SNSというコミュニケーションツールからZ世代の今を探る
コロナ禍でSNSのユーザー数、利用時間が急激に伸び、もはやSNSなしで生活ができないほど、SNSは多くの人の“日常”になっている。ただし、光が強くなれば影が濃くなるのは世の常で、SNS発のフェイクニュースや詐欺広告、誹謗中傷など、負の面も大きくなっている。
SNSを最も多く利用するのは、Z世代(1996年から2012年頃に生まれた若者)。生まれた頃からインターネットやSNSが存在し、スマホに触れている「デジタルネイティブ」である。
彼らの消費行動や価値観に詳しく、『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか Z世代を読み解く』などの著書のあるニッセイ基礎研究所の廣瀬涼氏に「SNSとZ世代」を例に、今の時代のコミュニケーション、承認欲求の在り方の変化、そして大人たちはSNSとどう関わるべきか、話を聞いた。
廣瀬涼さん
◆Z世代が好む単発コミュニケーション
――コロナ禍でSNSの使われ方が変わったように感じます。
SNSを考えるとき、大きな影響を与えているのが3.11とコロナ禍です。まず3.11以降、マスメディアの報道だけでは社会情勢を捉えられないと感じる人が急増しました。コロナ禍でさらにそれが進み、即時性や多様性の観点からも、SNSが社会を知る上で欠かせないツールになっています。
特にZ世代についていえば、小学生から大学生まで幅はありますが、コロナ禍を「学生」として経験した人が多い彼らは突然、日常を奪われたわけです。外に出るだけで怒られ、学校にいつ行けるかわからない。授業はオンラインで行われ、クラスメイトと顔を合わせて会話もできない。そんな状況下でSNSは共感を得るツールとして、彼らの大きな精神的支柱になっていきました。不安なのは自分だけじゃないことを、SNSを通じて確認していったんです。
また、コロナ禍での大きな変化に、「配信」が広がったことがあります。それまではTV出演やライブが中心だったアイドルや芸人らがファンに向けて配信を始め、それがインフルエンサー、一般の人たちへと広がっていきました。特に2020年以降、誰もが気軽に配信するようになりましたよね。
――SNSと一言で言っても、LINE、YouTube、Instagram、X(旧Twitter)、Facebook、TikTok、BeRealと、さまざまなプラットフォームがあり、Z世代はそれらを使い分けていると著書に書かれています。他の世代とは違う特徴は何でしょうか?
Z世代より前の世代は、SNSの発展とともにSNSを使ってきました。テキストをシェアできるようになり、次は画像を投稿できるようになり……と、SNSの発展のプロセスを知っていて、その過程で起きたさまざまな失敗も見ています。たとえば“バカッター”と呼ばれる人たちが社会問題化したことで、SNSは冷静に使わなければいけないぞ、という意識を持つようになりました。私自身はZ世代の前のY世代(1981年~1995年頃に生まれた世代)に属するのですが、SNSでの顔出しや実名出しは危険だと、学校の教科書に書いてあったのを覚えています。
それに対して「デジタルネイティブ」であるZ世代は、もはや顔を出すことが普通になっている。ものごころついたときからSNSがあったことで、上の世代のような警戒心がありません。彼らはInstagramやTikTokをよく使うのですが、なかでもInstagramの「ストーリーズ」機能は、いま、彼らの消費行動に大きな影響を与えています。
――写真や動画をシェアできるInstagramの「ストーリーズ」は、24時間後に自動的に削除され、見せたい友達だけに見せる設定も可能ですよね。Z世代は「ストーリーズ」の何にそんなにひかれているのでしょうか?
今この瞬間、目の前で起きていることをリアルタイムに伝えることができる。その“撮って出し”感が、Z世代に受けているのだと思います。彼らにとってSNSは、スクープ狙いの、いわば報道ツールにもなっている。前の世代と違って、新聞やテレビ以上に、SNSから情報を取得するのが当たり前になっているからこその感覚だと思います。24時間で消えることも彼らの警戒心を甘くしていて、その結果、炎上につながるケースもあります。
もう一つ、親密な友人だけに送れる点、それから、「送ったら終わり」というシンプルなコミュニケーションが取れる点も、好まれています。会話がだらだら続くLINEを面倒だとか、プレッシャーになると感じている若者はけっこういます。投稿したいときに、投稿を見せたい相手にだけ共有できる、という気楽さが、Z世代に受けているのです。
――そんなZ世代でもSNS疲れはあるのでしょうか。
SNS疲れは当然あります。そういう場合は、「見る専」になるんです。自分の投稿はせず、人の投稿を見る専門です。これまでの投稿を全部消して、見る専に移行する人もいますね。
震災の後などは情報が溢れますから、SNSを開くことすらやめた人が中にはいたと思います。ただ、今の時代、SNSから完全に離れると情報が入ってこないので、Z世代に限らず見る専になってもいいかもしれません。
◆不安定さがより依存度を高めていく
――Z世代はSNSへの依存度が高いために、リアルな人間関係よりも、SNSでの人間関係を重視する傾向があると言われます。会社の飲み会を簡単に断る一方で、SNSで認めてもらうために推し活を頑張る……。こういった人間関係は、上の世代から見ると理解が難しかったりします。なぜSNSへの依存度が高くなるのでしょうか?
「リアルかSNSか」という二択があるのではありません。Z世代の軸は「自分自身=自分ファースト」にあります。自分で選択した場所、自分で選択した人を大事にしようとします。ただ、リアルな社会では、学校でも会社でも、人間関係を主体的に選ぶのは、限定的には可能であっても、難しいですよね。たとえば学校で同じクラスになる人を選ぶことはできません。それに対してSNSでは、世界中の人とつながれて、そこから趣味のあう人、自分をわかってくれる人を選ぶことができる。だからSNSのほうが心地よい、となりがちなのです。
大学で誰とも話さないんだけど、SNS上でずっとリプライを返している学生が、けっこういます。目の前の人間関係より、SNSの人間関係のほうが彼らにとって心地よく、プライオリティが高いから、そうなっているのです。
とはいえ、SNS上の人間関係は確固たるものではありません。彼らはそれがわかっているがゆえに、さらに依存していくようになるのです。
――SNSの人間関係は、「いいね」の数や「フォロワー」数など、数値で可視化されます。常に他人と比較されるので、リアルな人間関係より疲れる側面もある気がします……。
自分が選択できるということは、裏を返せば、人からも選択されるということです。自分はフォローしているのに相手にはフォローされないなど、世知辛いことも多いですし、SNSには「ブロック」文化もあります。リアルな人間関係ではブロックなど、容易にできることではないですが、SNSではワンクリックでできてしまう。こうした不安定さが、先ほども述べたように、さらなる依存を強めていくことになるのです。
常に可視化され、比較されるSNSがもたらした影響の一つに、「自己肯定感」の在り方の変化があると思います。
Z世代より上の世代は、自分の内部から生まれてくる自信が、自己肯定感につながっていました。自己肯定感を裏付けるものは、主に、自分の中にあったのです。それに対してZ世代は、他人の肯定や賞賛が、自己肯定感につながりやすい。誰かが認めてくれたら、自己肯定感が高くなるというわけです。
Googleで〈若者 自己肯定感〉と検索すると、「(自己肯定感が)高い」、「低い」という両方の結果が出てくるのはそのためです。他者に依拠しているから、ある時は高くなったり、ある時は低くなったりするのです。
――ということは、たとえば会社でZ世代とうまく付き合うには、褒めるのが大事だということでしょうか。
よく聞かれる質問ですが、一番大事なのは、年齢や世代を取っ払って、一人の人間として接することだと思います。
その上で、彼らの軸は自分自身にあるので、主体性や権利を主張するところはあります。同時に、他人の評価を気にするので、簡単な仕事ばかりやらされていると、認めてもらえていないとショックを受けて、会社を辞めてしまったりもします。彼らなりの理屈で動いてはいるものの、上の世代からしたら矛盾しているようにも見えるかもしれません。どの世代も共に生きているのだから、お互いの歩み寄りが必要だと、私自身は思いますね。
◆Z世代は親のアカウントを知っている!?
――ここまでZ世代とSNSについてお聞きしてきましたが、現実として、さらにその下の世代(α世代)もSNSを使うようになっているようです。大人も含め、SNSと上手に付き合うために注意すべきことがあれば教えてください。
インターネット以前の時代にはあった「ゾーニング(情報発信者が「情報を見たくない人・見せてはいけない人」に行き届かないよう線引き・配慮すること)」が、SNSの登場によって失われたことに危機感を抱いています。昔は、未成年はアダルトコンテンツを見ることができませんでした。たとえば整形の情報、パパ活、闇バイト……そういった情報にアクセスできる道が制限されていたわけですが、SNSの登場によって、すべての人にオープンになりました。判断能力や責任能力が十分でない子供たちにとって、こうした状況が良いとは思えません。
一方、SNSをいまや60代、70代も使っています。10代、20代が使うSNSを、大人たちも同様に見ていることで何が起きているかといえば、大人の幼稚化です。
――SNSで大人が幼稚化している……!
たとえば40代、50代の人が、TikTokの若者向けのコンテンツをマネして、自分も同じような投稿をしているのを見ると、何とも言えない気持ちになるのは私だけでしょうか。 それこそ余計なお世話かもしれませんが、同年代がその投稿を見たら、彼らは自分をどう評価するのか、と考えないのかなと思います。そのような思考が欠けている部分や、若者だから許されるコンテンツを、一部の大人がマネして大衆に向けて晒している点に幼稚性を感じます。あくまでもメインユーザーは10代、20代であることや、自分と同年代、ひいては子供世代に自分の醜態が晒されていることを自覚しておく必要があると思います。
それから、こんな話を聞いたことがあります。Z世代の若者が親のSNSアカウントを見つけて、ショックを受けたというのです。親が陰謀論にハマっていたり、誰をフォローしているかがわかって、気まずいと。そもそもアカウントが子供にバレる時点で、リテラシーが低いと言わざるをえません。親子関係にも影響しますし、個人情報流出の危険もありますので、親世代は気を付けてほしいと思います。
- 著者プロフィール
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ひろせ・りょう
大学院博士課程を経て2019年、ニッセイ基礎研究所に入社。専門は現代消費文化論。「オタクの消費」を主な研究テーマとし、10年以上にわたってオタクの消費欲求の源泉を研究している。昨今は自身の経歴を活かして若者(Z世代)の消費文化についても研究を行い、講演や各種メディアで発表している。NHK『おはよう日本』、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』、TBSテレビ『マツコの知らない世界』などで若者のオタク文化について制作協力。著書に『あの新入社員はなぜ歓迎会に参加しないのか Z世代を読み解く』(金融財政事情研究会)、『タイパの経済学』(幻冬舎新書)がある。生粋のディズニーオタク。