入していく中で、睡眠障害など様々な問題を抱えた、その体験と解決策を踏まえてアドバイスをされています。
この本の最初を「睡眠薬」の問題で始めたのは、いま、日本で睡眠障害を起こしている人がものすごく多いこと、それから僕自身も、睡眠薬を飲んでいたことがあるからです。
僕がうまく眠れなくなったのは、チェルノブイリの放射能汚染地域やイラク難民キャンプなどに、子供たちの支援に行っていた頃からです。日本に戻ってくると仕事が溜まっている。時差ボケしているのに、翌日から働くためには無理やり寝ておかなければいけないということで、睡眠薬に頼るようになっていきました。
睡眠薬の服用率は、若者よりも高齢者、男性よりも女性が多いんです。睡眠に悩んでいる方へアドバイスをするためには、まずは僕自身がどうやって睡眠薬から離脱したかを書こうと。そうすることで、この本の骨格を示すことができると思ったんですね。教科書的な正しさだけでなく、生身の人間がどのように変化していったかを書くことで、読む人に、「自分もできるかもしれない」と思ってもらいたい。そして日々の行動を変えてもらいたい。そう考えて、高血圧や肥満対策、運動法などについても、僕の体験をオープンにしています。
──鎌田先生は一時期は体重80キロでしたが、ウォーキングと、かかと落としやスクワットなどの「筋活」、1日350グラムの野菜をとる「ベジ活」などによって、72キロになり、高血圧も改善されています。
高齢になると、誰しも一つや二つは問題を抱えているものなんですよ。でも、問題を抱えているからダメなのではなく、たとえば高血圧であっても、脳卒中や心筋梗塞が起きない程度にコントロールすることが大事。そのためには、食事や運動、睡眠といった毎日の暮らし方が重要になってくるんです。
でも人間、野菜を一日に350グラム食べるといいとわかっていても、なかなか達成できないものです。僕は50年間の健康づくり運動を通して、どうしたら人々に行動変容が起きて、生活習慣を変えられるか。そしてそれを持続させられるかを考え、試行錯誤してきました。僕の講演では、必ず図やグラフを使うんです。それから写真。昔は壁に模造紙を貼って手書きしていましたけど、あるときからスライドになり、今はパソコンのパワーポイントになりました。視覚的に訴えることで、「頭の中」と同時に「心の中」にぐっと入り込めるんじゃないかと考えているんですね。だからこの本にもたくさんの図をはじめ、「お手抜き速遅あるき」など、僕がやっているおススメの運動や食事の写真を載せています。
──鎌田先生のアドバイスは大らかなところがあって、その点も読む人を励ますと感じます。「ほぼ元気」の「ほぼ」にも、ホッとさせられました。
世の中には様々な健康法があって、中には病気をなくそうというものもあります。でも僕は、病気を消し去ることに注力するよりも、少しくらい病気があっても、自分の足で歩き、買い物に行き、好きなものを買って、おいしいものを食べて、という生活が最後までできたらいいんじゃないかと思っている。90歳の壁を元気に越えて、人生の最後の日まで、その人らしく幸せや喜びを感じて生きていくことを目指すのが、鎌田式健康法です。
──食事については、たんぱく質をとる「タン活」と野菜をとる「ベジ活」が基本で、認知症をはじめ様々なリスク予防になると書かれています。
たんぱく質をとるには、肉や魚、大豆のほか、高たんぱくの乳飲料やヨーグルトを活用するといいんですよ。僕が実際に食べているヨーグルトの写真もこの本に載せています。野菜は、以前出した本(『鎌田式 健康手抜きごはん』)にも書きましたが、忙しい方はカット野菜や冷凍野菜を活用すると便利です。若い女性やサラリーマンなどにも、上手に使ってもらいたいですね。
──そして、「こうや豆腐」はタン活の〝飛び道具〟だと。
こうや豆腐は、コレステロールや中性脂肪、血糖値を下げるレジスタントタンパク、骨を強くするカルシウムや貧血を防ぐ鉄分、さらには新陳代謝を活発にする亜鉛までが含まれている一石三鳥のスーパー食材。そして何よりおいしい!
歴史を辿ると、鎌倉時代、高野山の僧侶によって作られた精進料理がこうや豆腐の始まりとされています。いま、SDGsの観点から、世界で代用肉に注目が集まっていますが、日本には昔から、代用肉に近い食品があったんですね。その価値が時代とともに見直され、これからどんどんブームになっていくんじゃないかな。
わが家では、こうや豆腐から作られた「粉豆腐」を使ったお好み焼きをよく作ります。小麦粉の代わりに粉豆腐を使って、豚肉や牡蠣など好きな食材を入れて焼くとおいしいですよ。
──認知症の予防にもなる「コグニサイズ」がいくつか紹介されています。やってみるとけっこう難しいですね……。
コグニサイズとは、「コグニッション(認知)」と「エクササイズ(運動)」からの造語です。脳を鍛えるためには、「体を動かしながら頭を使う」ことがとても大事なんですね。
たとえば若い人だったら、通勤で駅まで歩くときに「1000から11を引き続ける」というのをやってみてください。ちょっと難しい人や高齢者は、ウォーキングしながら、「100から7を引き続ける」。間違えてもいいんです。むしろ間違えることが大事で、戸惑ったり、まごまごしているときに、脳は活性化するわけだから、気楽に、楽しんでやってみてください。
こうした脳トレは短期記憶を鍛え、認知症予防になるだけでなく、「前頭前野」を鍛えることにもつながります。人間の心の中核といわれる前頭前野が衰えると、感情のコントロールが利かなくなって怒りっぽくなってきます。突然怒鳴り出すおじいちゃんがいたら、前頭前野の働きが悪くなっている可能性がある。コグニサイズをして前頭前野を活性化することで、人間的な寛容さや優しさ、許す気持ちを保つこともできるのです。
──Q&A形式なので、自分が気になるところから読めますね。〈ペットボトルの蓋が開けられない! どこもかしこも筋力低下を感じます〉に目を留める女性は多いと思います。
筋肉の低下はまず、握力の低下に表れます。ペットボトルや瓶の蓋が開けにくくなったという人は黄色信号。歳をとってからも好きな場所に出かけたり旅行をするためには、ある程度の筋肉が必要です。握力アップのトレーニングとして、「壁立てふせ」を紹介しました。
ペットボトルの蓋が開けられないときはどうしたらいいか、という項目ができたのは、編集者やライターたちの質問に、僕が答えるという形でこの本を作っていったからです。これは初めての試みでしたが、一般の人が抱えているリアルな質問をぶつけてもらったことで、僕の中の引き出しが、これまでとは違った方向から開いていった。50年間健康づくりをやってきて、体系立った知識はある一方で、〈理想のバナナうんちに近づくには?〉とか、〈「動脈硬化があるかどうか」を手軽に調べる方法は?〉という切り口から健康を考える発想がなかったんですよ。今回のQ&Aという形式によって、僕の集大成であると同時に、これまでにない新しい本ができたと思っています。
──〈人生を変えるのは大変。ホルモンを出すのは簡単!〉という言葉が刺さりました。
生き方本などを読んで、自分も生き方を変えれば幸せになると感じ、実践されている方もいらっしゃるでしょう。でも僕は内科の医者だからホルモン主義(笑)。心がけ、つまり精神論では限界があると思っています。
人の心に良い影響を与えるホルモンには、幸せホルモンと呼ばれるセロトニン、快感ホルモンと呼ばれるドーパミン、絆ホルモンのオキシトシンがあります。セロトニンの9割が腸で作られるので、「腸活」は大事なんですね。それから絆ホルモンのオキシトシンは、人に親切にしたときや、ペットを抱いたときに出ます。この絆ホルモンには抗酸化力があることもわかってきました。老化を防ぎ、若返りにつながるのです。ということは、他人や動物を大事にしていると、結局は自分が健康になる。他者への優しさや親切は、回りまわって自分のためになるということです。他のホルモンもどういうときに、どうしたら分泌されるのかを書いてありますので、参考にしてみてください。
──健康寿命を延ばすことに影響している要因として「社会的なつながりの多さ」も挙げられています。長いコロナ禍で社会とのつながりを絶たれた人も多いと思います。これから再びつながるにはどうしたらよいでしょうか。
閉じこもらないことが大事です。社会とつながるために「自分の殻を破ろう」などと難しく考える必要はなくて、まずは外に出て、散歩をしてみる。散歩が安定してできるようになったら、買い物に行く。それから図書館に行ってみる。小さな字を読むのが大変な人は、子供の頃に読んだ絵本をもう一度読むと、発見があったりと楽しいものです。ちなみに本を読む人は、そうでない人よりも2年近く寿命が長くなる、という米イエール大学の調査結果があります。
そうしているうちに、公民館の趣味の会に出てみようかな、という気持ちになるかもしれない。自分は歳をとって大変だと思っていたら、もっと大変な人がいるとわかって、ボランティアや手伝いをするようになるかもしれない。気づいたら社会とのつながりができているものです。で、そのつながりは、間違いなく認知症予防にもなるし、筋肉をつけるし、自分の人生を面白くしてくれます。
自分にできることを少しずつ積み重ねていくことで、自信がつき、健康になり、人生が生き生きとしてくるはずです。
鎌田 實 かまた・みのる
1948年、東京都生まれ。1974年、東京医科歯科大学医学部卒業。1988年、諏訪中央病院院長に就任。地域と一体になった医療や、食生活の改善・健康への意識改革を普及させる活動に携わる。2005年より同病院名誉院長。チェルノブイリ原発事故後の1991年より、ベラルーシの放射能汚染地帯へ医師団を派遣し、医薬品を支援。2004年からイラクの4つの小児病院へ医療支援を実施、難民キャンプに5つのプライマリ・ヘルス・ケア診療所をつくった。国内でも東北をはじめとする全国の被災地に足を運び、講演会、支援活動を行っている。近著に『鎌田式「スクワット」と「かかと落とし」』『鎌田式健康手抜きごはん』『60代からの鎌田式ズボラ筋トレ』『60歳からの「忘れる力」』などがある。
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