開高健ノンフィクション賞

第10回開高健ノンフィクション賞 受賞作品

  • 【受賞作】

    『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』

  • 【受賞者】

     佐々 涼子

  • 【作品概要】

     外国人が日本で亡くなったら遺体はどうなるのだろう。日本人が外国で亡くなった場合はどうするのか。かつて日本語教師をしていた私は、ずっとそのことが気がかりだった。そこで調べてみると、国境を越えて遺体や遺骨を故国へ送り届ける「国際霊柩送還」という仕事があり、エアハース・インターナショナル株式会社が日本初の専門会社であるというのだ。エアハースの創業者は会社を興す前に働いていた葬儀社で1995年、ネパールで遭難した邦人トレッカーの遺体入国業務に携わる。その後、エジプト・ルクソール襲撃事件の被害者、パキスタンの車両転落事故の犠牲者、イラクでの外務省職員襲撃事件における職員の遺体を搬送している。さらに2003年の会社設立以降はスマトラ島沖地震、パキスタン邦人教職員殺害事件、ミャンマーでのフリージャーナリスト殺害事件、アフガニスタンの国際援助団体の職員殺害事件の国際霊柩送還を担当する。新聞に報道されるような大きな事件、事故では必ずといっていいほど彼らの働きがあるのだが、それが表に出ることはない。なぜならそれは死を扱う仕事だからだ。
     私は彼らの仕事の実際を知りたいと取材を申し込むが、遺族感情を第一に考えるエアハースに断られ続けていた。しかし一方で国際霊柩送還業の発達している欧米とは異なり、日本ではこの仕事があまり知られておらず、専門知識の乏しい業者によるトラブルが頻発していた。そのことに心を痛めた社長、木村利惠はこれ以上悲しむ遺族が出ないようにと、私の取材に応じることにしたのである。
     邦人の遺体は海外の葬儀社の手によって送り出され、航空便の「貨物」として日本に戻って来る。空港に着いた遺体はエアハースの処置により穏やかな表情に整えられて、遺族のもとへ送り届けられる。そして外国人の遺体は、彼らの宗教、習俗を尊重した形で日本から送り出される。  遺族、新入社員、創業者、ドライバー、二代目、そして取材者。国際霊柩送還に関わるそれぞれの立場から、死とは何か、愛する人を亡くすとはどういうことか、が語られる。そして、エアハースはニュージーランド地震、東日本大震災、台湾人留学生殺人事件と、次々と大きな事件、災害に直面することになる。取材と時を同じくして2011年、我々日本人は東日本大震災における多くの死と向き合うことになった。エアハースで働く人の後ろ姿は、そんな我々に弔いとは何かを問い直しているように見える。

佐々 涼子(ささ りょうこ)

 1968年神奈川県横浜市出身。早稲田大学法学部卒業。日本語教師を経てフリーライター。著書に『たった一人のあなたを救う 駆け込み寺の玄さん』(KKロングセラーズ)、編集協力として『日本一のクレーマー地帯で働く日本一の支配人』(三輪康子著/ダイヤモンド社)。

『エンジェルフライト国際霊柩送還士』
1,575円(税込)
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