【対談】姫野カオルコ×大塚ひかり
<顔面放談2024/妄想キャスティング編>
「源氏物語」を実写ドラマ化するとしたら……⁉
大塚ひかりさん(左)と姫野カオルコさん(右)。
著名人の顔を見つめて半世紀。稀代の「顔マニア」として、その偏愛を『顔面放談』(集英社)に綴った姫野カオルコさん。
一方、「源氏物語」の全訳を手がけ、『嫉妬と階級の『源氏物語』』(新潮選書)など、「源氏物語」を題材に多くの本を刊行している大塚ひかりさん。
大河ドラマ「光る君へ」で空前のブームに沸く「源氏物語」ですが、ここに「源氏物語」登場人物たちの【顔・姿・形】をテーマにした対談が実現! おふたりには、もしも「源氏物語」を実写映像化したら……という妄想(?)キャスティングを繰り広げていただきました。
なお、キャスティングの対象は役者さんにとどまらず各界より(故人含む)、お名前は敬称略、役を演じてほしい年齢は時をこえて物語の登場人物に合わせて設定可能、という前提でお送りします!
◆「顔が似ている」のは「源氏物語」の重要テーマ
- 姫野
- 本日の私はミーハーな視聴者としてキャスティングに参りました。大塚さんには何卒、古典のアドバイスをお願いいたしたく存じます。
- 大塚
- はい。姫野さんの『顔面放談』を拝読しましたけど、某週刊誌の「顔面相似形」コーナーに20年以上も投稿されてたんですね。実は「源氏物語」でも、似ている、ということは物語を貫く大きなテーマです。
姫野カオルコ『顔面放談』(集英社)
長年培った観察眼にて著名人の「顔」をマニアックに分析。
眼からウロコが落ちる、姫野ワールド炸裂のエッセイ。
- 姫野
- 『やばい源氏物語』(ポプラ新書)でも、そのことを書いていらしたですね。なるほど桐壺帝は、亡き桐壺更衣に藤壺の宮が似ているからと後宮に入れさせています。都合よく似てる人がいて、そこから物語が転がっていく。
大塚ひかり『やばい源氏物語』(ポプラ新書)
登場人物たちの、誰かを誰かの身代わりに……
という発想の多さ(やばさ)にも言及!
- 大塚
- 桐壺帝は、もともとは内裏女房である典侍(ないしのすけ)に、亡き桐壺更衣に似ている人がいると言われて、その気になっちゃいました。似てるだけで好きになる? と疑問ですが。
- 姫野
- 似ていると、どきんとする。すると気になりはじめる。気にするうち、相手にどんどん自分の夢を託していく、という仕組みじゃないですか?
- 大塚
- ただ「源氏物語」では、似てるっていうのが手に入らない人の身代わり的なものになってるパターンが多い。だから、別にその人でなくてもいいんじゃないか? とも思っちゃって。
- 姫野
- それ、「宇治十帖」の薫のことですね。
- 大塚
- そうです。薫はもう似てりゃあいいみたいな感じで。手に入らなかった大君の代わりに、妹の中の君、浮舟と……。
- 姫野
- 薫の行動が変で。「宇治十帖」を読み返しても、合点の行かないことばかりしますよね、薫って人は。
- 大塚
- 変です。女二の宮という妻がいるんだけど、その腹違いの姉である女一の宮に憧れている。憧れるだけならいいんだけど、たまたま垣間見た女一の宮とそっくりな格好まで妻にさせちゃうという。それこそ姫野さんがおっしゃる「邪道な顔面相似形」ですよ。
- 姫野
- 邪道ね(笑)。芸人たちに対象と似た衣装を着せて同じヘアメイクをほどこして同じ角度で写真を撮って、それで似てると言われても邪道だと、私は「週刊文春」に投稿するのをやめたのです。薫も、こんな調子で、着るものだけじゃなく氷まで用意する。
- 大塚
- そうそう。憧れの人とわざわざ同じシチュエーションにして同じ格好を妻にさせるんです。薄物の単衣(ひとえ)を着せて氷を持たせてという……。こんなキャラクターを紫式部はよくぞ思いついたなと。
- 姫野
- この変な薫を誰が演(や)るといいだろう? おっと、「宇治十帖」は後にして、まずは正編の方からいきましょう。「源氏物語」って、読むと、源氏より、女性をキャスティングしたくなると思うんですが、ちがうかしら。まずはなんといっても、ヒロインの紫の上。優等生的な感じがぴったりの吉永小百合を断然イチオシです。
- 大塚
- 私も、夏目雅子か吉永小百合を考えてました。
- 姫野
- 夏目雅子は、桐壺更衣のほうじゃないかな?
- 大塚
- そうかも。どちらも美人薄命ですしね……。それでは桐壺更衣は夏目雅子で。私にとっての絶対的な美女って夏目雅子なんです。
- 姫野
- ううむ、夏目雅子は楚々としていますが、期末テストで何としてでも一番をとらねば、みたいな、優等生のこだわりみたいなものがなくて、「絶対的な美女」という強い形容が当てはまらないような……。
- 大塚
- 言われてみるとそうかな……はかない美女ですかね。そうしたら紫の上は吉永小百合でいきましょう。藤壺はどうします? 紫の上と藤壺は似てるって設定ですが。
- 姫野
- 今回の自分勝手キャスティングでは似てなくていいことにします。どうせ空想なのだから、豪華キャストを無料で使い放題したいです(笑)。とはいえ藤壺は……、使い放題となるとかえって決めるのが難しい。源氏と一緒に最後にまわそう。
- 大塚
- では藤壺のライバル、弘徽殿大后は? その妹の朧月夜もいきますか?
- 姫野
- この二人は、視聴者が還暦以上と以下の世代に分けて、Wキャストで。
- 大塚
- 面白そう。弘徽殿大后は「源氏物語」最大の悪役でたぶん美人です。光源氏にとっては、自分を須磨に追いやった政敵です。私は黒木瞳かデヴィ夫人を考えてました。
- 姫野
- いいですね、黒木瞳。ではアダルト向けを黒木瞳にしよう。
- 大塚
- ヤング向けはどうでしょう。
- 姫野
- 吉田羊。
- 大塚
- なるほど、政治的な才覚が冴える凄みは「光る君へ」の藤原詮子役でも感じます。朧月夜は?
- 姫野
- アダルト世代は木の実ナナを考えてました。肉感的なんだけど、身持ちがちゃんとしてる感じ。
- 大塚
- なるほど。ヤング世代は?
- 姫野
- 小池栄子。
- 大塚
- 朧月夜は豊満な美女だからぴったりかもしれません。次、葵の上にいきましょうか。光源氏の正妻。
- 姫野
- あのきちっとした感じは、檀ふみ。
- 大塚
- あ~。葵の上は非の打ちどころがないのだけど、優等生すぎて甘えられない人なんですよね。北川景子はどうです?
- 姫野
- 葵の上に北川景子。なるほど。ここは大塚さんに譲ります……。
◆六条御息所と夕顔はこの二人の対決
- 大塚
- 六条御息所は? 美しくて知性も教養もあって年上の人。でもこだわりが強くて、相手がくつろげないタイプ。それゆえ光源氏が持て余して敬遠してしまうという……。画家の松井冬子とかどうでしょう? 凄みのある美人で、ちょっと怖い絵を描かれる方です。
- 姫野
- 私はバイオリニストの前橋汀子です。彼女は昔ショーケンとつきあっていて、「バイオリニストとしての彼女をすごく尊敬していたけど、ぼくもぼくで芝居に没頭していて、互いに自分の領域を一歩も譲れなくて長続きしなかった」みたいなことがショーケンの自叙伝に書いてありました。
- 大塚
- なるほど! 六条御息所は前橋汀子にしましょう。その六条御息所に取り憑かれて殺されたとされる(異説あり)夕顔はどうですか。
- 姫野
- 夕顔……大塚さん、夕顔って好きでした? 私はどうも好かんやっちゃと……。
- 大塚
- 夕顔は女性に嫌われそうな感じの人ですよね。嫌いではなかったですけど。
- 姫野
- 私は、勉強をまったくしない高校生でした。受験前の高3ですら勉強しなかった。自信を持って言えるのはこれだけというくらい勉強しなかった。うちの高校の、高3のときの古典は、教科書じゃなくて、「源氏物語」の名場面集だったんです。これを、アホ生徒らしく文法の勉強もせず、へらへら読んでて、夕顔のこと、なんだこいつ、ブリブリしやがってってムカついていた。六条御息所をすごく応援していました。
- 大塚
- 確かにね。でも意外と積極的なところもあって、彼女の側から光源氏に歌を詠みかけたり。光源氏が夕顔のいた小家の白い花(夕顔。そこから彼女はその名で呼ばれる)を乳母子の惟光に命じて取らせるんですが、夕顔側から「この扇に置いて差し上げて下さい」と召使いの童女が出てくる。そこには女主人・夕顔の、“心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花”という思わせぶりな歌が書いてあったんです。「当て推量にあの源氏の君かとお察しします、白露でいっそう美しさを増している夕顔ならぬ、夕影のあなた様のお顔を」と。それで光源氏はえらくそそられた。光源氏が有名人だからといって、女のほうから男に歌を詠みかけるというのも異例で、光源氏としては誘っている……と思っても不思議はない。
- 姫野
- そうそう! 自分から誘っといて、やだァ、困っちゃうゥ、みたいな。
- 大塚
- それでいながら言いたいことを言えない。私、夕顔は田中みな実がいいかなって思ってるんですけど。夕顔も田中みな実も小柄だし。そして、夕顔には意外と芯の強さもあるような気がしていて。
- 姫野
- 芯どころか表面からすでに強くないですか? 六条御息所より夕顔のほうが、ずっと気は強い感じがするのですが。タレント的なアナウンサーの中から選ぶなら、田中みな実ではなく、伊藤綾子のほうがフレイバーが合ってるような……。結婚して引退されたので元アナですが、顔だちがフンワリされていたので、作中にある、隣の家の人の朝の支度の音がやかましいことに光源氏がびっくりしてても、フワフワリンと流してしまう夕顔のシーンを、上手に演じてくれるような……。
- 大塚
- じゃあ夕顔は伊藤綾子にしましょう。
- 姫野
- 前橋汀子六条御息所と伊藤綾子夕顔、この対決見たいわー。
- 大塚
- 夕顔の娘、玉鬘(たまかずら)はどうですか? 私は宮﨑あおいを考えたんですけど。
- 姫野
- 玉鬘はすごくきれいな人なんですよね。宮﨑あおいは少し童顔な感じがする。
- 大塚
- 玉鬘は肉付きがよくて、笑いがちな人という設定です。
- 姫野
- では玉鬘は原節子。ぱあっと華やかな顔だちで、にこにこしてて、デビューした10代のころは、それまでの日本の女優にはなかったモダンな雰囲気が受けていたから、源氏がイケオジになってから口説こうとしてつっぱねた若い世代という玉鬘の設定とも合っている。
- 大塚
- 玉鬘が原節子。いきなり存在感が(笑)。
- 姫野
- 近江の君もいきますか?
- 大塚
- 近江の君は、明るくてタフな人。顔もきれい。だけど早口で話し方もややがさつで、貴族社会に必要な忖度ができない。
- 姫野
- 顔はきれい、でもしゃべり方が残念……いい人を思いつきました。鈴木紗理奈がばっちりです。もし何かで実現したら、ショーケンの岡田以蔵、スーパーマンのクリストファー・リーブくらい、近江の君は鈴木紗理奈で、鉄板で芸能史に残るでしょう。
◆登場人物の中でも健康で長生きのあの女性は……?
- 姫野
- 空蝉は田中絹代はどうかな。
- 大塚
- 空蝉って不細工だけど聡明でセンスがいい。光源氏に抱き上げられて軽々と寝所に連れていかれるくらい小柄です。田中絹代は不細工で小柄ですか?
- 姫野
- いえ、ちがいます。地味だけど整った顔ですし、当時としては背も低くない。派手顔の原節子を出したからには反対に、と思いついただけです。そうか、空蝉、小柄なのがポイントなんですね。小柄……。そうだっ、小柄というなら、伊藤沙莉。子役時代から伊藤沙莉が大好きなんです。小柄というだけでなくて、ワンナイトだけで強烈な印象を源氏に残し続けたという空蝉の設定も、伊藤沙莉に合っている。
- 大塚
- なるほど。では、花散里はどうでしょう? 彼女は容姿は地味ですが、強靭な精神力と物事の本質をつくキャラクターとして描かれています。大竹しのぶ、あ、樹木希林でもいいかな。
- 姫野
- 花散里は自分をわきまえている人なのでは?
- 大塚
- わきまえてるけど、彼女は聡明さが過ぎて真実をついてしまうがゆえに、ちょっと意地悪に見えるところもあるんです。女三の宮が光源氏のもとへ降嫁してきて、紫の上が一人寝してる時に、どんな気持ちですか? なんて言ってきたり。優しいけど毒のある人。
- 姫野
- ほほう、それでは大竹しのぶで……。NHKのドラマ『阿修羅のごとく』の迫力を出してもらいましょう。
- 大塚
- 女三の宮は?
- 姫野
- 私は、佐々木希。
- 大塚
- 女三の宮って小柄で、となると上白石萌音か安達祐実かなと。でも、上白石萌音には端近くに立つような迂闊さはないかも。……うん、女三の宮は佐々木希がいいかもしれない。上白石萌音は、むしろ浮舟のほうかな? 最後に出家する意志の強さがある。
- 姫野
- うんうん、浮舟、上白石萌音、いいと思います。
- 大塚
- あとは源典侍(げんのないしのすけ)、末摘花。源典侍は年老いてもなお色めいてる秋吉久美子かな。
- 姫野
- 秋吉久美子はキュート過ぎて、年取ってお盛んでも、若い子と熱愛ニュースが入っても、「そりゃあ、彼女なら」とみんな納得してしまいませんか?
- 大塚
- 源典侍は57~58歳になって、19~20歳の光源氏や頭中将と性関係を持っちゃう。
- 姫野
- 関係は持つのですが、それがお笑いネタというか、バラエティショーみたいになってしまう。あ、なら、デヴィ夫人かな。でもこれ読まれたら、「ンまあ、何をおっしゃっているのかしら。あたくしこそ紫の上ですわ」とお怒りになるかも。
- 大塚
- いや、デヴィ夫人いいかも! 源典侍は政府の高官で、頭が良くて教養もあり、できる人だし。それに長生きです。
- 姫野
- 性欲も経済欲も満たされて、仕事でも成功して健康な最強の人。「源氏物語」の中で、最たる幸せ者って、源典待ですよね。
- 大塚
- ほんと。自己評価も高い人で、私は大好き。憧れます。一方、一番思いつかなかったのが末摘花。
- 姫野
- 末摘花はこの人ですって言うと、その人に悪いじゃないですか。なにせ、鼻が普賢菩薩の乗り物(=象)みたいっていう。亡くなった人から選んでみる?
- 大塚
- 末摘花は、空気が読めないけど結構学問が好き。でも歌が詠めない。すごく貧乏だし、取り柄がないとさんざんな書かれようです。
- 姫野
- そうだ! あの人! ジュリエッタ・マシーナ。イタリアの映画「道」のジェルソミーナ役の俳優。「カビリアの夜」ではお金を騙し取られても明るい娼婦役をしてて、どちらの映画も泣いたのなんの。マシーナは、大学教授の娘でローマ大学卒なので、常陸宮の娘で勉強も好きという末摘花の設定とも、ちょっと合ってる。
- 大塚
- たしかに末摘花って、ちょっと外国人感あるかも。ウェイリー訳の『源氏物語』をさらに現代語訳した森山恵さんと毬矢まりえさんは末摘花には外国人の血が混ざっていたのでは? と唱えています(『レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳「源氏物語」』講談社)。哀れさも出てますね。よくぞ!
毬矢まりえ・森山恵著
『レディ・ムラサキのティーパーティ
らせん訳「源氏物語」』(講談社)
- 姫野
- あと朝顔の姫君はどうですか?
- 大塚
- 朝顔の姫君は光源氏の憧れの人ですね。
- 姫野
- 私、松下奈緒かなって。きれいなのに男好きする色気がない。まじめ一点張りで暮らしているように見えます。
- 大塚
- たしかに、光源氏の口説きを突っぱね続けそうなところありますね。
- 姫野
- 雲居雁(くもいのかり)は? 健康的な人ですよね。
- 大塚
- そう、子どもをたくさん産むんですよ。夫の夕霧が落葉の宮と結婚すると、怒って父邸に帰っちゃいます。元の鞘に収まるけど。
- 姫野
- 嫉妬を明るさで乗り切る感じは、榊原郁恵がよさそう。
- 大塚
- いいかもしれない。
- 姫野
- 明石の君と、その娘さんの明石の姫君も決めないと。
- 大塚
- 肝心な人たちだ。明石の君は、身分は低いけど聡明な人。皇女と言っても遜色がないぐらいの気品があるって書かれています。そして琵琶の名手。
- 姫野
- 明石の君って気の毒ですよね。父親の明石の入道の道具にされてしまって。
- 大塚
- 小さい時から父親に、都の高貴な男と結婚しなければ海に飛び込んでしまえと言われて。明石の君自身は、光源氏のような高貴な人は自分には本気になるまいと思う一方で、身分相応の結婚もしたくないと思ってる。
- 姫野
- では、生まれた時から義務を背負わされていそうな伝統芸能の人はどうでしょう? 本当は、区役所に勤めて、休日には子供といっしょにダイエーに行くような生活がしたかったのに、「家」を一身に背負う進路。歌舞伎俳優の女形で有名な人……二代目澤村藤十郎とか。
- 大塚
- とすると、明石の姫君は……。
- 姫野
- 明石の姫君は尾上菊之助。
- 大塚
- 明石の姫君も、生まれる前から天皇家に入内することが決まっていたようなものですもんね。
◆男性キャストも各界から豪華な面々が登場!
- 姫野
- 男性キャストにいきましょう。じゃあ、まずは頭中将から。
- 大塚
- 頭中将は割と上背のある人だから、阿部寛……かな? なかなか思いつかなくて。
- 姫野
- でも、頭中将って年齢を重ねたらでっぷりしてきて。
- 大塚
- そうです。中年期に大臣にふさわしい、物々しい雰囲気になっていくと書かれてます。
- 姫野
- 長嶋一茂はどう?
- 大塚
- それ、いいですね。ところで私、岡田准一をどこかに出したくて。玉鬘の夫の髭黒大将とかどうです? 立派ないい男なんですよ。「いとあざやかに男々しきさま」って。
- 姫野
- 岡田准一はうまい俳優だと思います。大塚さん、出したいわけは?
- 大塚
- 以前、仕事で実物を垣間見(かいまみ)たことがございまして、男々しいマッチョな感じがしたのと、やっぱりかっこいいなって(笑)。
- 姫野
- じゃあ私も出したい人がいるんですけど(笑)。光源氏の忠実な乳母子の惟光を磯村勇斗。ドラマ「不適切にもほどがある!」のムッチ先輩役。今、演技派俳優として磯村勇斗を買ってます。
- 大塚
- あと男性キャストには、桐壺帝、冷泉帝、夕霧、柏木もいますね。
- 姫野
- 桐壺帝、岸田総理は?
- 大塚
- なるほど(笑)、いいかも。吉田鋼太郎かな? とも思ったけど岸田総理で。冷泉帝、小泉孝太郎はどうでしょう?
- 姫野
- 小泉孝太郎はあれがいいじゃん。小君。
- 大塚
- 小君! 空蝉の弟か。光源氏の息子の夕霧、小栗旬は? 夕霧ってイケメンで背が高いんです。ただ、恋愛下手ではあるのですが……。
- 姫野
- そうしましょう。私、あんまり夕霧に思い入れがないので、大塚さんの抜擢で異存ありませぬ。
- 大塚
- じゃあ、冷泉帝は? 光源氏と顔を写し取ったようにそっくりという。
- 姫野
- 高貴な感じなんで中川大志に。現代のイケメンを代表する人だと思います。
- 大塚
- 柏木は菅田将暉がいいかなと。
- 姫野
- 菅田将暉は「鎌倉殿の13人」がすごく良かった。あれでこの先、「義経は菅田将暉」が芸能史に刻まれるでしょう。だから出したくないな……。
- 大塚
- 出したくないんですか、出したいじゃなくて(笑)。悲恋で死んでいくからね、柏木。
- 姫野
- 弱々しい感じなので、詩人の立原道造は?
- 大塚
- なるほど、確かに、柏木には詩人の雰囲気がありますね。そしてキャストに意外性もある。
では、そろそろ「宇治十帖」にいきますか。私は薫は佐藤健、匂宮は吉沢亮をイメージしていました。
- 姫野
- 私は匂宮は横浜流星。色っぽくて妖しい、月下の人って感じがする。彼は中川大志と並んで現代のイケメンの代表ですし。
- 大塚
- 横浜流星ですか……来年の大河ドラマの主役ですね。匂宮、いいかもしれません。薫はどうでしょう。
- 姫野
- 薫は、はじめに話したとおり、変な人なので配役が難しいですよね。いっそ人形作家にやってもらったらどうでしょうか? 四谷シモンとか。ほら、薫って人形が好きでしょう?
- 大塚
- いいですね~。薫は惹かれていた大君が亡くなったあと、彼女に似た人形を作ろうかなんて言ってますものね。
◆光源氏はなるほど&まさかのキャスティング⁉
- 姫野
- いよいよ光源氏にいきます。私の光源氏候補は3人。ひとり目は横山やすし。
- 大塚
- えっ? 横山やすし?
- 姫野
- うん。おおっぴらに遊び人で、だけど一度関係を持った女性は最後まで面倒を見てあげたイメージ。
- 大塚
- なるほど、その部分で。光源氏は関わった女性を絶対に捨てませんでしたね。
- 姫野
- ふたり目は田中角栄。妻と妾を堂々と自分の近くにおいていたというのがリアル六条院だなって。しかも田中角栄、すごいハンサムじゃないですか。
- 大塚
- ハンサム?
- 姫野
- 角栄をハンサムと言うと、皆さんそんな反応をされるんですが……。どうも、あの声だけを思い浮かべておられるみたいで……。ちゃんと顔の造作、見て下さい。郵政大臣になった若い頃なんて、すごいハンサムで。イケメンではなくハンサムと形容したい二枚目顔。
- 大塚
- ものすごく意外だけど、面白いかもしれない。光源氏は大物政治家だし、そういう面ではぴったり。
- 姫野
- ただ、彼はみやびやかじゃないんですよね……。ということで3人目の候補は天海祐希。今まで光源氏を演じた人の中で、一番の存在感だと思う。
- 大塚
- 実は私も天海祐希を考えてました。紫式部は日記「紫式部日記」の中で、藤原公任に「この辺りに若紫はいますかね」なんて言われた時、「光源氏に似た人もこの世にはいないのに、その妻がいるわけないでしょ」って思ったと書いてる。「源氏物語」の大きな特徴の一つはリアリティで、光源氏にしても病気をしたり意地悪だったり、それまでの物語の主人公とは比べ物にならないほど生身の人間として描かれているとはいえ、やはりとくに前半では、現実にはいないような絶世の美男・理想の男としての要素も大きいので、天海祐希はもってこいです。
- 姫野
- 映画「千年の恋 ひかる源氏物語」で天海祐希(光源氏)が青海波を踊るシーンがあるのです。宝塚時代につちかったダンスがキレキレ。
- 大塚
- 光源氏の容姿は「きよら」と描写されてます。それって清潔感の極みみたいな形容だから、天海祐希の透明感はぴったりなんじゃないかと。光源氏は背も高いし。
- 姫野
- そうですね。天海祐希には田中角栄もかないませんね。
- 大塚
- あと、すいません、私、最近、明石家さんまにはまってて、彼のことも光源氏の候補に入れたいです。彼は幼い頃にお母さんに死別した上、さんま発光説もあるほどオーラが凄いと評判なので、光るさんまということで……。
- 姫野
- 明石家さんまは色男です。ひかりさんのおっしゃることはよくわかりますよ。多くの女優さんが彼に惹かれたのも。個人的にはオール巨人がだんぜん好みですが、ま、ここは私の好みはおいて、ひかりさんの推しで、明石家さんまも……。
- 大塚
- 入ってもらいましょう。
- 姫野
- 青年時代を終えて、六条院を作って堂々たる出世をしてからは、天海祐希から明石家さんまにバトンタッチの配役で。
- 大塚
- 嬉しい! おちていく光源氏ですね。
- 姫野
- 踊る! さんま六条御殿です。
- 大塚
- (笑)
◆光る君の永遠の思い人はこの人
- 姫野
- ところで私、八の宮が嫌いです。「源氏物語」の登場人物中、ワースト1で嫌い。チンケで嫌な人だわ。
- 大塚
- 大君、中の君、浮舟の父親で、残酷な人ですね。「生半可なことで、宇治の山里を離れるでない」などと娘たち二人(大君、中の君)の人生を縛る遺言をしたり、女房として仕えていた中将の君に手をつけて妊娠したと知った途端に、認知もしないで母子(浮舟)を捨てたり。
- 姫野
- これが光源氏の異母弟とは。
- 大塚
- 八の宮は物語の中で罰せられてます。彼が往生できずに苦しんでいる姿を、彼の法(のり)の師である阿闍梨(あじゃり)に夢として見させている。
- 姫野
- おお、さすがのひかりナビ。溜飲が下がりました。配役が難しいので、八の宮の役は、読者にも実生活で心当たりがあるあの人、ということでいかがでしょうか。あなたの周りの、権力に興味ないようなことを言って実は大アリの、ブランド主義な人を思い浮かべて下さいね、と。
- 大塚
- そうしましょう。あと、忘れていました、藤壺の宮は。藤壺は、光源氏との間に生まれた冷泉帝の母后として政治家的な動きも見せます。
- 姫野
- 吟味いたしまして、出した案はメーテルです。
- 大塚
- メーテル! 「銀河鉄道999」の? そうきましたか。あ、でもなんかわかるかも。これで配役は決まりですかね。古今東西、なかなかに多彩な顔ぶれ。
- 姫野
- 宝塚に歌舞伎、音楽界、政界、それに人形工芸界からも。
- 大塚
- 2次元のキャラまで。このような配役を考えて何の意味があるのかなと思っちゃいますけど(笑)。
- 姫野
- はい。絶対実現しない(笑)。でも「源氏物語」って配役したくてたまらなくなります。
- 大塚
- 配役の理由まで真剣に考えちゃったりしてね。予想外に楽しかったです。
◆大河ドラマは世の中を映す!?
- 大塚
- 最近『ひとりみの日本史』(左右社)という本を出しまして。独り身のまま生きた「源氏物語」の人物についても書いています。中でも私の理想の「ひとりみ」は、さきほどのキャスティングでも出てきましたが源典侍。彼女は源氏と関係してから十数年経ったころ、もう70歳ぐらいになっているのですが、朝顔の姫君が叔母の女五の宮と一緒に住んでいた桃園邸にいるんです。女五の宮の弟子になって。
大塚ひかり『ひとりみの日本史』(左右社)
日本の歴史では実は一生独身の人々が多かった⁉
「源氏物語」の人物の「ひとりみ志向」も追究。
独り身の女性たちが一緒に暮らしているというこのあたりは、奥山景布子さんの『フェミニスト紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)にも書かれていましたね。「桃園邸は平安版・おひとりさまたちのシェアハウス!?」と。同感です。
奥山景布子『フェミニスト紫式部の生活と意見
~現代用語で読み解く「源氏物語」~』(集英社)
「おひとりさま」「ルッキズム」など、
現代の言葉を切り口に「源氏物語」を解き明かす一冊。
- 姫野
- 奥山さんの本は、私も面白くて一気に読んじゃいました。当時の貴族の経済生活についても教えてもらえて、長年のもやもやが晴れた気分でした。
- 大塚
- 『紫式部のメッセージ』(駒尺喜美・著/朝日選書、1991年)以降、フェミニストとしての紫式部という切り口が徐々に受け入れられるようになりました。大河ドラマといえば家父長制の武士の時代の物語が多かったけど、#MeToo運動などを経て、また家族の形も徐々に多様化してきて、女の地位が高かった平安王朝の紫式部が大河ドラマの主役になるくらいには、世の中が成熟しつつあるのかなと感じます。
駒尺喜美『紫式部のメッセージ』(朝日選書)
1991年刊。「源氏物語」を現代の女性学的
観点から論じ紫式部のフェミズム的思考を考察。
大塚ひかり『傷だらけの光源氏』(辰巳出版)
「源氏物語」にはなぜ不幸な人物たちが多いのか?
登場人物たちの「カラダ」と「ココロ」に着目。
大塚ひかり『嫉妬と階級の『源氏物語』』(新潮選書)
階級社会に渦巻く激しい嫉妬の数々が描かれた
「源氏物語」。著者の紫式部が書きたかったものは?
- プロフィール
-
姫野カオルコ(ひめの・かおるこ)
作家。姫野嘉兵衛の表記もあり。1958年滋賀県甲賀市生まれ。『昭和の犬』(幻冬舎)で第150回直木賞を受賞。『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)で第32回柴田錬三郎賞を受賞。ほかに『ツ、イ、ラ、ク』(角川文庫)、『謎の毒親』(新潮文庫)、『悪口と幸せ』(光文社)、『結婚は人生の墓場か?』『顔面放談』(ともに集英社)など著書多数。HBホーム社文芸図書WEBサイトで<顔×映画>エッセイ「顔を見る」を連載中
https://hb.homesha.co.jp/m/m7b249c664bbf。大塚ひかり(おおつか・ひかり)
古典エッセイスト。1961年神奈川県横浜市生まれ。早稲田大学第一文学部日本史学専攻卒業。『源氏物語』全訳6巻(ちくま文庫)、『女系図でみる驚きの日本史』(新潮新書)、『ジェンダーレスの日本史』(中公新書ラクレ)、『やばい源氏物語』(ポプラ新書)、『嫉妬と階級の『源氏物語』』(新潮選書)、『傷だらけの光源氏』(辰巳出版)、『ひとりみの日本史』(左右社)など著書多数。