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思春期でこぼこ相談室 教えて大下先生! 母娘が幸せに生きるための12か条

【連載9】 どうする!? 問題行動が心配なとき〈その1〉

更新日:2018/12/26

Q タバコと飲酒で補導され自宅謹慎に。一応、反省していたものの、洗濯機に放り込んでいた娘の服のポケットにタバコが。喫煙していたことはもちろん、すぐにボロを出すワキの甘さにも呆れます。

A ちょっとした好奇心で始めた喫煙や飲酒にハマり、あっという間に依存症になってしまう子どもは多いんですよ。周りの大人たちが節制し、タバコが手に入らない環境にすることが最も重要です。依存に走りやすい思春期脳に、がまんを覚えさせる鍵は運動習慣。週1回1時間の運動プログラムで、自己抑制能力が高まったという実験もあります。

 未成年が喫煙や飲酒に手を出すきっかけは、家族や先輩、友達など周りの人の影響が大きいです。身近な人がタバコを吸ったり、お酒を飲んだりしているのを見ると、そりゃあ子どもたちの好奇心はかき立てられますよ。覚醒剤や危険ドラッグなどとは違って、20歳になれば合法的に使用できるタバコやお酒は抵抗感が少なく、ちょっとワルぶってみるにはちょうどよいアイテムなんでしょう。
 しかし、思春期の脳は脆弱で大人よりも依存症に陥りやすい。軽いノリで手を出したタバコやお酒にあっという間にハマってしまい、やめられなくなるリスクは非常に高いです。ニコチンの依存性は強く、成人なら初回喫煙から常習喫煙になるのに2~10年かかるのに対し、未成年は2週間~2カ月のきわめて短期間で陥ってしまうことがわかっています。アルコールについても同様で、飲酒開始年齢が若いほどアルコール依存症に陥りやすく、20代でアルコール依存症になった人のほとんどが、10代で習慣的な飲酒を始めていたという調査もあります。
 そもそも、思春期の脳はがまんが苦手なんですよ。「がまんしなさい」という指令を出すのは、脳の前頭葉にある「46野」という部位ですが、思春期はここが未熟。だから、悪いとわかっていても、ついついやっちゃうんですね。

 自己抑制能力を調べる「GO/NO‐GO課題」という有名なテストがあります。赤いライトがついたらボタンを押し、黄色いライトがついたらボタンを押さないといったテストを次々に行い、「状況に応じて適切に行動する(GO)」と「適切に自制する(NO‐GO)」の能力を判断します。海外でのいくつかの研究では、8~20歳の結果を比べてみると、回答の正確さにはそれほど差がなかったものの、反応を抑制するスピードは8歳の子どもより、思春期の若者のほうが大幅に遅れました。つまり思春期は、何かをしないと判断するのにめっぽう時間がかかるのです。
「GO/NO‐GO課題」を使った信州大学、松本短期大学、諏訪東京理科大学の長年にわたる共同研究では、子どもたちの自己抑制能力が確実に低下してきていることが報告されています。そこで同研究では、毎日20分間本を読み聞かせる子どもたちと、週1回1時間の運動プログラムを行う子どもたちに分け、10カ月継続した後にテストをしたところ、運動をしたグループのほうは誤反応が著しく減りました。
 同じプログラムを不注意、多動、衝動性が特徴である発達障害のADHDの子どもたちにも行っているのですが、注意力や衝動を抑える力が伸びたという結果が得られたそうです。ADHDの子どもは、ゲーム、スマホ、買いもの、エナジー系ドリンク、さらに言うと、喫煙、飲酒、ギャンブル、ドラッグなど、続けるうちにいつしかそれにどっぷり依存してしまう傾向が強いのですが、運動を習慣にすることで、依存症の予防につながることも期待されています。
 ハマりやすいのはADHDの子に限ったことではなく、連載第3回でもふれたように、そもそも思春期はハマりやすい脳をしています。というのも、脳は生涯にわたり変化する〝可塑性〟を持っているのですが、とくに10代の脳は可塑性に富んでいて変化しやすい時期であるがゆえに、嗜癖(しへき)に陥りやすいのです。

 一方、この可塑性を学習に向けることで、脳の中に正しい知識のネットワークを作ることももちろん可能なわけで、喫煙や飲酒のリスクを子どもたちにきちんと語り聞かせていくことは、大人の責任です。
 1本のタバコには、4000種を超える化学物質が含まれ、その多くは有毒であり、せきやたんが出たり、息がくさくなったり、歯や指が黄色くなったり、持久力が低下したりします。長期的に吸い続けると、肺がんをはじめ、さまざまながんにかかりやすくなります。
 また、アルコールは記憶をつかさどる海馬のニューロンを殺し、海馬での新しいニューロンを作る能力を損なうということもわかっており、アルコールによる記憶障害は大人より10代で起こりやすいことが明らかになっています。さらに女性の場合は、将来妊娠した時の胎児への悪影響や、女性特有の病気のリスクが上がることも指摘されています。
 こういった助言も、親が自ら手本とならなければ、なんの説得力もありません。受動喫煙の問題もありますから禁煙は厳守。お酒は百薬の長ともいわれますが、2017年に英国のオックスフォード大学とロンドン大学の研究チームが発表した論文では、アルコール摂取量が適量とされている範囲(週に350mlの缶ビール8~12本相当) でも、海馬の萎縮が3~4倍高まると報告されています。私もお酒は大好きですが、脳のためにはかなり控えめにしたほうがよさそうです。
 また、依存の背景には不安や自尊感情の低下があるものです。もう一度自信を取り戻すことができるように、大人や社会がきちんとその子に向き合ってかかわっていかないと、依存からはなかなか抜け出せるものではないと思います。

Q 友達とグループで万引きをしていたことが発覚。おもしろ半分でやっただけと、悪びれもせず、とくに反省もしていない様子。将来、犯罪者になってしまうのでは!?

A 捕まるかもしれないというスリルは、思春期には麻薬と同じ快感になります。前頭葉を正しく育てることで、リスクとベネフィットを秤にかけて行動できる脳に育てていきましょう。

 思春期にもなると、万引きは犯罪だということぐらいわかっています。それでもしてしまうのは、おもしろ半分、ゲーム感覚、要するに〝捕まるかもしれない〟というスリルがあるからなんですよ。
 スリルは快感です。悪いことをしている時には、脳の神経細胞からドーパミンが放出され、前脳にある側坐核が反応して、自分の欲求を満たしてくれるものに近づこうとする「快情動」が生じます。側坐核は報酬系で「やる気スイッチ」ともいわれていますが、薬物依存などの依存形成にも密接に関係する脳の部位で、悪いと知りながらやってしまうのは依存症の心理と同じです。

 そのベースには、快楽に負けてしまう思春期脳の脆弱性があります。理性的な大人の脳ならば、リスクとベネフィットを秤にかけて、前頭葉が〝これは損だからやめておこう〟と判断し、行動にストップをかけるわけですが、何度もいっているように、思春期の前頭葉は機能がまだ十分には完成しておりません。そのため、しばしば快情動に負けてしまい、〝捕まったら学校や親に連絡されてこっぴどく叱られて少年鑑別所送りになるかもしれない〟という知識や経験があるにもかかわらず、行動を抑制できないのです。
 さらに、グループで行動する時は一人の時より抑止力となる前頭葉が働きにくく、エスカレートしてしまいがち。実際に、グループでふざけているうちに歯止めが利かなくなり、殺人にまで発展してしまった悲惨な事件もいくつかありましたよね。
「万引は犯罪だ」という知識はあるのに衝動を抑えきれなかった思春期の前頭葉が次に行うのは、自分の行動を正当化する理屈を作ることです。「うっかりしてお金を払い忘れた」「後で払うつもりだった」などちょっとした手違いだと言い訳したり、「親がゲームを買ってくれなかったから」「とられるような隙のある店が悪い」と他者に責任転嫁したり、「人を傷つけたわけじゃない」と罪の軽さを主張したり、「警察だって刑務所から犯人を逃がして問題になってるじゃないか」と叱る側の問題を挙げつらい責めにまわるなど、未熟な前頭葉をフルに働かせ自己弁護に努めるわけです。

 はてさて、親としてどうすればよいのでしょう。
 冒頭でもいいましたが、思春期の子どもは万引きが犯罪であることはわかっていて、表情には出さなくても〝まずいことをしてしまった〟という罪悪感も持っています。親ができることは、その理性的な部分を引き出し、成長させることです。思春期脳は理性を司る前頭葉がまだまだ発達途上ですから、根気よく育てていかなければならないのです。
 そのためには、まず子どもの前頭葉に言葉が届くような話し方を覚えてください。万引きしたことを叱らなくてはなりませんが、親があたふたしたり、感情むき出しで怒ってはダメ。思春期脳は恐怖に支配され、つたない前頭葉は防御のための屁理屈を考えることに終始し、親の言葉をしっかり聞いて理解し、反省する余裕がなくなってしまいます。
 まずは親が落ち着いて、子どもが万引きという犯罪を犯してしまったことを事実として受けとめます。そして叱るのですが、子どもの前頭葉が正しく働けるように、穏やかに語りかけてください。親の不安や怒りを解消するためでなく、子どもに反省を促し、成長してもらうために叱るのですから、冷静に冷静に。
 伝える内容は、「万引きは犯罪である。そのことは自分でもわかっているはず。人間には、やってはいけないとわかっていてもやってしまう弱い部分が誰にでもある。今回、その欲望に負けてしまったけれど、本来そんなことをする子でないこともわかっている。私はどんなことがあってもあなたのことは愛しているし、信頼している。だから、これからどうやってその欲望に負けないようにするか一緒に考えていこう」。このようなことを、自分の言葉で伝えてください。
 そして、子どもが万引きした理由を吐露したら、その言葉の裏に隠れている感情をくみとり、受容し、共感したうえで、一緒に欲望に負けない方法を考えていけばよいのです。
 決して、親の立場からの評価をしてはいけませんよ。「警察に呼ばれて恥ずかしかった」「親に恥をかかせて」「世間に顔向けできない」など、つい言ってしまいがちですが、子どもが立ち直ってくれるなら、親が世間からどう見られようといいじゃないですか。「こんなことをしていると犯罪者になる」「進学できなくなる」というネガティブな言い方もやめましょう。子どもの自尊感情を低下させるだけです。
 子どもが親の言葉を信頼して聞くようになるために、最も重要なことは、普段から親子の会話があり、子どもが親から愛されていると感じていること。何が起こっても、親は常に自分のことを信じていてくれて、味方でいてくれるという安心感が子どもにあれば、つまずいたり、失敗したり、一時的な過ちを起こしたりしても、必ず立ち直ってくれることでしょう。

構成/石丸久美子
漫画/はるな檸檬

著者情報

大下隆司(おおしも たかし)

精神科医。代々木の森診療所院長、神戸国際大学保健センター・特命教授、東京女子医大病院心身医療科児童思春期外来・非常勤講師、NPO法人メンタルケア協議会副理事長。
高校時代、学園紛争に身を投じ命を絶った女子大生・高野悦子の日記『二十歳の原点』(新潮社)を読んで感銘を受け、著者の母校である立命館大学の理工学部数学科に入学。学生運動に参加するつもりが、すでに運動は下火に。何をしていいかわからないままフラフラ留年。24歳で卒業後は、親の勧めで地元の市役所に就職するも、退屈して半年で退職。友人の紹介で高校講師に、1年後、京都市の教員試験に合格し晴れて中学校の数学教師になる。ときは校内暴力全盛期の頃、中学教師をしながら、山中康裕に師事しカウンセリングの勉強をスタート。29歳で教師を退職し、神戸大学医学部に再入学。中井久夫に師事し精神科医となる。
神戸大学病院、都立墨東病院、明石土山病院、兵庫県こども家庭センター、東京女子医科大学勤務を経て現職。
専門は、臨床精神薬理、心理教育、児童青年精神医学。
認定資格等:精神保健指定医、精神科専門医、産業医、臨床心理士。
「振り返れば中途半端なことばかり。大人になっても思春期の延長のような青臭さをひきずって、周りの人たちにたくさん迷惑をかけてきました。そんなハンパな自分だからこそ、できることもあるのではと、罪滅ぼしのような気持ちでやってます、ハイ。子どもと同時に親の悩みも聞き、教師の悩みも聞き、みんなが成長できるように関わることをこころがけ、その中で私も成長していければいいなと思っています」

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