〈 刊行記念インタビュー 〉

1秒オーラ 好意はなぜ発生するのか

佐藤綾子さん

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佐藤綾子さん

自己表現のプロに、わずか1秒で相手の心をつかむコツを聞く

「あの人はオーラがある」とは、よく聞かれる言葉。
確かに、大勢のなかでひときわ輝いている人に気付かされることはある。そのオーラの正体とはいったい何なのだろう。また一瞬で相手の心をつかむために必要なこととは?
パフォーマンス学の第一人者であり、198冊目の著書『1秒オーラ 好意はなぜ発生するのか』を刊行した佐藤綾子さんに聞いた。

構成=永田さち子/撮影=徳山喜行

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――非常に多くの本を執筆されてきた佐藤さん。198冊目のこの本では、どのようなことを伝えたかったのでしょう?

「オーラ」と聞くと、怪しい宗教かスピリチュアルなものを連想される方は少なくありません。しかし実際には会った瞬間に、「この人はできる人だな」とか、「明るい人」「優しそう」と好意を抱くことがあるのも事実です。
 私は、パフォーマンス学のパイオニアとして、顔の表情や動作などの非言語表現について、膨大な実験データを集めてきました。さらにここ数年、量子力学の専門家による研究実績も加わり、一瞬の「オーラ」についての科学的仕組みが明らかになってきています。この本では、
・1秒とは、どんな時間なのか? その間に伝わるオーラとは?
・1秒をうまく使い、相手から好意を抱かれるにはどうしたらいいのか?
 この2つを知ることで人生の時間が有意義になり、賢明に振る舞えるようになることをお伝えしたかったのです。

――パフォーマンス学とは、どのような学問なのでしょうか?

 ひと言でいえば、自己表現を科学すること。パフォーマンスは、意図して組み立てられた自己表現です。人は何も考えずに表現することはありません。「優しく見せたい」「温かく見せたい」「偉そうに見てもらいたい」など、自分をよりよく見せたいという何らかの意図をもって行動しています。劇場のステージであれば、観客に向かって表現すればいいでしょう。実社会では常に誰かから見られています。つまり、社会においては自分が行くところ、いる場所がオンステージということ。だからこそ、自分という人間の善性、つまり良いところを込めた一瞬一瞬の表現が必要になってきます。
 いい感じの空気を醸すのも、オーラが出ないのも、すべて意図されていると考えるべき。善性でない、悪性の自分を見せるのはやめたほうがいい。このように、自己表現を科学するのが、パフォーマンス学です。

――「1秒オーラ」の“1秒”って、どんな時間? 一瞬で視覚がキャッチするものとは?

 アメリカの心理学者ティモシー・ウィルソンが面白い発表をしました。たった1秒で人は1100万要素の情報を五感から得ることができ、そのうちの1000万要素以上を視覚だけでキャッチしているというのです。さらにそのなかの40要素を脳で処理しているといいます。「まさか1秒で?」と驚かれますよね。また、「残りの999万9960要素はどこへいったの?」と思われるでしょう。それらは無なかったと同じこととして、脳には残りません。
 目から入ってくる非言語情報には、「速い」「正確」「持続する」という特性があります。つまり、第一印象がいかに大切かということ。一瞬で「かわいい」「賢そう」「きつそう」などと判断されるわけです。だったら1秒の魅せ方をできる限り努力して、相手にいい印象を与えるほうがいいと思いませんか。それが、人間関係において素晴らしいチャンスをつかむコツなのです。

――キャッチした膨大な情報を、人はどうやって取捨選択しているのでしょう?

 視覚には意思による選択性があり、好きなものは目が動いて追いかけるし、興味がないことは見なかったことにします。散歩をしていて、犬好きの人はかわいい犬が気になるけれど、塀の上の猫の姿は見えないでしょう。人は1秒で膨大な情報をキャッチしますが、脳が実際に処理するのはたった40要素。あとは目には入ったけれど、見なかったことにする。脳によって振るいがかけられ、見たいもの、興味があるものしか分析しません。目と脳は、自分に都合がいいようにできているのですよ。

――実際に見て感じる「オーラ」とはどんなものですか?

「オーラ(aura)」とは、一般的に人または物が発する光のことをいいます。このオーラで重要な役割を果たしているのがフォトンです。フォトンは光子とも呼ばれ、量子力学的にはこの世に存在する最も小さな粒子のこと。量子力学は視覚情報以外に伝わっていくことが実証されています。私たちの意識も感情もフォトンでできていて小さな粒子を発信し、それを見て人はオーラを感じているのです。
 このオーラは、強く出ている人と弱く出ている人がいて、内にある心と外に出る視覚情報が一致して初めて相手に届き、「オーラがある」と判断されます。なぜなら、そこに嘘がないから強いのです。誰でも嘘をついていると気持ち悪いでしょう。それがないから気持ちがいいし、相手にも伝わります。

――では、好意はなぜ発生するのでしょうか。好意を相手に伝えるために必要なこととは?

「好き」というのは「好ましく思う気持ち」ですが、バリエーションがあります。①関与の欲求が「関心」、②親和欲求が「親しみ」、③おもに異性に対する愛の欲求が「エロス」、④神の愛のような崇敬愛が「Agape(アガペ)」と呼ばれるもの。そして、⑤自尊欲求、承認欲求が「リスペクト」です。このうち2番目の誰かと親しくなりたいと願う「親和欲求」が好意に近い感情で、社会で生きる多くの人が持っている基本欲求です。
 親しみの感情を伝えるには、「自分はシャイだから」とか「引っ込み思案でうまくしゃべれない」とか、心配する必要はありません。スマイルを増やす、アイコンタクトを送る、相手との距離を狭める、親しみのある話題を持ち出すなど、パフォーマンスを高めればいいのです。例えば、相手の名前やし好、興味など、その人がいちばん気にしていることや共通項を見つけておくのもいいでしょう。このように、これから会う人に対して何か心の準備ができていると、たった1秒でも関わりたいと思う気持ち、つまり好意が伝わります。


『1秒オーラ』P85「いい第一印象のコツ」より

――相手から関心を持たれる、好意を持ってもらえるプラスオーラのために必要なことを教えてください。

 誰にも生きていきたいという生存欲求があり、生きていくには明るいオーラが必要です。そして、大脳皮質のなかで相手を判断するミラーニューロンは明るい光、つまりプラスオーラが好き。「大丈夫」「できる」「うれしい」「感謝」の気持ちはプラスオーラを生み出し強い光を発します。一方で、「ダメだ」「嫌い」「イライラする」「放っておいて」という気持ちはマイナスオーラとなって、噴出する光も弱いのです。しかめっ面や不機嫌は外に出さないこと。初めて会う人にそんな顔を見せたら、「拒絶された」と思われてしまいますよ。
 大勢の人が集まる会場では、なるべく明るい光の下にいること。そうすれば自然と人が集まってきます。対面の場だけでなく、オンラインやリモート会議の場でも同様です。画面に映る自分の顔を明るく照らし、背景もきちんと整理しておくこと。これも大切な準備のひとつです。


『1秒オーラ』P112 「オーラとバイオフォトン(生体光子」より

――最後に、ご自身が1秒で魅せるオーラのために心掛けていることを教えてください。

 いつも笑顔でいること、周りの人に大きな声で話しかけることでしょうか。じつは子供の頃の私は体が弱くて成績も悪く、つい暗くなりがちでした。「自分には何も取り柄がない」と思っていた時、担任の先生から「いつもニコニコしているだけで友だちから好かれるぞ」と言われたのがきっかけです。なんとかニコニコしていたら、なんと学芸会の主役に選ばれたのです。それからは笑顔でいると、自分も見ている人も気持ちがよくなることに気付きました。意識して口角を上げるだけでも幸せな気持ちになるのですよ。
 最初から明るいオーラ全開の人は多くはないでしょう。自分を大切に思う自己愛は、他者愛に通じます。幸せな気持ちや、いいものがあれば、ほかの人にも教えてあげたいと思うのが人間です。自分が嫌いな人は隣の人も愛せません。自分もほかの人も愛していくことが、人間が生きていくよりどころではないでしょうか。私は朝、起きたときに必ずリビングに正座して、「パフォーマンス心理学によって日本中のみんなをハッピーにできますように」と祈ることを日課としています。
 永続する自己表現の根幹は、紀元前4世紀にギリシャ哲学者アリストテレスが説いた「大善(agathos アガトス)」つまり、「万人によきもの」だと思っています。これは現在、盛んに叫ばれている「SDGs(持続可能な開発目標)」に通じるもの。大善が守られていれば、すべてが成功するはず。そういう意識とともに、本書が一瞬のオーラで相手の心をグイッとつかんでいくきっかけになるとうれしいですね。

 

著者プロフィール

佐藤綾子

長野県生まれ。信州大学教育学部卒。ニューヨーク大学大学院パフォーマンス研究科卒(MA)、上智大学大学院英米文学研究科卒(MA)、同博士課程修了。立正大学大学院心理学専攻、博士(パフォーマンス学・心理学)。日本大学藝術学部教授を経て、ハリウッド大学院大学教授、(社)パフォーマンス教育協会理事長、(株)国際パフォーマンス研究所代表。自己表現力養成セミナー「佐藤綾子のパフォーマンス学講座®」主宰。パフォーマンス心理学の第一人者として、累計4万人のビジネスリーダー、首相経験者を含む国会議員のスピーチ指導を行う。
おもな著書に、『自分をどう表現するか』『一流のリーダーがやっている部下のやる気に火をつける33の方法』『できる大人の「見た目」と「話し方」』『トップリーダーに学ぶ人を惹きつける「自分の見せ方」』『30日間で生まれ変わる! アドラー流 心のダイエット』『10秒で好かれるひとこと 嫌われるひとこと』『成功はPQで決まる 今、ビジネスに必要なのは自己表現力「PQ」だ』など、累計326万部。
http://www.spis.co.jp/

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