<刊行記念対談>

『らんまんの笑顔 「人間・牧野富太郎」伝』刊行記念対談
朝ドラ「らんまん」vs「あまちゃん」ここが好き

漫画家・青木俊直 小説家・日向章一郎

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青木俊直(漫画家)さん

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日向章一郎(小説家)さん

世界的な植物学者、牧野富太郎の好きなことだけをやり尽くした生涯を追う人間ドキュメント『らんまんの笑顔 「人間・牧野富太郎」伝』が刊行されました。その牧野富太郎をモデルとした、万太郎(演・神木隆之介)という人物が主人公のNHKの朝ドラ「らんまん」も始まっています。
「らんまん」放送開始から2週間ほど経った頃、東京のカフェにて。朝ドラファンを代表して、漫画家の青木俊直さんと小説家の日向章一郎さんのお二人に、「らんまん」のことやBSプレミアムで再放送が始まった朝ドラ「あまちゃん」について、語っていただきました。

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――お二人は、以前、青木さんの奥様、漫画家の谷川史子さんもご一緒に飲み会をして、「あまちゃん」の話ですっかり盛り上がったそうですね。

日向
谷川先生とは、仕事でご一緒していたのでお会いしたことがありました。青木先生の「あま絵」(朝ドラ「あまちゃん」のファンイラスト)をSNSで拝見して、僕も「あまちゃん」ファンでしたから、一度お話ししたいな、と思って。
青木
酔っぱらって、箸袋に絵を描いたり、楽しい夜でした。

――牧野富太郎の生家は酒屋の蔵元なのに、本人は下戸なんですよね。今日は、お仕事ですので、お酒はナシということで。

日向
「らんまん」は、まだ始まったばかりで、やっと子供時代の話から青年になって神木(隆之介)君が出てきた所ですね。
青木
お母さん役の広末(涼子)さんがあっという間に死んでしまったのが残念です。
日向
実際に富太郎の母親も、5歳の時に亡くなっているんですね。朝ドラ名物の幽霊となって出てくる可能性もありますね。


本の著者・谷是さんと挿絵の校正刷り。

――今日は、本当は本の著者、谷ただしさんもお呼びして鼎談ていだんをする予定だったのですが、残念ながらご欠席です。谷さんは、「らんまん」の舞台である土佐の方で、ちょっと遠すぎて無理でした。

日向
土佐と言えば、何年か前に一度訪れたことがあります。はりまや橋や坂本龍馬の像など一通り見ました。今度行く時は、ぜひ高知県立牧野植物園に行きたいですね。「らんまん」の番宣で見て、なぜここが観光コースに入っていなかったんだろうって思いました。
青木
「あまちゃん」は、本放送から10年経って、再放送ということで、舞台となった北三陸方面では盛り上がっているみたいですね。僕は、2013年の本放送の時、ロケ地となった久慈に取材で行ったんですよ。ドラマツーリズムが僕としては一番盛り上がった作品です。ドラマを見て、「ここに行ってみたい」と思って、実際に行って、「ここだ!」って。
日向
聖地巡りですね。僕も、同じ年に「あまちゃん」のモニターツアーで久慈に行きました。あの頃は、たくさんの人が久慈に行き、三陸鉄道に乗って、ウニ丼を食べて聖地巡りをしていました。本物の海女さんが採ってくれたウニをその場で割って食べた、その味はもう最高でした。(岩手の郷土料理)まめぶも美味しかったです。
青木
僕は、母の実家が岩手で、「あまちゃん」の話がよくわかるんですよ。最初の1週2週で、(主人公の)アキちゃんがお母さんの実家のある久慈で過ごすじゃないですか。あの感じが、自分の経験とダブるんです。母の実家に夏休みに帰って。海沿いじゃないんですけど、でも楽しかったという思い出があって。その自分の感覚とシンクロしたんですよ、「あまちゃん」が。これは見なきゃいけないドラマだ、と思って。
日向
富太郎は、生まれ育った土佐から東京に住まいを移して植物の研究に没頭します。『「人間・牧野富太郎」伝』によると、神田駿河台、飯田橋、小石川など、おなじみの地名がたくさん出てきて、「らんまん」の後半、東京に出てきた後の話も楽しみです。東京でも聖地巡りができそうですよね。


かなりディープな話で盛り上がる青木さん(左)と日向さん(右)。実は同学年です。

――最初に牧野富太郎を知ったきっかけは覚えていらっしゃいますか。

日向
僕は小さい頃、伝記を読むのが好きでしたから、牧野富太郎も読んだ記憶があります。でも、それは子供向けだったので、教育上良いことしか書いてありませんでした。今回、この『「人間・牧野富太郎」伝』を読んで、伝記に書いてあった人物像とはだいぶちがうな、と。実際は、かなりユニークな方で、周りの人が大変だったみたいです。偉いのは、牧野博士よりも、奥様のスエさん、育ての親のナミコさん、そして貧乏でも我慢した子供たちだったようですね。
青木
僕の場合は、小さい頃、牧野富太郎の植物図鑑が祖父の家にあったんですよ。本棚のちょっと高い所にあったから、手に取ってはみなかったんですけど、背表紙は覚えていて。牧野博士の植物図鑑は、今でも売れていますよね。当時はどこの家にも普通にあったみたいですね。その後、富太郎のスケッチ画を見る機会があって、恐ろしく緻密な絵で驚きました。あっ、これがあの植物図鑑の人か、と記憶がつながりました。
日向
その緻密な絵をきれいな本にするために、わざわざ印刷屋さんに弟子入りしたんですよね。こだわりの人ですね。何でもやり過ぎてしまう。しかも、お金のことは考えずに。この本の帯にも「借金王か⁉」と書いてあるように。周りの人がとても大変だったという。娘さんたちが、「お母さんのことは、思い出すとかわいそうなので聞かないで」と言ったそうですね。
青木
それで、金銭的に本当にもうあかん、となった時に、必ず出資者が現れるという。すごいですよね、やっぱりそこらへんが人徳ですよね。お話としては面白いんですけど、結局出資者ともめたりしてるわけじゃないですか。なんか、こう、大変な人なんだろうなという感じはありますね。
日向
尊敬できるけど、お友達としては……。
青木
学者としてはすごいのでしょうけど。まあ、でもそうやって、人を巻き込みながら嵐のように駆け抜けるという感じでしょうね。


持参のタブレットにさらさらと絵を描いていく青木さん。

――「あまちゃん」のイラスト「あま絵」で有名な青木さんに、「らんまん絵」をお願いしたいのですが……。

青木
(この対談の時点では)まだ神木君が本格的には出てないし、奥さん役の浜辺美波さんもまだだし、どうしましょう。ちょっと考える時間をください。
日向
この本の挿絵は、著者の谷先生がお描きになってるのですね。「らんまん」で挿絵と同じシーンが出てくると、あっ、あれだ、とわかって面白いです。
青木
谷先生の思いの強さが絵になっているように感じます。富太郎を語る時に、どうしても描きたい絵が浮かんだんでしょうね、きっと。その思いがのっているから、いい絵になっているんですよ。富太郎自身が「学歴やキャリアは関係ない。実力で勝負」という生き方ですし。


「あま絵」と「らんまん絵」のコラボ完成!   ©青木俊直

――話している間に絵が完成しましたね。ありがとうございます。

日向
「あま絵」と「らんまん絵」のコラボ、すごいですね。コラボと言えば、「あまちゃん」と「らんまん」の両方に出てくる役者さんがいるのも、続けてドラマを見ていると気がつきます。
青木
「あまちゃん」でブティックこんを演じている菅原大吉さんは、「らんまん」では分家のちょっと意地悪な役で出てきます。
日向
栗原ちゃん役の安藤玉恵さんは、「らんまん」の東京編に出てきますね。朝ドラを長く見ていると、そんな楽しみ方もできますね。
青木
「あまちゃん」の前に再放送枠でやっていた「本日も晴天なり」には、「あまちゃん」の夏ばっぱ役の宮本信子さんが出ていました。同じ「おばあちゃん」役でしたが、若い時の方がより老いた感じの演技でしたね。
日向
本当。歳も職業も全然ちがうのに、見事です。

――最後に、この本の魅力をHPの読者に向けてお願いします。

青木
語り下ろしという、谷先生が話したことを書き留めているスタイルなので、とても読みやすい本になっています。朝ドラで話題の牧野富太郎は、語り下ろすことによってマイルドになっているにもかかわらず、かなりすごい人生を送ったことがわかります。これをきっかけにもっと深く知りたくなりました。
日向
リアルな富太郎の話を読んで、「好き」ということの持つ力が、周囲を動かす原動力になっていると感じました。お金が儲かる、名声を得る、とか打算的なことではなく、自分が好きかどうか、だけが起爆剤になっている。「好き」を突き詰めていくと、結果的に、自分も周囲も進化するのではないか。それを理解してくれる周囲の力も湧いてくるのですね。そう考えると、読みながら元気が出てくる本でした。

 

プロフィール

青木俊直(あおき・としなお)<右>

1960年生まれ。漫画家、イラストレーター。2013年のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」放送時、Twitter投稿のファンアート(通称「あま絵」)が注目される。以降、作品舞台である岩手県とのコラボレーション作品も多数発表。朝ドラは録画で一気見するが、「あまちゃん」だけはこだわってオンタイムで見ている。
2023年5/19~5/29 個展「BUBBLE」(泡ときみの日々)を開催! 是非どうぞ。
https://www.acgateway.com/ex_at4/

日向章一郎(ひゅうが・しょういちろう)<左>

1961年生まれ。小説家。1985年、「イージー・ゴーイング」で第6回コバルト短編小説新人賞佳作入選。代表作に『放課後のトム・ソーヤー』『牡羊座は教室の星つかい』『電撃娘163センチ』(集英社コバルト文庫)。朝ドラは「おはなはん」からのファン。一番好きなのは「マー姉ちゃん」。

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