株式会社ハピキラFACTORY代表取締役社長
正能茉優さん の「マイ・ストーリー」
私の信念は、自分も社会も幸せにすること。

 大学3年生のときに、「かわいい」を入口に地域を元気にする「ハピキラFACTORY」という会社を起業しました。現在は、その代表を務めるかたわら、大手電機メーカーの正社員、そして大学院の特任助教としても活動するパラレルキャリアという形で働いています。
 最初から、いくつもの仕事を同時に持つ生き方を目指していたわけではありません。自分の会社をはじめたのは、大学時代に長野県小布施町のまちづくりインターンに参加して、その後も通ううちに「小布施の魅力を、もっと伝えたい!」と考えるようになったことがきっかけでした。そのときに着目したのが、小布施の名産品でもある栗菓子です。中身はとてつもなくおいしくて、渡しやすい大きさで、しかも創業して100年の老舗というストーリーもある。友人へのお土産に買うことも多かったのですが、ひとつだけ気になっていたのが、そのパッケージでした。当時女子大生だった私にはあまりかわいいと思えるパッケージではなく、渡すときもちょっと微妙な雰囲気になってしまうのがすごく残念で。そこで、中身はそのままに、自分と同世代の女性がすすんで手にとりたくなるようなパッケージを開発し、バレンタインギフトとして発売しました。これが「ハピキラFACTORY」という会社のはじまりです。メディアにも取り上げていただき、たくさんのお客様が来てくださって、無事2000個の商品を売り切りました。
このプロジェクトを終えて驚いたのは、私個人の思いではじめたプロジェクトにもかかわらず、長野県や小布施に住んでいる方、そしてご出身の方から予想以上の反響があったことです。自分のやりたいことが、自分の大好きなまちを元気にすることにもつながっていったことに力を得て、「『かわいい』を入口に、地域を元気にする」という「ハピキラFACTORY」で実現したいことも固まりました。

 大学卒業後は、広告代理店を経て、現在の会社に入社し、いまは商品企画の仕事にたずさわっています。よく「パラレルキャリアって、忙しいでしょう?」と聞かれるのですが、「仕事ばかりしている」という感覚は自分ではありません。家族や友達、恋人と過ごす時間も大切なので、それぞれにかける時間を考えながら、自分が心地よく生きていける人生配分を常に考えるようにしています。
ただ、この先、結婚したら、子どもが生まれたら、両親の介護が必要になったら、と考えると、大事にしたいことがもっと増えるかもしれないし、優先順位も変わってくると思うんです。そんな時も、“仕事以外のことも大切にしながら、社会で働く”には、今のうちに、社会で必要とされる人物になっておく必要があると考えています。そのため、今は仕事にかける比重がやや大きいです。
 大学で特任助教になったのは、「“仕事をつくる”ことで、人生の主導権をもてるようになる。それは自分らしく生きるための選択肢のひとつだよ」と伝えたかったからです。プロジェクトの相談に、就職の相談、はたまた恋愛相談まで、学生たちとは本当に多くの時間を過ごしていますが、私自身、社会から多くのことを借りてここまでやってきたという思いがあるので、自分にできることで少しずつ社会に返していけたらいいなと思っています。「社会との貸し借り」のバランス感覚は、大事にしたいですね。

『マイ・ストーリー』を読んで驚いたのは、自分よりずっと人生の先輩で、大統領夫人にもなったような方が、20代の私たちと似た感覚を持っているということでした。バラクさんと結婚したあと、自分のキャリアと幸せな家庭のバランスを上手にとっていくために、ミシェルさんはすごく考えて、試行錯誤しながら戦っています。「大統領夫人のミシェルさ んですら、こんなに大変な想いをしたんだから、そのバランスをとるのって難しいんだな」と、すごく励まされました。厚みのある本なので、「全部読めるかな」と心配な方は、そのあたりがリアルに描かれている第二章から読みはじめて、最後に第一章に戻るといいかもしれません。私は二章で一気に惹き込まれ、勢いで他の章もどんどん読めてしまいました。
 ミシェルさんの人生の軌跡は、自分も社会も両方幸せにする最大公約数をどう勝ち取っていくかを教えてくれます。社会が変わるのを待っていたら、時間は進んでしまうばかりです。自らの手で、自分も幸せに、社会も幸せにできる勇気を手に入れられるよう、同世代やさらに次の世代の女性たちに、ミシェルさんのこの本をぜひ読んでみてもらいたいですね。

文/加藤裕子 写真/冨永智子