〈 刊行記念インタビュー 〉

『呪術廻戦』で英語を学ぶ!

原作:芥見下々 訳・文:北浦尚彦

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北浦尚彦さん

『呪術廻戦』で、英語の世界に領域展開!!

『呪術廻戦』は、週刊少年ジャンプにて連載中、2023年にTVアニメ第2期放送を控えている人気作。人間の負の感情によって生み出される「呪い」と、呪いを祓い人々を助ける「呪術師」の戦いを描いた物語である。
本書『『呪術廻戦』で英語を学ぶ!』は、『呪術廻戦』の名台詞(めいぜりふ)を英語に翻訳しながら、英単語や文法について解説・紹介している学習書。
今回、『『ジョジョの奇妙な冒険』で英語を学ぶッ!』に続いて翻訳・解説を担当した北浦尚彦さんに本書についてのお話を伺った。

構成:飯塚夏実(株式会社キャラメル・ママ)
撮影:菊地寛子

——まずはじめに、北浦さんの経歴を教えていただけますか。

 生まれは日本で、小学生時代の6年間ベルギーにいました。今の英語力の基礎はこの6年間で養われたものです。中学生の時にはもう日本に帰国していて、以降は日本で学生時代を過ごし、様々な職を経験して、現在は七海(ななみ)と同じサラリーマンです。七海はもう普通のサラリーマンではありませんが……。

——漫画がお好きだということですが、きっかけはなんでしょうか?

 ベルギーにいた当時、父親が日本へ出張した際にお土産として日本の漫画を買ってきてくれたんです。読みたい!と思ってすぐに買ってもらえるものではなかったので、台詞を覚えるくらいに同じ本を何度も何度も読み返していましたね。漫画から日本の文化を学んだりもしました。日本に来て、漫画で描かれていた風景を実際に見て感動することもありました。

——漫画で英語を学ぶことについてどうお考えですか?

 漫画に限ったことではなく、「好きなもの」を入り口として勉強に取り組むことは良いことだと思います。「好きこそものの上手なれ」と言いますし。勉強は継続が大切ですが、続けることって難しいですよね。でも好きなものであれば、自然と続けたくなる。「漫画で学ぶ」ことは、少しでも英語の勉強を継続して行うための「仕掛け」です。このあたりについては、本書のはじめにでもメッセージを書いているのでぜひ読んでください。はじめにを読んだ上で読み進めてもらえると、よりこの本の「使い方」がわかると思います。

——本書で翻訳した中で特にお気に入りの台詞はありますか?

 先ほどお話ししたように私自身がサラリーマンなので、同じサラリーマンの経験がある七海の台詞の翻訳は特に気合を入れて行いました。
「私が高専で学び気づいたことは呪術師はクソということです そして一般企業で働き気づいたことは労働はクソということです」(JC3巻第19話)や「枕元の抜け毛が増えていたり お気に入りの惣菜パンがコンビニから姿を消したり そういう小さな絶望の積み重ねが人を大人にするのです」(JC3巻第19話)などの英訳は、なかなかいい感じに仕上がったかなと思っています。
 あとは、長い台詞より短い台詞の英訳のほうが比較的気に入っています。
例えば五条(ごじょう)の台詞「誰が大したことないって?」(JC2巻第13話)の英訳の“A piece of what?”。漏瑚(じょうご)の「存外大したことなかったな」という評価に対しての台詞ですね。英語には「a piece of cake」という有名なフレーズがありまして、これは「ケーキを一切れ食べるくらいにたやすい」という意味です。
 本書には漏瑚の英訳の台詞は記載していませんが、五条が漏瑚に「大したことなかったな」=“That was a piece of cake.”と言われた、という前提で今回この英訳にしました。「a piece of cake」の「cake」を「what」にすることによって、「cake」の部分が聞こえていなかったふりをしている、というイメージです。「何が一切れだって? 聞こえなかったからもう一回言ってみろ」という感じですね。


漏瑚の攻撃に対して無傷な五条。漏瑚は五条の実力を見誤っていた。
本書P98より
©芥見下々/集英社

——意訳する時と直訳する時の違いを教えてください。

 真面目な台詞についてはあまりひねらずストレートな翻訳を心がけました。
 一方で、ちょっとクスッとするような面白い台詞は、自分なりの色を出しながら比較的自由に意訳させていただきました。
パンダの「脈ありデース」(JC0巻第2話)“You gotta chance.”がそうですね。こちらは昔流行った曲名からとっているので、わかる人にはわかります(笑)。ところどころそういうネタをはさみつつ、それでいて、『呪術廻戦』の世界を壊さないように心がけました。
 真面目な台詞ではありますが、東堂(とうどう)の「成ったな」(JC6巻第48話)の英訳“There you go.” は完全に意訳です。「ほうらね、俺が言ったとおりになっただろ」というようなイメージです。
「成ったな」の直訳に近い表現は、“You did it.”“You made it.”とかでしょうか。直訳せず今回の“There you go.” と訳したのは、自分がイメージする東堂のキャラクター的にはこの表現が一番しっくりくると感じたからです。違う意訳にするなら、“Good job.”や“Well done.”でもよいと思います。どちらも「よくできた」という意味の言葉です。英訳の答えは一つではないので、いくつもの可能性の中からキャラクターの性格や心情を自分なりに考慮した上で、ベストと思われる翻訳を心がけました。
 英訳した台詞を実際に声に出して言うこともよくありますね。これは言いそうだなとか、これは言わないかもしれないとか声に出すとわかりやすいんです。東堂ではなく、伏黒(ふしぐろ)が言う「成ったな」だったら、違う英訳になっていたかもしれません。


「黒閃」を成功させた虎杖に対して満足げな東堂。
本書P80より
©芥見下々/集英社

——今回翻訳する際に特に悩んだ台詞はありますか?

 先ほどの話と少しかぶりますが、キャラクターの心情を考慮して英訳するので、原作の台詞で、心情の解釈が難しいものは悩みました。台詞の意味を自分の中で解釈しきれていないまま翻訳することは、かなり厳しいので……。
 違う理由ですが、両面宿儺(りょうめんすくな)の「小僧 せいぜい噛み締めろ」(JC14巻第120話)も悩んだ台詞の一つです。「噛む=食べる」のニュアンスを入れることにこだわった結果、“Bon appétit.”(良い食事を/召し上がれという意味)というフランス語を当てる反則技をとってしまいました。ですが、日本語でも外来語を使用することはありますので、それはそれでありかな、と。
 あとは、スラングをどう訳すかも悩みましたね。「クソ」などが頻出する作品なので。通常はタブーなのですが、あえてストレートに「s**t」を使った台詞もあります。「クソ」を優しくまろやかに表現してしまうのは『呪術廻戦』の作品の世界観に反してしまうと考えまして……。英語では日本語の「クソ」以上に強い悪口の表現なので、本当に、あまり言わないでくださいね!


渋谷事変で自分の裡に巣くう両面宿儺が犯した罪を目の当たりにする虎杖。
本書P175より
©芥見下々/集英社

——本書を執筆する際、特にこだわった点があれば教えてください。

 第2章(必殺技名)の発音表記は少しこだわりました。発音記号や、カタカナ表記ではなく、tやdなどのアルファベットとカタカナを組み合わせた表記にしています。例えば bedなら「ベッド」でなく「ベッd」と表記する。この場合、発音の際に余計な母音(o)を入れないことを意識してもらうことによって、よりネイティブに近い発音ができるように、というねらいです。


本書P136。「r」と「t」とカタカナを組み合わせている。
©芥見下々/集英社

——この英語本を使用したおすすめの勉強方法はありますか?

 やってほしいのは、とにかく声に出してひたすら台詞の英訳を読んでほしいです! この本には第2章以外、英文の読み方が載っていないので、「読めないじゃない!」と思う方もいらっしゃるかもしれません。そういう時は、ネットで調べたり、学校の先生など英語が話せる人に訊いてほしいです。本に載っていないからあきらめるということではなく、わからなければ積極的に情報を取りにいく、そういう姿勢が大事だと思います。
 音読は重ねれば重ねるほど、必ずなめらかに上達します。自分が好きな台詞だけでもいいので、暗唱できるまで継続して音読してください。私は英会話は暗唱だと思っています。“Thank you.” って英語なのにほとんどの人がぱっと言えますよね。「ありがとう」の英訳は……なんて考えなくても自然と出てくるはずです。それは人生のうちに数えきれないくらい、この感謝の気持ちを表す言葉を口に出して言っていて、身についている言葉だからです。ただ短くて覚えやすい、ではないと思うのです。同じように他の言葉も、何度も言えば身につくと思います。

——読者に向けて一言お願いします。

 この本は、『呪術廻戦』が好きで英語に興味がある人ならば、初級者も上級者も関係なく手に取れる本です。音読するにしろ、初級者の方は数時間かけて読む、上級者の方はその半分の時間で読むなど、自分にあった目標を自由に設定して取り組んでください。
 先ほどお話ししたように音読がおすすめではありますが、やって無駄なことは何もないです。英訳を書き写して暗記する方法もありだと思います。自分なりに勉強法を考えて自分の好きなように学習してください。最初のページから読まなくてもいいんです。好きなキャラクターの台詞から読んでください。
 すでにある程度英語ができる人は、本書の英訳に対して「この台詞は違う英訳のほうがいい」と思うこともあると思います。それでいいんです。先ほども言いましたが、「英訳の答えは一つじゃない」ので。『呪術廻戦』はVIZ版という英語翻訳版も出版されていますが、こちらは本書とは違って漫画の「フキダシ」の中にうまくおさまることも計算の上で台詞が英訳されています。ですから本書とは違う英訳がたくさんありますので、見比べてみるのも面白いと思います。『呪術廻戦』のVIZ版は書店でも発売されていますが「Langaku」(https://langaku.app/)というアプリでも読むことができます。このアプリ、表示される「日本語と英訳の割合」を変更できたり、「英語の発音」を聴くこともできるので面白いですよ。
 本書を使って『呪術廻戦』ファンの友達と一緒に出題しあったり、誰が一番かっこよく言えるか競っても楽しそうです。学校の教材にしてもいいと思います。授業が始まる前のウォーミングアップとして“Repeat after me - Domain expansion!”を5、6回ほど繰り返すとか。いや、冗談ぬきで(笑)。シンプルだからこそ色々な勉強法が試せるのではないでしょうか。
『呪術廻戦』ファンのみなさんが、気軽に英語に触れあうきっかけになればと思います。

『呪術廻戦』 登場人物紹介:

虎杖悠仁(いたどりゆうじ)
呪いの王・両面宿儺の指を飲み込み、呪力を手にした高校生。呪いを学び、呪いと戦う東京都立呪術高等専門学校(呪術高専)に転入し、呪術師として生きることになる。

狗巻棘(いぬまきとげ)
東京都立呪術高等専門学校2年生。言葉に呪いをこめる「呪言師」の末裔。不用意に相手を呪わぬよう、普段の会話の語彙は「おにぎりの具」のみ。

パンダ
東京都立呪術高等専門学校2年生。東京校学長・夜蛾(やが)が作った、突然変異呪骸(じゅがい:呪いを宿すことで自立している、人形などの無生物)。見た目はパンダだが、人語をしゃべる。

東堂 葵(とうどうあおい)
京都府立呪術高等専門学校の3年生。虎杖を気に入っている。

五条 悟(ごじょうさとる)
自他ともに認める現代最強の呪術師。呪術高専1年の担任で、虎杖たちを指導している。

七海建人(ななみけんと)
呪術高専卒業後、一般企業に勤めるが、脱サラして呪術界に出戻る。呪術師ではめずらしいとされる常識人。

両面宿儺(りょうめんすくな)
平安の世に実在し、人々を恐怖に陥れた呪いの王。死後も体の一部が「特級呪物」となって世を脅かしている。虎杖の肉体に受肉し、1000年の眠りから目覚めた。

漏瑚(じょうご)
大地への恐れから生まれた呪い。灼熱のマグマや炎を武器に戦う。「呪いの時代」を築こうとしている。

 

著者プロフィール

北浦尚彦(きたうらなおひこ)

1972年生まれ。東京都出身。上智大学外国語学部卒。
英語講師、国際コンベンションコーディネーターなどを経て、現在は外国政府系の貿易関係機関に勤務する傍ら英語学習書の執筆などを行う。
著書に『『ジョジョの奇妙な冒険』で英語を学ぶッ!』、『『ジョジョの奇妙な冒険』で英語をもっと学ぶッ!!』(集英社)など。

『呪術廻戦』で英語を学ぶ!

原作:芥見下々 訳・文:北浦尚彦

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