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Photo Essay 惑星巡礼 角幡唯介

白熊肉の味

更新日:2022/08/10

 白熊の肉は北極で食することのできる肉のうちで、狼とならんでもっとも旨い。というか、牛、豚、鶏、羊をふくめたあらゆる肉類のなかでも一番といってさしつかえないほどの味である。野生の肉なので部位によっては堅いが、味それ自体は一級だ。
 今回いただいた白熊肉は前脚で少々堅く、歯の隙間にはさまって食すのにつらいものがあるが、味は非常に美味である。白熊はとくに脂がうまい。ほんのりとした甘味があり、どこか国産牛肉のような上品さがあり、芳醇で、まさに王者の肉の味である。贅沢をいえば、背肉あたりのやわらかい部位がほしかったが……。
 白熊の肉は寄生虫の危険があり、村の人たちは数時間かけて徹底的に煮込む。海豹(あざらし)にせよ、海象(セイウチ)にせよ、イヌイットの肉料理は塩茹でが基本で、白熊もおなじだ。だが塩茹でにするとどうしても味が淡泊になるので、私は白熊だと薄切りにしてフライパンで炒めることが多い。ふっくらと炊きあがった白飯にオニオンスープを添えた白熊焼き肉定食はゴージャスのひと言だ。今回はじめてわさび醤油をためしたが、あっさりした風味がこってりとした肉の旨味とあい、相性がよかった。しばらくはまりそうだ。

著者情報

角幡唯介(かくはた・ゆうすけ)

1976年北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大探検部OB。2010年『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』(集英社)で第8回開高健ノンフィクション賞、11年同作品で第45回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。12年『雪男は向こうからやって来た』(集英社)で第31回新田次郎文学賞。13年『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』(集英社)で第35回講談社ノンフィクション賞。15年『探検家の日々本本』(幻冬舎)で毎日出版文化賞書評賞。

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