〈刊行記念インタビュー〉

『絵馬で開運! しあわせごはん暦』

永崎ひまるさん

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永崎ひまるさん

旬の食材をおいしく、楽しく食べれば開運につながる。絵馬師として初めて「神道文化賞」を受賞した著者が、29枚の描き下ろし絵馬とともに、12カ月二十四節気の口福開運レシピを紹介する1冊。

稲作文化の歴史とともに多くの日本人は八百万の神さまを信じてきました。そのため、古代から神道とごはんには深いつながりがあります。「まずは絵馬を見て目で開運、次に旬のおいしいごはんを食べればダブルで運を引き寄せられます」と著者の永崎さん。おいしいものを食べて不機嫌になる人や、不幸になる人はいない。この本は、暮らしと食事のなかで季節と暦、旬を感じることが、開運への第一歩であることを気付かせてくれます。

構成=永田さち子/撮影=徳山喜行

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――本書のために描き下ろされた絵馬は、全部で29枚。二十四節気を紹介する絵馬には、神話でおなじみの神様や旬の食材だけでなく、ボジョレーヌーボーやお釈迦様まで登場し、ページをめくるだけで楽しくなってきますね。

 絵馬はもともと神様へ願い事を書いて送る、葉書みたいなものなんです。今回は、春・夏・秋・冬、12カ月二十四節気に合わせて立春、春分など、1カ月に2枚ずつの絵馬を描きました。二十四節気はもともと中国で発明された、1年を四季と気候などの視点で区分する方法ですが、日本語で発音するととてもきれいな言葉が多いことに気付きます。たとえば師走(12月)に登場する「大雪」は、「おおゆき」ではなく「たいせつ」。そんなところにも魅力を感じ、私自身のなかにある季節と天体のイメージから構成しました。できるならもっと細かくして、七十二候を描きたかったくらいです。
 レシピも、すべてオリジナルで、それぞれの季節に合わせた食材とともに紹介しています。季節と行事、開運の話、さらにその時期に旬を迎える食材も紹介していますので、お料理本と歳時記、ご利益が一緒になった、よくばりな本になっていると思います。

――「食べることによって、幸運が運ばれてくる」というお考えは、どこから生まれたのでしょうか?

 私の考えというより、自然界のすべてのものに神様が宿るという、八百万の神様を敬う日本人の宗教観から生まれたものです。私たちの体は、ほとんどが口から入った食べ物からできています。つまり、食とは「命」そのもの。食べることで生きるためのエネルギーを補っているだけでなく、食は楽しく生きるために必要な「運」も運んできてくれます。
 また、私たちの命も食べ物も、育つためには土や風、水や光といった自然と力と、四季が必要で、日本人ならではの考え方の根本に、稲作文化があります。稲作はもともと大陸から伝わったものですが、日本の土壌と季節に合わせて独自に進化し、宗教観にも大きく影響してきました。お米は生きるために絶対必要なうえ、1年に1回しか収穫できないこともあり、四季のある日本でどうやって稲を育ててお米を収穫するか、その流れから神道的な考えが生まれたといっていいでしょう。
 昔の稲作は今よりずっと自然任せで、人の手ではどうにもならない自然に対して、神様にお願いする思いが強かったはず。その証拠に、田植えの前に神様をお迎えする「御田植(おんたうえ)神事」や、五穀の収穫に感謝する「新嘗祭(にいなめさい)」といった神事のほとんどは、稲作に関係するものです。神様に献上するお食事「神饌(しんせん)」の主食はお米ですし、お正月に飾る鏡餅は年神様の居場所という考えです。しめ飾りにも稲穂を飾るでしょう。こんなふうに、神道とお米、つまりごはんはつながっているのです。歳時記や神事を見てみると、さまざまなところに人々がご飯をおいしく、お腹いっぱい食べるための祈りがあったことが感じられます。
 その祈りから作られたのが、暦なんですね。暦も稲作同様、中国から伝わったものですが、日本の風土に合わせて独自のものとなり、季節を楽しみながら厄を払う年中行事がたくさん盛り込まれています。そこで欠かせないのが行事食。つまり、行事食は「穢れ(ケ)」を祓う、「ハレ」の日のごはん。行事食を食べれば、厄払いと開運がいっぺんにできるという考えです。それを知ることこそが、「開運行動」の第一歩になるんですよ。

――ところで、「絵馬師」というのは耳慣れない肩書きですが、永崎さんが絵馬を描くようになったきっかけを教えてください。

 私はもともとグラフィックデザイナー出身。大学では服飾美術とコンピューターグラフィックを学び、卒業後は雑誌のエディトリアルやデザイン、文房具などのプロダクトデザインや、和食器のデザインなどを仕事にしていました。20年以上前のCGがようやくデザインの世界にも浸透し始めた時代。ゆくゆくはアメリカに渡って学び、働くことも考えていました。ところが、体調を崩して仕事をお休みすることになってしまい、「これから自分は何をやっていけばいいのだろう。これまで、本当に命を懸けてやるべきことをやっていたのだろうか」という想いのなかで出合ったのが、絵馬を描く仕事です。
 まったくの偶然なのですが、お守りや絵馬のデザイナーを募集している会社があり、昔から神社やお寺が好きだったので、これも何かのご縁かもと思い応募したら運よく採用していただきました。神社関係の授与品を扱っている会社は老舗が中心です。デザイナーも日本画を専門としている方たちが多く、その中で私は異色の経歴でした。正直なところ、なぜ採用されたのか自分でも不思議だったのですが、「なにか、きらりと光るものがあった」と言っていただきました。当時、お守りや絵馬にもパソコンを使ったデザインが導入され始めた初期だったこともあり、今までそういう世界にいなかった私のキャリアが注目されたのかもしれません。

――異業種からの転身で、苦労されたことはなかったのでしょうか?

 それまでパソコンを使う仕事が中心で、手描きの仕事はほとんどしたことがありませんでした。初めて手描きで絵馬を描いたときにはなかなか勝手がつかめなくて、慣れるまでに2~3年かかりました。絵馬には特殊なバランスがあり、単に絵がうまいというだけでは通用しない部分があります。はじめのうちは干支の絵馬を何十枚も描いても採用してもらえず、悩みましたよ。なんとなく違和感はあるものの、自分でもどこがよくないのかわからないんです。
 上手い人の絵馬を真似したり、先輩が残されたものを徹底的に研究し、2年くらい試行錯誤を続けているうちに、少しずつ認めてもらえるようになりました。各神社によって、昔ながらの伝統的な絵柄を好まれるところがあれば、現代風の作風を求めているところもあります。苦労したことでそのどちらにも対応できる絵馬が描けるようになったことが、結果的によかったのでないでしょうか。

――名だたる神社の大絵馬を描かれるようになり、絵馬師として初めて「神道文化賞」を受賞されたそうですね。

 本格的に絵馬師としてやっていこうと思ったのは、京都・北野天満宮の大絵馬を描かせていただいたことがきっかけです。原画は90歳を超える高名な日本画家の方のもので、それを通常の絵馬の何倍もの大きさに模写する仕事。自分から「描きたい」と手を挙げてひとりで担当させてもらいました。その大絵馬を完成させたときに、今まで感じたことがない達成感があったんです。それからは少しずつ神社のほうから直接、奉納絵馬などのご依頼を受けるようになりました。
「神道文化賞」は、神社や神道の文化を広める意義ある活動を行った功労者に贈られる賞で、大絵馬を描かせていただいたとある神社の宮司さんの推薦があり、いただきました。ほかの受賞者の方々は、大きな神社の宮司さんばかり。授賞式に出席したら、ものすごいオーラを放つ方ばかりで、すごく緊張しましたよ。あのときの緊張感は今でも忘れられません(笑)。でも、そういう方たちとテレビ番組などでご一緒する機会もあり、今でもいろいろ教えていただいたりしています。

――永崎さんと絵馬との出合いにも、なにかご縁を感じますね。改めて本書を拝見すると、絵馬を見て旬のご飯を食べるだけで、本当に開運につながりそうな気がしてきました。どんな方に手に取ってもらいたいですか?

 この本は世代を問わず、さまざまな年代の方に読んでいただき、日本古来の年中行事を見直して、旬の食べ物に興味をもっていただくきっかけになればうれしいです。たとえば、朝出かけるときに見て、「今日はどんな日なんだろう」と歳時記を感じるとか、「今日は何を食べようかな」と迷ったときにその日のメニューの参考にするとか。ふと気が付いたときに手に取って、それだけで運気がアップするなら、こんなにお手軽で楽しいことはないと思いませんか。クリスマスがあって、年越しをして、節分を迎えて……。ハロウィンも、ボジョレーヌーボーも受けれ、八百万の神様を敬って、他国の神様もウェルカム。そんなおおらかさが日本人のいいところ。神道に詳しい方には怒られてしまうかもしれないですが、ほほえましくて、可愛らしいところだと思うんです。

 じつは私、小学生の頃から料理が大好きで、大学は栄養学部に進んで栄養士になるつもりだったんです。高校の進路指導の先生に、「絵がうまいのだから、美術系の大学に進んだ方がいい」と言われデザインを学んだのですが、そのアドバイスがなかったら今、絵馬を描いていなかったと思うと不思議な気持ちです。今回の絵馬を描いていて感じたのは、料理への興味、デザインを仕事にしていた頃のキャリアと感覚、和食器のデザイン用に描いていた植物とか、これまでのすべてがつながって、絵馬師という今の自分があるということ。この本は、これまでの集大成といえるかもしれません。
 神道のお話とか、日本古来の伝統行事は難しいと思われる方もあるかと思うのですが、きっちりやると辛くなってしまうから、楽しいこと、おいしいことをゆるくやっていくのがいいというのが、私の考え。歳時記や年中行事を暮らしのなかに取り入れる楽しさをを知り、次の世代につなげていく一助になればと思っています。

著者プロフィール

永崎ひまる(ながさき・ひまる)
絵馬師。
平成27(2015)年度「神道文化賞」を、絵馬師として初受賞。「伊勢神宮崇敬会 開運絵馬」「出雲大社 令和開運大絵馬 大国主大神と鼠」「宗像大社 世界文化遺産登録記念大絵馬」「霧島神宮 御本殿造営三百年記念大絵馬」「賀茂御祖神社大絵馬御手洗川下鴨情景」「乃木神社 干支大絵馬」「甲斐國一宮淺間神社御鎮座壱千百五十年記念大絵馬」「万九千神社 万九千社正遷宮記念大絵馬」「東京大神宮 令和記念大絵馬」「神田明神 神田神社だいこく様大絵馬」などを奉納。神社以外では、羽田空港第3ターミナルに「羽田空港大絵馬 鳳凰と富士」、出雲縁結び空港に「ご縁結び大絵馬」も展示。
埼玉県小川町のふるさとアンバサダー(大使)、出雲観光大使を務めるほか、『朝ごはんLab.』『おはよう日本』(NHK総合)、『news zero』(日本テレビ系)などへの出演も多数。
おもな著書に、『アラン・デュカス 秘密のレシピ』(グルマン世界料理本大賞2014イラストレーション部門のグランプリ受賞)、『ハッピー!! 開運神社めぐり』『1日1分見るだけで願いが叶う! ふくふく開運絵馬』など。グラフィックデザイナーの経験を生かし、和風画家として、ワイン、日本酒のラベルデザインを手掛けるなど、多岐にわたるジャンルで活躍中。

『絵馬で開運! しあわせごはん暦』

永崎ひまるさん

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